銀魂連載 | ナノ
第百七訓 固ゆで卵は潰れない。人間も同じだろう




「狐よ、年貢の納め時だ。神妙にお縄を頂戴しろ」

「小銭形の旦那。その台詞十年できき飽きやしたよ」


しつこい人だと、小銭形の旦那に狐が金の油揚げの前に立って話しかけ、小銭形の旦那も諦めないという意思表示を返す。

そして小銭形の旦那は、子供の頃に自分の親を急ぎ働きの凶賊に殺されていて、それで盗人が赦せなくてこの仕事に就いたと話しだした。


「...そんな時に、妙な盗人に会った」


弱き者から金品をせしめる悪党だけを狙い、血も流さず、盗んだ金も、決して私利私欲には使わない。

それはまさしく、かつて義賊と謳われた狐の事だった。

そして旦那は、法は犯しても自分の流儀は犯さないその姿に憎しみ以外の感情を持つようになっていったそうだ。


「.........狐、なんで堕ちた?あのお前が、なんでこんな...」

「そこまでにしときなせェ旦那。同心が泥棒に滅多なこと言うもんじゃねーよ。それに...堕ちたとは盗人に言うこっちゃねェ。あっしら盗人はハナから堕ちたうす汚ねェ連中でございましょう」

「狐...お前...」

「その通り」

「!」


後ろから声がかかり、振り向く。


「(...血の匂いが...)」

「しょせん義賊などと、もてはやされたところで、奪う盗む卑しき所業を行う事に変わりはなし。

殺さず犯さず貧しき者から盗まず?どれ程とりつくろったところで盗人は盗人」

「!!なっ...」

「コイツは...」

「狐が!!八匹!?」

「(ヤバイ奴の匂いがするね...)」


僅かに血の匂いを漂わせる、狐と同じ格好の男達が8人入ってきた。


「ただの盗人にしちゃ動きが、とは思ったけど...まさか偸盗術のプロとはね...」

「忍と同じ源泉か、コイツはタチがワリぃ。腕は最強、オツムは最悪の泥棒ってわけかい」


『狐』たちのピリピリした会話から、最近の殺人強盗の『狐』の事件はこの8人が行ったこと。

そして元々『九尾』という盗賊団の仲間であったが、義賊になった一匹の『狐』が8人の仲間を裏切ったことを悟った。

義賊となった元仲間を呼び出し、30年も前の裏切りの制裁をしようとしていたらしい。


「(御苦労なもんだね...)」


一人心の中でため息をついていると、話が終わったらしく、8人の狐たちが飛びかかってきた。

それを見て反射的に、直したばかりの采配を構えた時、階段の上の狐から声がかかり、早く階段を上るように指示された。

その言葉に従い、階段を昇り始めると、一気に今までいた場所に火の手が現れ、後ろから追ってこようとしていた8人の狐たちを飲み込んだ。


「こいつぁ!!」「機械(からくり)仕掛けの罠!!」

「金の油揚げを護る機械でさァ!!皆さん!早くこっちに!早くしねーと次の機械が!!」

「「「「え」」」」


あっという間に階段が坂になり、両側の壁から油が思い切り吹き出し、辺り一面、そして自分たちにまで頭からかかった。


「ギャアアアアアアすべるぅぅぅ!!」

「こんな油まみれの状態で下落ちたら一瞬で火だるまだよッ!!ていうか小生すごく駄目な気がする!!無理な気がする!!!!」

「朔夜耐えろォォ!!こんなとこで死ぬわけにゃいかねーだろッ!!」

「そーだけどッ...くそっ、カーラス連れてくるべきだった...ッ!!」


このままじゃ、確実に体力が持たないと思い、力尽きる前に手摺に掴まり、落ちるのだけは阻止する事にした。


「はぁ...はぁ...(今回は役に立てなさそうだ...)」


息を整えていると、下の炎の中から4人の狐が飛び出してきた。


「!!まだ生きてた!!」

「何ィ!生き残りが!!」


飛び出してきた4人のうち2人を、神楽と新八君が倒そうとした時、二人は見事に転んだ。


「何してんだァァお前らァァァ!!」

「銀時前!!」

「うおっ!!」


間一髪、転んだ二人が銀時の足を掴んで転ばせ避けさせた。

それにより銀時に襲いかかった二人がお互いを斬り合う結果になり、火の中に落ちていった。


「ナイス!!」

「二人とったアル!」

「狙い通りっスね!!」

「完璧だな、完ぺ...」


しかし、残りの二人が先を走っていたハジちゃんに襲いかかりにいっていた。


「うぉぉぉい!ヤバイ!二人いった!」

「逃げてハジちゃん!」

「後ろォォォ!!気をつけろォォ!!」


しかし、戸惑うハジちゃんに銀時が叫ぶ。


「もういい体当たりだ!!体当たりしろ!!安心しろ!下で受け止めてやっから!」

「え゛ぇ!?」

「できるだけ敵巻き込んで飛び降りてこい!」


そしてその言葉に、ハジちゃんが躊躇いながらも覚悟を決めた。


「よーし!!じゃ、いくでやんす!はァァァァァァァ!!」


ゴッ


「なんでだよォォ!!」

「仲間に体当たりしてどうすんだいィィ!」


敵を巻き込まず思い切り一人で飛んできて、受け止めようとしていた銀時に体当たりしてきた。

衝撃で、銀時が気を失ったらしく、ハジちゃんといっしょに坂を落ちていく。

