銀魂連載 | ナノ
第百十四訓 消せないデータもある。消しちゃいけないデータもある





「銀さん!朔夜さーーーん!!」


ガラスを突き破り、エネルギー体に、腕を巻きつけて引きずり込もうとしてくる林博士を二人がかりで押し込む。


「っ大人しく消えてやんな...アンタの娘のために」


徐々に消えていく、孤独に囚われ禁忌を犯した哀れな科学者に、そう呟いた。


「か...身体がァァ消えてゆく。魂が...消えてゆく」


引きずり込まれそうになりながら、なんとか歯を食いしばって踏ん張って、林博士を消していく。


「や...やめろ...やめてくれ」


孤独になる事がどれほど嫌なのか、身体のほとんどが消えたのに、引きずる力は強まる。


「私を...私を、一人にしないで...くれ...」


孤独を嘆く姿が、自分と重なり目を逸らしたくなるが、それを耐えて真っ直ぐと見つめる。


「ふ、芙蓉ォ...」


彼が娘の名を呼んだ時、駆けつけていたらしい神楽、新八君、たまの得物が彼を突き刺した。


「ふ...芙蓉ォ...」

「さようなら」

「!」

「さようなら...お父さん」


涙を流しながら、そう言ったたまの姿に小さな自分がだぶって見え

一瞬心臓が止まるような感覚を覚えたが、すぐに意識を戻して、林博士が消えるのを見届け、采配を引いた。

すると一拍あけて、たまが手からモップを落とした。


「...よかったんでしょうか、これで。芙蓉様に、博士に笑顔をと...した事なのに。なのに、私の中の芙蓉様は笑ってくれません。泣きやんでくれません。

...不安定で、思考回路もうまくはたらきません。逃げ出したい......これが苦しいという感情ですか」

「...」

「私はどうすればいいんですか。どうすればこのバグから復旧できるのですか」

「...たま、それはバグじゃないよ。苦しみは、誰もがもつもの...正常な証拠だよ。だから、それから逃げることも恐れることもないよ」

「妊婦は、鼻の穴からスイカだすような苦しみに耐えてガキを産むもんだ。

芸術家は、ケツの穴から宇宙ひねりだすような苦しみに耐えて作品生み出すんだ。

誰だって壁にぶつかって全部投げ出して逃げてー時はある」

「でも苦しい時っていうのは、自分の中の機械が壁を破るための何かを生み出そうとしている時だって、忘れちゃいけないよ。

その苦しみの中に、大切なものがあるんだって忘れちゃいけないんだよ」


たまの目の前で言い聞かせるように言い微笑みかける。


「みんなめんどくせー機械背負って、のたうち回って生きてんだ。そりゃオイルがもれる事もあらァ。

好きなだけたれ流せば良い。それでも止まんねェ時は、俺達がオイルふいてやらァ」

「...がとう。ありがとう......みんな」


新八君から受け取ったハンカチで涙を拭くたまを抱きしめ、ゆっくりと背中をたたく。

そして全て終わったように思えた時だった。

制御していたエネルギーが暴走し、辺りが暴発を起こしだした。


「やばいね。このまま放置しちゃ江戸全体がふっとびかねない」

「朔夜さん冷静に分析してる場合じゃないですからッ!」


すると平賀の旦那が自分がここに残って止めると言いだした。


「平賀の旦那、余生大事にしなって」

「どの道くたばるなら、逃げ回るよりネジ回しながらくたばらァ」


それを止めながら、小生が行ってこようかと言おうとした時、たまが小生達と自分の間に穴を開けた。


「博士が引き起こした事態です。家政婦がなんとかせねばあるめーよ」


指示をお願いしますと無線を投げてきたたまを見て、その決意を悟り、ぎゅっと唇を噛んで

銀時と共に、たまに呼び掛ける新八君と神楽ちゃんを引き止め、平賀の旦那の乗り物に乗せる。


「やだヨ!!銀ちゃん、マミー離して!!たまァァァ!!」


そしてたまを残し、火の手を上げるエネルギー室を後にした。

脱出のために乗りものを走らせていると、無線からたまの声が聞こえてきた。


「護るべきものを護れずに生き残っても死んだと同じ...それはきっと、志の死、魂の死を指しているんでしょう」

「...」

「機械の私にはわかるはずもないと思っていましたが、少しだけわかった気がします」

「(たま...)」

「私も護りたいものができました。何度電源を切ろうと...ブレーカーが落ちようと、この身が滅ぼうと忘れない...」

「っ...」

「だから、みんなも...私...のこと、忘...れない...で

そうすれば......私...私の魂は...ずっと、みんなの中で...生き続けるから」


その言葉に、銀時と共に無線に向かって名を叫ぶ


「「たまァァァァァァ!!」」


その瞬間、小生達はターミナルを脱出した。

すぐ後に、江戸の電力は回復をし、この事件は終息に向かったのだった。


***


後日――

万事屋それぞれが、なんやかんや言いながらも機械の部品を集めてきた。

それを組みあげてたまを復活させ、お登勢さんの店に置いてもらったのだった。



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