第百十訓 女の涙に勝るものなし。古来より最強の武器
「はぁっ...はぁ...」
「朔夜さん大丈夫ですか!?」
「だいじょ、ぶっ...」
新八君とともに路地を走り、平賀の旦那の家を目指す。
「(なんとしてでも平賀の旦那の所にいかないと...)」
***
「ぜぇ、はぁ...!」
「くそっ...一体どうなってるんだ!?なんでこんな目に...」
「ふぁ...っはぁ...んなこといってる、ばあいじゃ...っないよ...!」
あっちこっち四方八方から機械(からくり)家政婦が姿を現す。
「敵の狙いは私です。どうやらあなた方は流れとはいえ、もっとも危険な任務についてしまったようです。私の計算からいくと、あなた方の生存確率は、残念ながら5%以下です」
「嫌な計算叩き出すのやめてくんない!?」
「アンタ誰のためにやってると思ってんだ!?」
機械家政婦達に囲まれ、采配を引き抜きながら、酷い計算に突っ込むと、更にたまは続けた。
「ですが私を捨ててあなただけ逃げれば、これが25%まで跳ね上がります」
「「...」」
「たまさん、それは普通の人間の勘定の仕方です。侍は違う」
「侍?」
「...ここで卿を見捨てて、運よくその25%に乗っかってもね...侍ってのは死ぬんだよ。護るべきモノも護れず生き残っても、侍は死んだと同じなんだ...ま、小生は科学者なんだけどさ」
「科学者?ならば、どちらが正確な判断かわかるはずです」
「わかるよー。でも小生は、科学者は科学者でも、心は侍の科学者なもんでね」
心を腐らせてまで生きる気はないよ。
小生は采配を握りなおし、新八君は近くに転がっていた鉄パイプを握った。
「5%しか生き残る確率がないなら、その5%全てを使って、あなたが生き残る確率を引き上げる」
「理屈と計算なんかじゃ、計れやしない」
「一旦護ると決めたものは何が何でも護り通す!!」
「「それが侍だァァァ!!」」
目の前を塞ぐ機械達に、乱れた意識を新八君とともに飛び込む。
采配に新しく付加した高圧のスタンガン機能を、持ち手のボタンを押して起動し
小生達に飛びかかってくる機械達をショートさせながら、平賀の旦那の家の方向に再び走る。
「...出自も不明確、まして殺人の容疑がかかった者を護る?侍―――理解しかねます。私のデータには該当するものがありません」
「っは...じゃあデータに付け加えときな!」
「勇者よりも魔王よりも上のところに!ついでに...」
「「女/女の子の涙に弱いってね!!」」
「了解しました。魔王よりも上、大魔王の配下の所につけ加えておきます」
「日本語って難しい!!」
「なんで頑なにドラ●エなの!!」
そんなやり取りをしながら走っていると、ようやく平賀の旦那の家が遠くに見えてきた。
「見えてきた!!あと少し!あと少しです!源外さん家です」
「はぁ...っもう少し...」
すると後ろに何ものかの気配がし、思わず新八君と二人振り返る。
目に映ったのは先程までの家政婦でなく、男の姿の機械が此方へ飛びかかってくる姿だった。
「!」
「目標捕捉。邪魔者は排除し、零號機回収にうつります」
「うわァァ!!」
「っ!」
ガキィン
たまの首を抱えた新八君に目がつけられたのを見て、采配を盾に間に入る。
「っぜぇ...ぜぇ...(すっごい力...!しびれる...)」
「朔夜さん!」
「っしんぱち、くんっ...(たまの電脳部分だけでも旦那の所に!)」
口パクで早口に伝える。
「!っ...でも朔夜さんが...!」
「いいから捕まる前に早く!疲れた小生じゃ一分ともたない!侍なら護ると決めたもんを護りきりな!!さっき言い切ったでしょうが!」
「!っ...はい!!」
再び新八君が走り出す。その背から視線を逸らし再び男の機械を見る。
「お前に用は無い」
「うっさいよポンコツ」
「だが...邪魔をするなら排除する」
飛びかかってくる男の腕を采配で軌道を僅かにそらしながら、かわす。
しかし、疲れがピークにきていて、そのたびに酷く視界が揺らぐ。
「っ...(やばい!)」
「消えろ」
ごっ
「!っが、ふ...っ」
足元がふらついた瞬間、機械の鉄の拳が鳩尾に入った。
内臓にもろに来た衝撃に思わずその場に崩れ落ちる。
「っこの、やろ...(間に合え新八君...)」
そこで小生は意識を闇に落とした。
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