第百十一訓 可愛いモノも多すぎると気持ち悪い。なんでも適度が一番
「やられましたね」
意識が戻り出した所に、あの小生を気絶させた男の機械(からくり)の声が聞こえてきて、
鈍い腹に走る痛みと、後手を縛られているらしい窮屈さを感じつつ、ゆっくりと目を開ける。
すると隣には同じように拘束された新八君、目の前ではその機械がたまの首を前にして何か調べているようだった。
「僕が零號機を回収する前に、本体から中枢電脳幹を抜き取り仲間の元へ」
「(...新八君言うとおりにしてくれたのか...よかった)」
「『種子』は形あるものではない。零號機の頭脳の中に保存されている。つまりコレは、種子も頭脳部分もない、ただの抜け殻」
「(『種子』っていうのが気になるんだよね...)」
それが欲しくてこんなことしてる訳だから重要なものなんだろうけど...
「(たまの涙と関係しているのかな...)」
機械が流すはずのない涙...
「(!まさか...)」
欲しいのは、感情?
***
「(朔夜さん、気づいてよかったです)」
「(ありがとう。新八君も大した怪我なくてよかった)」
機械家政婦達に引っ立てられ、機械男について行きながら小さく短い会話を交わす。
しばらくしてたどり着いた先は、機械達をスクラップにし、廃棄する場所だった。
しかし、機械男が指示を出すと、今まで機械達を廃棄していた人間の男達が
廃棄されようとしていた機械家政婦達の手によって、スクラップの機械で圧殺された。
そして機械男の前に機械家政婦達が傅く。
その光景を思わず新八君と二人、唖然として見る。
「お...お前は...」
「一体何をするつもりだい...機械家政婦集めて...メイド喫茶でも開くっての?」
冗談混じりに言えば、ぽつりと機械男が零した。
「――芙蓉が、さびしがるだろう」
「!...芙蓉...(たしかプロジェクトの名前だったね...)」
でもどうやら、そんな単純な名前でもないらしい。
おそらく娘か...その辺りの名前だろう。
「(だとしたらこの科学者、相当馬鹿なことをやらかそうとしているのかもしれない...)」
ターミナルへと一緒に連れていかれながら考える。
学者のタブーは、倫理と真理に反する行為。
学に通じる人間だからこそ、考えても、やってはいけない。
神と対立できるほどの力を持ったのが科学。
時間を超える理論も、命も作れる理論もある。
「(でも、全て本当はやってはいけない事)」
それをやるという事は、壊してはならない流れを無理矢理ねじ曲げる行為。
「(それをできる腕があっても、やってはいけない)」
林博士も、これだけのものをつくれるならわかっているはずだろうに。
先をいくその背をちらりと見る。
「芙蓉、お前にもうさびしい思いはさせない。お前はもう一人じゃない。こんなに友達ができたよ」
病弱で孤独な娘のために、機械の命と友達を。
「案ずる事は無い。私もお前と同じになった。一緒だよ、芙蓉。お前と同じ身体だ」
病弱な娘のために、自らの身体まで機械にして
「みんな一緒だ。それでもまださびしいというのなら、私がこの世界を変えてやろうこの国を。機械だけの国に、機械の国に変えてやろう。
だから戻ってこい、芙蓉!」
最終的に、娘のために革命か...大層な親父さんだ。
「(でも、分かるけど...虚しいだけだよ)」
望む娘は、けして帰ってこない。
それにそれはもはや娘のためなんかじゃない
「(ただの孤独な科学者の自慰行為でしかない)」
ターミナルの入口を破壊し、進んでいく一団に連れていかれながら、そう思った。
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