慌てて片手で銀時の足首を掴んで止めるが、正直重くて腕の骨がミシミシと言い、痛い。

痛みに冷や汗が流れるが、離すわけにはいかないので耐える。


「っ...」

「銀さんん!!ハジさんん!!朔夜さんん!!落ちるぅぅ!小銭形さんん!!」

「!!」


小銭形の旦那が呼び声に応えて振り向き、銭投げを繰り出すのかと思ったら、新八君に向かって思い切り体当たりをして飛んできた。


「なんでそこで仲間に体当たり!?」

「なにその隠れ選択肢!いらないよっ!!」

「いや...恐かったら」

「「逃げてきたんかィィ!!」」


ヘタレすぎる!!と銀時を掴んだままの腕の苦痛から、思わず厳しく突っ込んでいると

新八君もついに限界がきたらしく、落ちないように手摺に掴まった。


「っやばい...(このままじゃ全滅...)」


その時、残っていた二人が急に飛び、火の中に落ちていった。


「!」

「狐さん!!」


前を見れば、紐を片手に下りてきた、義賊の『狐』がいた。


「早くつかまりなせェ」

「はっ...はい!あとちょっ...」

「!狐後ろっ!!」


新八君が、狐の手をとろうしたとき、狐の後ろにもう一人、今までいなかった別の狐がいた。

それを見て注意を叫ぶが、時すでに遅く、狐は鳩尾辺りを、背中から貫通するほど深く刺された。


「ぐふっ」

「!っ狐...!」

「狐さんんんん!!」

「狐ェェェェ!!」


ぐらっと階段から落ちたが、紐を掴んでいたたため、なんとか火の中に落ちずに済んだ。

そして刺した奴が悠々と語り出した。


「『九尾』が九人で編成された盗賊団であることを忘れたか?お前が抜けた穴を埋めていないとでも。悪いがはるか前より、後ろでスキをうかがわせてもらったぞ」


刺した奴は、裏切られた時からずっと、義賊の狐を殺したかったらしい。


「今でもこの目に焼きついているぞ。押し入った屋敷の子供と千両箱を抱え、我々のいる屋敷に火を放ち、一人逃げるお前の背中」


その言葉に、何故か小銭形の旦那がハッとした顔をした。


「...」

「?小銭形の旦那...?......っ!(まさか...)」


小銭形の旦那の家族を皆殺しにしたのは九尾...?なら、小銭形の旦那を救ったのは...

そう思った時、掴んでいた銀時の足がピクリと動いたのに気づき

意識を取り戻したと分かり手を離し、銀時が掴んでいた、同じように意識を取り戻したらしいハジちゃんの身体を受け取った。

そして再び小銭形の旦那に目を向けると、丁度小銭形の旦那が銭投げで、刺した奴の腕を捉え、思い切り引いた。

瞬間、銀時が飛び出し、木刀でそいつを火の海へ叩き落とした。

その後、小銭形の旦那が狐のぶら下がっている紐を掴んだ。


「狐さん!」

「狐ェェ!!」

「......す...すまねーです、旦那。今まで...黙ってて...」

「.........人が悪いじゃねーか...命の恩人を、今まで散々追いまわしてたのか」


引き上げようとしながら狐と会話をかわす小銭形の旦那。


「ヘッ...旦那の追跡なんざ痛くもかゆくもねーや...アンタは詰めが甘すぎらァ。敵に毎日グチこぼすなんざ、同心失格じゃないですかィ」

「!」

「......フフ、そうか...どうりでつかまらねーはずだ」


ああ、そうかこの狐...あの店の親父さん...

気づいた瞬間じんわりと胸が温かくなる。


「旦那...アンタ結局最後まであっしをつかまえられなかったですねィ。あっしの完全勝利だ」

「いや、俺の勝ちだ。生きて連れて帰る。牢屋に入る前にカミュに一杯つき合ってもらうがな」


小銭形の旦那の言葉に親父さんが仮面の下でふっと笑った。


「カミュじゃねェ、焼酎だ」


途端にふっと切れる、ぶら下がっていた紐。

あっという間に狐の身体が火の海に落ちて消えた。

その後、火が消しとめられ小生達は無事に帰る事ができたが、炎の跡からは狐たちの死体は一つも出て来なかったそうだ。

それから数日後――


「もう一杯どうよ」

「うぷ、気持ちワリ」

「二人とも飲みすぎだよ」


銀時、小銭形の旦那と共に飲みに出かけた。

結構酔い気味の二人に声をかけていると、旦那が一つのおでん屋台の前で足を止めた。


「ん...こんな所にバーあったか?」

「バーじゃねーよ。パーだろアンタホント」

「いつになったら屋台と言うんだか」


呆れながらも、その屋台に入る。


「へい、らっしゃい」

「マスター、カミュ(ブランデー)ロックで頼む」


迷わず出てきたのは焼酎だった。


「ヘイ焼酎」

「焼酎じゃない。カミュと呼べ、マスター」

「マスターじゃねェ、親父と呼べ、旦那」


そのどこか聞き覚えのある返事に思わず屋台の親父さんの顔を見れば、それはとても見覚えのある顔。

一瞬目を見開いたが、すぐに口元が緩んだ。


「(あぁ、よかった)」


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