銀魂連載 | ナノ
第百二十二訓 制服は二割増。何が?とあえて聞いてみる




「僕は近藤を追う」


ここにきて僕を裏切り、近藤を逃がした沖田君の粛清を周りに任せ、僕は電車から万斉殿のバイクの後ろへと飛び乗った。


「(土方まで今さら...それに朔夜さんに露見したのか)」


最後まで隠し通すつもりだったというのに...


「...あの女に隠し通せると思った時点で、主は一手見誤った」

「!」

「戦場という場において、吉田朔夜は誰より聡明でござる」


ただの女と、思わぬ事だ。

万斉殿の何かを知っているような口調が引っかかりつつ、分かったよ、とだけ答えた。


「(...だが、こんな場所にまで来るなんて)」


朔夜さん、僕の行動に気づいて、その上で君は僕の道を妨げるつもりなんだね。

それが、僕への君の答えかい?

…澄んだ水のように透明で、真っ直ぐに生きる、実に君らしい答えだよ。


「(だとしても、それでも僕はそんな君が欲しいし...愛しいんだ)」


だから僕も、戻らない…進むだけだ。


***


「奴らァ攘夷志士かァ!?どうやら事は内輪モメだけじゃねーらしいな」

「そのようだね...敵とまで内通してたとは正直驚いた」


此方への爆撃が酷くなってきたので、身体を全員車内に引っ込め、前方を観察する。


「近藤さんはァァ!!近藤さんは一体どこですかァ!!」


運転している新八君の言葉に、神楽が敵の向かっていく方角を指す。

それを聞いた瞬間、銀時が小生の身体を引いて、後は自分で何とかしろとトッシーの身体を車外へ押し出した。


「銀時なにしてんだい!?」

「ちょっと待ってよォォォォ坂田氏ィィィ!!こんな所に拙者一人置いていくつもりかァァァ!!それはさながら、ナメック星にヤムチャ氏を一人送り込み、宇宙の命運を託すが如き暴挙だよ!」

「大丈夫だ。お前はベジータだ。やればできる」

「坂田氏ィィィィ!!」


開け放たれた車のドアに捕まり引きずられながら当然の反論をするトッシーを、小生が身を乗り出さないよう支えながらげしげしと銀時は踏みつける。

その時、後方から聞こえてきたパトカーの警報音に顔を上げれば、一台のパトカーが隣につけてきた。

顔を出したの原田君だった。


「副長ォォォォ!!副長だァァァァ!!それに朔夜さんもォォォ!!副長と朔夜さんが無事だったぞ!!」

「いやけして今の状況は無事ではないよ原田君!!」


副長引きずられてるよ!?目の前で!!

