第百二十一訓 長所と短所は紙一重。人間の裏表もまた同じ
「でも...ど...どうしよう!!近藤さんが!!...このままでは近藤さんが...近藤さんが暗殺される...!!」
「!」
複雑な心境に考え込んでいた小生は、新八君の言葉に、張りつめた現実へと意識を戻した。
そうだ、今謝罪しても何の意味もない...今は、動かなきゃならない時だ。
小さく頭をふって想いを忘れ、思考を戻す。
「土方さん!!」
「僕は知らない僕は知らない」
「しっかりしてください土方さん!」
新八君に背を向けて、知らないふりをし震えるトッシーの両肩を掴んで、背もたれに押し付け
覆いかぶさるようにして、顔を近づけて目を見つめる。
驚いたように目を見開かれ、顔を真っ赤にされたが今はそこを気にしてられない。
「!っ朔夜氏!?」
「(全て終わった後、この感情はトシに話そう...今は...)トシ!」
「!いや僕はトッシー...」
「このままじゃ、卿の大切なものが全てなくなってしまうんだ...!」
トシが護ってきたもの全て、露と消えてしまう。
それだけは今はさせられない。
「卿が命がけで護ってきたものを、大切なものを...こんな形で手放すのかい...?」
肩を押さえていた手を離し、両手で包むように想いが深くに伝わるように頬に触れる。
「トシ...」
大切な全てを一瞬で失うということは、身を斬り裂かれる以上の痛みだと知っているから
「卿自身が戦わなきゃ、誰も護れないんだよ...!」
だからトシ、この言葉が聞こえるなら、早く戻ってきて
この言葉が届いたのかはわからないが、車内は静まりかえり、トッシーからは困惑の反応しか見られない。
その姿に、悲しくなる。
すると黙って小生の言葉を聞いていた銀時が、神楽に無線を全車両から本部まで繋げるように言い、無線をとって話しだした。
意図を悟り、今度は小生がトッシーの身体から降りて黙る。
「あ〜あ、もしも〜し。きこえますか〜こちら税金泥棒。伊東派だかマヨネーズ派だかしらねーが、全ての税金泥棒どもに告ぐ。
今すぐ今の持ち場を離れ、近藤の乗った列車を追え。もたもたしてたら、てめーらの大将首とられちゃうよ〜。
こいつは命令だ。背いた奴には士道不覚悟で切腹してもらいまーす」
「イタズラかァ!?てめェ誰だ!!」
「てめっ誰に口きいてんだ。誰だと?真選組副長、土方十四郎だコノヤロー!!」
返ってきた言葉に更に大きな声でそう言い切ると、無線を切って叩きつけた。
「銀さん...」「(流石...やってくれる)」
銀時がしてくれた行動に僅かに安堵し、笑みを零す。
「ふぬけたツラは見飽きたぜ」
「!」
銀時がトッシーに向かって、話しかけだした。
「丁度いい、真選組が消えるなら、てめーも一緒に消えればいい。墓場まで送ってやらァ」
「冗談じゃない。僕は行かな...」
「てめーに言ってねーんだよ。オイ聞いてるかコラ、あん?」
銀時が運転していたハンドルを神楽ちゃんにまかせ、振り向いてトッシーの服の襟を掴む。
「勝手にケツまくって、人様に厄介事押し付けてんじゃねーぞ、コラ...朔夜にまで迷惑掛けやがってよォ。
てめーが人にもの頼むタマか。てめーが真選組他人に押し付けてくたばるタマか。
くたばるなら大事なもんの傍らで、剣振り回してくたばりやがれ!!それが土方十四郎(てめー)だろーが!!」
突如、ミシッという音がした。
「.........」
「...ってーな」
「!」
見れば、襟元を掴む銀時の両腕を、トッシーが掴んでいた。
「痛ェって、言ってんだろーがァァァ!!」
ドゴッと車の機械に、わしづかんだ銀時の頭を叩きつけた。
