第百十九訓 オタクは話し好き。仲間にだけだけど
「っ銀時!聞いて、トシが...!」
「!朔夜...」
「あ、朔夜氏〜迎えに来てくれたでござるか?」
「!え、なんでいるのトシ!?」
「?」
「あー...それがよォ...」
謹慎になってから、もう本人とは思えないほど変貌してしまったトシの事を相談しようと、銀時のところへ来て見れば
そこにはそのまさに問題に上げようとしていた、紅い鉢巻きを巻いた、
完全におかしくなってから着始めた、すごくダサいオタクっぽい恰好のトシがいた。
今日はオタク達のトークショーに出ると言っていたのに何故、ここにいるのかと驚いていると、銀時が説明をしだしてくれた。
「...まさかオタクトークショーに新八君も出てて、トシ...いや、トッシーを殴った時に気づくなんてね...」
「つーか朔夜...アイツマジでどうしたの?頭打ったわけ?」
「本物みたいだけど、別人みたいなんスけど」
神楽ちゃんの写真を撮るトッシー(違いすぎるので別人として見る事にした)を横目に銀時、新八君と向かい合い座り、話す。
「小生も分からないんだけど、最近ずっと変で...ついに完全に美少女オタクになって...こっちが教えて欲しいくらいだよ」
そんな会話をしていると、トッシーが隣に座ってくっついて座ってきた。
「朔夜氏ため息なんかついてどうしたでござるか?」
「(卿のせいなんだけど)」
「つーか、あの...土方さん」
「なんだい志村氏」
小生から新八君に意識を向ける。
「あの...仕事はどうしてんですか。昼間からこんな所ブラついて」
「仕事?」
「...真選組のことだよ」
「あぁ、真選組ならクビになったでござる」
さらりとトッシーが言った言葉に新八君がかなり驚きながら理由を問うてきた。
それに対し、人間関係がめんどうになったとか、危険な仕事で向いてなかったとか、ヘタレな事を言い、
今は働いたら負けだと思ってるとかニートのような考えを語り出した。
その姿に、もはやため息しか出て来ない。
するとトッシーが急に思いついたように口を開いた。
「そうだ!考えたら君らもニートみたいなもんだろ」
「誰がニートだ!!一緒にすんじゃねーよ!!」
「どうかな、僕と一緒にサークルやらないか?」
夏コミで売ろう思っていると、とり出したのは子供の落書きのような同人本。
それを見て銀時がこんなもん売れるかァァァと当然の突っ込みを飛ばした。
その言葉に、トッシーはため息を吐きだす。
「まいったな、貯金をほとんどフィギュアで使っちゃってね。もう刀でも売るしかないか」
「それはダメ!!」
「最低なんですけどこの人!フィギュアのために、侍の魂売ろうとしてんですけど!!」
とんでもない台詞に突っ込むが、もう何度も売ろうとしているらしい。
それに呆れるが、どうしても手放せないという言葉が引っかかる。
「店の人が妖刀とかいってたけどまさかね」
「妖刀...?トッシー、ちょっと見せて」
ずしっとした刀を受け取り、万事屋と一緒にその刀を見る。
確かに、手の平を通して伝わってくる妙な気配を感じる。
「どうだ朔夜?なんか感じっか?」
「ちょっとね...銀時、鉄子ちゃんの所へ行った方がいいかも。その方が確かでしょうし」
「あぁ...アイツ刀鍛冶だもんな。仕方ねェ、行ってみるか」
そして全員で鉄子ちゃんのところへと向かった。
***
「間違いない。この表と裏そろった波紋、村麻紗だ」
「!『村麻紗』だって!?どうりで...」
「村麻紗?」
鉄子ちゃんの所へ来た小生達は、その刀が妖刀『村麻紗』である事を知った。
しかし万事屋3人はそれがなんなのか分からないようなので小生と鉄子ちゃんで説明を始めた。
「妖刀『村麻紗』、室町時代の刀匠、千子村麻紗が打った、名刀の名前だよ」
「その斬れ味もさることながら、人の魂を食らう妖刀としてもしられている」
すると美女が出てきたりするのか?と食い付いてきたトッシーを銀時がぼこぼこにした。
「(今のはトッシーが悪いよ)」
「妖刀って...一体どんな妖刀だっていうんですか」
新八君の言葉にずばり答える。
「それがね...母に村麻紗で斬られた引きこもりの息子の怨念が宿っているそうだよ」
「つーかどんな妖刀ォォォォ!?」
「いや、なんでも伝説じゃ、普段は不登校でアニメばっか見てるのに、修学旅行は行きたいと言い出したから、母親が流石にキレてしまったらしくてね...その時使われたのが、村麻紗らしいよ」
「どんだけ具体的な伝説!?最近だよねそれ!ニュースでやってそうだよねそれ!」
そんなこと小生にいわれても伝説がそうなんだから仕方ないと膨れていると、後を引き継いで鉄子ちゃんが説明してくれた。
「村麻紗を一度腰に帯びた者は、引きこもりの息子の怨念にとり憑かれ、アニメ及び二次元メディアに対する興味が増幅され、それと反比例し働く意欲、戦う意思は薄弱になっていく...即ち、ヘタレたオタクになる」
「...」
まさに今のトシの...トッシーのことだと思い、横顔を盗み見る。
「だが贋作も多い刀だ。たとえ本物だとしても、コイツがその伝説の代物だという可能性はさらに低いだろう。
そもそも、伝説自体眉ツバものだしな...だが、コイツが正真正銘本物の妖刀村麻紗なら
最早、その男の本来の魂は残っていないかもしれない。妖刀に食い尽くされ、既に別人となっていても何らおかしくない」
「!」
「もう、本来のソイツは戻ってくる事はないかもしれ...」
その時だった。
隣のトッシーが吸わなくなっていた煙草を口にし、火をつけた。
それを見て、思わず目を見開いていると、立ち上がり出した煙に銀時達も気づいたようで振り返った。
しかし、小生にはそれを気にする余裕はなく、トシだけを見ていて、期待を込めて名を呼んだ。
「トシ...?」
「...よォ、朔夜」
「!」
辛そうに額に汗を浮かべながら、小生の問いかけに答えたトシは、いつものトシだった。
それを見て銀時も気づいたらしく声をかける。
「お前...ひょっとして......」
「やれやれ、最後の一本吸いに来たら目の前にいるのが、会いたかった女だけじゃなく...よりによっててめーらたァ、俺もヤキが回ったもんだ。まァいい...コイツで...最後だ...」
「!(トシ...!)」
「ワラだろうが何だろうがすがってやらァ...いいかァ、時間がねェ、一度しか言わねェ...てめーらに...最初で最後の頼みがある」
「!(トシが銀時達に...!?)」
絶対にあり得ない言葉に、どれほどギリギリで意識を保っている状態なのかを悟り、更に心配が増す。
そんな中、トシがゆっくりと最後の願いを吐きだした。
「頼...む、真選組を...俺の...俺達の真選組を、護って...く...れ」
「!トシ!!しっかりし...」
「...ん...どうしたでござるか?朔夜氏」
「!...なんでもないよ...トッシー...」
言い切ってすぐふらついたトシの身体を支え、話しかければ、答えを返してきたのはトッシーの方だった。
トシがまた消えてしまったのを感じて、酷く泣きたい衝動に駆られたがそれを押し殺し、
目の前のトッシーに不審に思われないよう、いつものように微笑みかけた。
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