突っ込んでいると銀時が、やっときたかとトッシーを引き渡しをしようと

仕事の依頼料用の振込口座のメモを渡そうとした。

だが、原田君の見事なスルースキルが発揮された。


「伊東の野郎、ついに本性を表しやがったか!!だが副長が戻ってきたからにはもう大丈夫だぜみんな!!」

「オイ、ちょっときいてる?ギャラはこの口座に」

「副長、敵は俺達が相手します!副長はそのスキに局長救いだしてください!」

「え、こんな状態なのに頼む!?」

「オイぃぃぃ待てェェェェ!!」


小生達の言葉を総スルーして原田君...というか、ここに来た真選組のメンバーは敵へと向かっていってしまった。


「オイきけェェハゲェェェ!!」

「っあーもう!!銀時仕方ないからやるよ!新八君車とばして!!行く手を邪魔するものは小生達が殲滅する!!」

「くそっ...手間がかかるぜホント!」


トッシーを車に乗せ直して扉を閉めてから、再び身体を外に乗り出して、空を旋回させていたカーラスを呼び戻し

ガトリング用の弾を食べさせて補充して、行く手を遮る車に撃ち込み爆発させる。

そして銀時、神楽もバズーカと傘を駆使し、同じように敵の車を破壊していく。


「!(前方車両と連結が切り離されてる...あそこか...!)」


目と鼻の先になった目標に目を向けると、銀時がそこにバズーカを撃ち込んだ。


「え、ちょ!?」

「近藤さん無事ですかァ!!」

「ダメネ、いないアル。ゴリラの死体が一体転がってるだけネ」

「(あれ近藤の旦那だからね!?)」


軽くコントをしている間に扉向こうで倒れている近藤の旦那が起きあがった。


「何すんだァァァァ!!てめーらァァァァァ!!」

「あっいた。無事かオイ。なんかお前暗殺されそうになってるらしいな、一丁前に」

「今されそうになったよたった今!!」


いきり立っていた近藤の旦那は、車内で怯えているトッシーに気づくと、驚いたらしかった。


「お前らまさかトシをここまで...ありえなくね!?朔夜さんは分かるが、お前らが俺達の肩を...」

「遺言でな、コイツの」

「...」

「遺言!?」


意味がわからなさそうな、近藤の旦那に説明を入れる。


「トシ、妖刀に魂を食べられてしまったんだよ。今のトシは、ただのヘタレたオタク...もう戻ってこない確率が高い」

「妖刀だと!?そんな...!!いや!!」


最近の不可解な行動に繋がったらしい近藤の旦那が、言葉を続ける。


「そ...そんな状態で...トシが、朔夜さんやお前らに何を頼んだんだ」

「「真選組護ってくれってよ/ほしいって」」

「面倒だし、朔夜を危険な目に合わせたくねーから、てめーでやれってここまで連れてきた次第さ。俺達の仕事はここまでだ。ギャラはてめーに振り込んでもらうぜ」


すると近藤の旦那は黙ったあと、貯金全て振り込むから、俺からも依頼があると言ってきた。


「これも遺言と思ってくれていい」

「!だん...」

「トシ連れて、このまま逃げてくれ。こんな事になったのは、俺の責任だ。戦いを拒む今のトシを巻き込みたくねェ」

「...旦那...卿は、」

「俺ァ、伊東に注意しろというトシの助言を拒んだ。さらには、些細な失態を犯したトシを、伊東の言うがまま処断した」


トシがどういう状態だったのかを、人知れず真選組を護ろうとしていたのも知らず処断したのを悔いているようだった。


「すまなかったなァトシィ、すまなかったなァみんな...俺ァ...俺ァ...大馬鹿野郎だ」

「っ...(死んで終わらせる?そんなの...)」

「全車両に告げてくれ、今すぐ戦線を離脱しろと。近藤勲は戦死した。これ以上仲間同士で殺り合うのはたくさんだ」

「っ大将がなに馬鹿な事...!」


反論しようとした時、トッシーがおもむろに車内の無線をとった。


「あーあーヤマトの諸君。我等が局長、近藤勲は無事救出した。勝機は我等の手にあり」

「!」

「局長の顔に泥を塗り、受けた恩を仇で返す不逞の輩。あえて言おう、カスであると!今こそ奴らを、月に代わってお仕置きするのだ」

「オイ誰だ?気のぬけた演説してる奴は?」

「誰だと?真選組副長、土方十四郎ナリ!!」


無線から返ってきた声に強くそう返すと、トッシーは無線を切って、近藤の旦那に話しだした。


「近藤氏、僕らは君に命を預ける。その代わりに、君に課せられた義務がある。

それは死なねー事だ。何が何でも生き残る。どんなに恥辱にまみれようが、

目の前でどれだけ隊士が死んでいこうが、君は生きにゃならねェ」

「(あれ、口調...)」

「君がいる限り、真選組は終わらないからだ。僕達はアンタにほれて真選組に入ったからだ。

バカのくせに難しい事考えてんじゃねーよ。てめーはてめーらしく生きてりゃいいんだ。俺達は何者からもそいつを護るだけだ。

近藤さん、あんたは真選組の魂だ。俺達はそれを護る剣なんだよ」

「!(帰って...きた...?)」


鋭くなった眼を横目に見て、これはトシだと悟った時、車の後方からエンジン音と声が聞こえた。


「一度折れた君に何が護れるというのだ」

「!(鴨...)」

「!...(朔夜さん...)」


振り返るとそこに万斉が運転するバイクに乗る鴨がいて目が合い、一瞬だけ微笑まれ胸がきゅっと苦しくなる。


「(...というかあの万斉がいるってことは...鴨が、交わったのって...まさか鬼兵隊と!?)」

「朔夜、どうかしたか?」

「!と、トシ...平気だよ...」

「そうか...」


考えていなかった繋がりに思考がもっていかれて茫然としていると、隣のトシに声をかけられたので慌てて思考を戻し、微笑む。


「(あぁ、やはり彼女は彼が...)...土方君、君とはどうあっても決着をつけねばならぬらしい」

「...剣ならここにあるぜ、よく斬れる奴がよォ」


不敵に鴨に笑い、トシは抵抗するらしい刀を抜こうとする。


「ぬぐっ」

「何モタクサしてやがる。さっさと抜きやがれ」

「だまりやがれ」

「(トシ...)」


抜けるのを祈りながら見守る。


「俺はやる。俺は抜く。なせばなる。燃えろォォ俺の小宇宙(コスモ)萌えろ...イカンイカン!イカンイカン!」

「(ちょっと心配になった今!!)」


そう思っている中、トシが後ろのフロントガラスを拳で割り

後ろのトランクの上にたって、バイクで追ってくる鴨と万斉に対峙した。


「朔夜に万事屋ァァァァァァァ!!」

「!」「なんだ?」

「きこえたぜェェ朔夜の声とてめーの腐れ説教ォォォ!!偉そうにベラベラ語りやがってェェ!!てめーらに一言言っておく!

ありがとよォォォォ!!」


背中を向けたままの珍しいストレートなお礼に、思わずキョトンとしたが、自然に笑みがこぼれた。


「!...えへへ、めずらしっ」

「オイオイ朔夜、奴ァまた妖刀にのまれちまったらしいな。

お前にならともかく、俺に礼なんざありえねー。トッシーか、トッシーなのか」

「ふふ、違うよ銀時...彼はもうトッシーじゃない」

「俺は」「彼は」

「真選組副長、土方十四郎だァァァァ!!」


僅かに刀を抜いたトシの空気が、やけに頼もしく思えた。


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