その姿はけしてトッシーのものではなかった。
それは、見慣れたいつもの姿。トッシーと言う人格が現れる前の姿。
まさか返って来たのかと思い、名を呼ぶ。
「トシ...?」
「...ん?どうしたでござるか朔夜氏」
「.........」
振り返ったのは、トシではなくトッシーだった。
思わず内心落胆するが、トッシーに失礼だと思い、なんでもないと微笑み返してから、銀時を引っ張り起こす。
「銀時、大丈夫かい?」
「お、おう...この野郎...また戻りやがって...!」
「呪いなんだから、仕方ないよ...残るは荒治療だ。銀時、近藤の旦那を早く追いかけよう」
鬼を戻すには、修羅場に返すのが一番だ。
予備の隊服を人数分車内で見つけて、にやりと口角が自然にあがる。
「おー、見えてきたね...」
「どうやら奴さんは大所帯みたいだな」
「そうみたいだね...ほんと、馬鹿な男だよ...」
真選組の幹部の隊服に着替え、采配を片手に座席で武器類を調整していると
前方に列車と、それを取り囲むように武装した車を走らせる明らかに敵らしい集団が見えてきた。
「トッシー準備できたら煙草くわえて上乗りな。できるだけかっこつけて」
「え、む、無理でござ...」
「無理とかいわない!!ほら刀持って!ちったァ男を見せな!少しは己の弱さと戦ってみなよ!!」
村麻紗をその手に押し付け、よわよわしい目を強く見つめる。
「っ...わかったでござる」
「よし」
ニッと笑いかけて、トッシーを車上に上げて、かっこつけさせる。
そしてそのまま運転させている新八君にスピードをあげさせ、集団に近づく。
その間に小生は、右側の後部座席の窓から身を乗り出し、火を入れた煙管を咥え、腕を伸ばして連れてきたカーラスをとまらせる。
「まだ祭りには間に合ったようで...ひと泡、吹かせてあげましょうか」
「おう、任せろよ」
言った瞬間、割れたままのフロントガラスから同じように隊服を着た銀時は身体を乗り出し、
ボンネットに片足をかけてバズーカを集団に向けて撃ち込んだ。
見事に一台に当たり、周りの目が此方に向く。
それを見て満足し、不敵に微笑んでやった。
「御用改めであるぅぅぅ!!」
息を深く吸って銀時に続き叫ぶ。
「卿ら全員、神妙にお縄につきな!!」
全員がトッシーと小生の姿に驚いた瞬間、トッシーが思い切り松の木にぶつかった。
「!ちょっとォォトッシィィ!!」
「いってェェェェェ!!いってェェェェ!!」
「てめェェェェ!少しの間位カッコつけてられねーのか!!」
車の上部にへばりつくトッシーを叱咤する。
「こっちの士気を高めるには、副長健在の姿を見せつけなきゃ駄目なんだよ!!」
「カァカァ!!」
「無理!やっぱり僕には無理だよっ!!怖い!!」
「ふざけんなァ!!人を殴る時だけ復活してスグ元に戻りやがってェェ!!」
カーラス及び銀時と一緒に、へたれすぎるトッシーを叱咤しながら、敵の集団に突っ込み
カーラスに内蔵してあるガトリングマシンを使って敵の車体のガソリンタンク部分を狙い爆発させる。
「...(まさか、こんな形で戦うことになるなんて)」
いつもは将棋の盤上での戦いだったね...でも今日は違う
「(負ければ、大切な友の複数の死。勝てば、恋しいんだと気づいた男の死...)」
普通の女なら、それでもやっぱり恋しい男が生きる道を選ぶのかな?
「(でも、小生の魂はそれを良しとはしないから...やっぱり鴨を選べない)」
だから卿の計画をぶち壊すよ、鴨。
「(どこまでも愛しがいのない女で、ごめん)」
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