銀魂連載 | ナノ
第九訓 酔っているからと言ってゆるされないこともある



「あ、お朔さん。ちょっと良いですか?」

「うん、なんだい妙ちゃん?」


仕事を終え、小生が帰宅しようとしていると妙ちゃんに声をかけられた。

なんだろう...?


「明日お暇だったら、お花見一緒にしませんか?」

「...花見?」


こんな風に誘われたのは、はじめてだ。



***



「ハーイ。お弁当ですよー」

「ワリーな、オイ。姉弟水入らずのとこ邪魔しちまって」

「あぁ、姉弟で行くと知っていれば小生も遠慮したのだが...」


銀時の言葉に続き、小生も妙ちゃんを見つめる。


「いいのよ〜二人で花見なんてしても寂しいものねェ、新ちゃん?」

「まぁたまには大勢がいいよね」

「えぇ。お父上が健在の頃は、よく3人桜の下でハジけたものだわ〜」

「!そ、そうか(父上、か...)」


『父上』という単語に一瞬背筋が凍りつくような感覚がしたが、それを無理やり打ち消すと微笑んだ。


「?...さっ、お食べになって」

「じゃ、遠慮なく...」


パカッと、銀時がふたを開ければ中には黒焦げの何かが鎮座していた。


「「「「「...」」」」」

「?(食べないのかな...?)」


箸を取り出していると、5人の間に沈黙が下りていた。

小生が食べないのかと戸惑っていると、銀時が口を開いた。


「なんですかコレは?アート?」

「私卵焼きしかつくれないの〜」

「卵焼きか〜家庭の味の代表だな!しかし生来見たことのない形状の卵焼き...斬新だね」


小生がお重の中を覗き込んでいると、首根っこを銀時に掴まれ引きずり戻された。


「信じんな朔夜。“卵焼き”じゃねーだろコレは。“焼けた卵”だよ」

「卵が焼けていれば、それがどんな状態だろーと卵焼きよ。卵焼きだと認めるお朔さんを見習いなさい」

「卵が焼けて入れば卵焼き...!そうだったのか!一理あるね...!!」


小生の中に改革が起きたぞ...!と興奮していると銀時が冷めた目で見てきた。


「一理あるじゃねーよ。違うよコレは。卵焼きじゃなくて、かわいそうな卵だよ」

「かわいそうな卵...?そんな料理聞いたことがないが...」

「だから料理じゃな...」

「いいから男はだまって食えや!!」


ガパン!と派手な音を立てて卵焼きは妙ちゃんの手で、銀時の口に押し込まれた。

って、あ!全部食べられた!!


「銀時ずるいぞ!一人でそんながっつくなよ!!」

「朔夜さん、アンタ正気ですか!?」

「?なかなか美味そうじゃないか」

「眼科行けェェェ!!」


小生にも妙ちゃんにも失礼だな。

小生が不満げに思っている間に、今度は神楽が食べていた。


「これを食べないと私は死ぬんだ...これを食べないと私は死ぬんだ...」

「暗示かけてまで食わんでいいわ!!」

「止めときなって!僕のように目が悪くなるよ!」

「え、この卵焼きはそんな毒薬並の相乗効果があるのか?」


小生の目がこれ以上悪くなるのは、人類の損益だからな...食べなくて良かったかもしれない。

その時だった。


「ガハハハ。全くしょうがない奴等だな。どれ、俺が食べてやるからこのタッパーに入れておきなさい」


その場の全員の視線が、普通に会話に入ってきた近藤の旦那に向いた。

というか何故いるんだ!?

そんな疑問が浮上した次の瞬間には、妙ちゃんが見事な張り手を繰り出し

マウントポジションをとってタコ殴りにしていた。

そんな姿を見ながら銀時が口を開いた。


「オイオイ、まだストーカー被害にあってたのか...そういや朔夜は平気なのか?」

「あぁ、妙ちゃんに気持ちが完全に流れたようだからね」


小生を知って愛してくれる者など、いるはずがない...

自嘲を含んだ笑みが浮かび、それを見て銀時は眉をひそめた。

――本当に優しい男だね、卿は。


「(朔夜...)けどよぉ、町奉行に相談した方がいいって」

「いや、あの人が警察らしーんスよ」

「あぁ、紛うことなくな」

「世も末だな」

「悪かったな」

「!」


銀時の呟いた言葉に対し、不機嫌そうに回答した声に振り返れば

そこにはトシを筆頭にした私服の真選組の隊士たちがいた。

それを見て銀時が嫌そうに眉をひそめた。 


「オウオウ、ムサい連中がぞろぞろと、何の用ですか?キノコ狩りですか?」

「そこをどけ。そこは毎年真選組が花見をする際に使う特別席だ」


むぅ...それは些か横暴な言い分だと思うのだがね、トシ。

他にも空いている場所はあるというのに...

そんな小生の気持ちを見事に代弁して、銀時がトシに喧嘩腰で文句をつけた。


「どーゆー言いがかりだ?こんなもんどこでも同じだろーが。チンピラ警察24時かてめーら!」

「同じじゃねぇ。そこから見える桜は格別なんだよ。なァ、みんな?」


トシがそう言って総悟たちの方を振り向くが、花より団子...いや花より酒らしい。

総悟に至っては、アスファルトの上でもいいと言っている。

その姿に、思わず小生は声をあげて笑った。


「アハハ...だそうだがね、トシ?」

「うるせェェ!!ホントは俺もどーでもいーんだが

コイツのために場所変更しなきゃならねーのが気にくわねー!!」

「卿らは子供かい...?」


小生はトシの言い分と、寝転がった銀時の挑発する態度にため息をついた。




その後、場所取りをおざなりにしていた退がトシによって制裁され

妙ちゃんにやられていた近藤の旦那が復活して、小生らを見た。


「まァ、とにかくそーゆうことなんだ。こちらも毎年恒例の行事なんで、おいそれと変更できん。お妙さんと朔夜さんだけ残して去ってもらおーか」

「いや、お妙さんはいいから、女中の朔夜だけ残して去ってもらおーか」

「いや、お妙さんもダメだってば」

「というか小生だけってどうなんだ?」


トシ、流石の小生も卿がわからないぞ?

小生が疑問符を浮かべていれば、銀時の手が腰にまわされ、抱き寄せられた。


「銀時?」

「(やっぱこいつも朔夜狙いかよ...)――何、勝手ぬかしてんだ。幕臣だかなんだかしらねーがなァ、俺たちをどかしてーならブルドーザーでも持ってこいよ」

「ハーゲンダッツ1ダース持ってこいよ」

「フライドチキンの皮持ってこいよ」

「フシュー」

「案外お前ら簡単に動くな」


これは...流れ的に小生も何か頼むべきだろうか?


「じゃぁ小生には検体一人連れてきてくれ」

「気軽にそんなもん頼むなァ!!」

「しょ、小生にだけ手厳しい...」


新八君は突っ込みが厳しいぞ。

そんな風に小生が若干落ち込んでいる間に、話が進んでいたらしく

花見だからという理由で、叩いて被ってジャンケンポン大会というものが開催されることになっていた。

花見と何が関係あるのだろうか...?今になっても外のことはまだまだよく分からないね...


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