銀魂連載 | ナノ
第七訓 コスプレはなりきりすぎても引かれる




「...朔夜、やっぱお前馬鹿だわ」


銀時は目の前の朔夜の提案を聞き、姿を見て思わずそう言った。


「なんだと!素晴らしい名案だろう!!なぁ小太郎?」

「あぁ、見事な策だ!相変わらず素晴らしい策だな」

「ほら見ろ!」


そう言ってふんぞり返った朔夜の姿は、女海賊のコスだった。


「いやいやいや、お前ら馬鹿だろ。ホント引くわ〜」

「…それ以上小生の策に文句を言うなら、この塩酸の原液を掛けるが?」

「はい!僕、喜んで着させていただきます!!」


ちゃぷんと液体の入った小瓶を懐から取り出した朔夜に、即答する銀時なのであった。


***


なんやかんやで3人は春雨のアジトである船が止まる港のコンテナの陰へ身を隠し様子をうかがっていた。

その三人は全員海賊船長のような格好に傷のメイクをしていた。


「あーコホン。では作戦を決行するとしよう。名づけて、『宇宙海賊になりたいよ★失われた秘宝ワンパークは俺の物!大作戦』だ!!」

「待て朔夜!!それは酷過ぎるぞ!!」

「ダッサァァァ!!!ネーミングセンスなさすぎだろ!!前からだけどォォォ!!」

「?この名になんの問題があるというんだい、卿等は」

「全てにおいてですけど!?」

「本気で不思議そうな顔するのやめろォ!!哀しくなる!」


小声ですったもんだしている大人三人。何と情けない姿だ。

だが確かに作戦名はダサイ。


「そこまで言うなら仕方ない・・・第二候補の『かいぞくお...」

「よォォしっ!!もう作戦名なしの方向でいこうぜ!」

「遮らないでよ!!」

「あ〜?どうせ碌な名前しか出てこないんだろ?この似非天才ちゃんがよ〜」

「誰が似非天才だい!この、1000年に一度の天才児と呼ばれし小生を捕まえておきながら!」


朔夜が自分より頭二つ分ほど大きい銀時の襟元を掴み、ガンを飛ばす。


「もういいからさっさと行くべきではないのか?事は一刻を争うぞ...」

「!...仕方ないこの話はあとだ!」

「おう。じゃぁ行くぜ、ヅラ」

「ヅラじゃない桂だ。...では向かおう」


3人は船の見張り番の元へと歩き出した。


***


「すまない」

「?姉ちゃんが何の用だ」


朔夜が二人の前にでて、代表で船番の男に話しかけた。


「小生たちを卿等の仲間にしてくれないか?」

「あぁん?帰れ帰れ。冷やかしはいらねぇんだよ」

「冷やかしではない!小生たちは昔から海賊に憧れてた幼馴染でな。このたび春雨の噂を聞きつけ、こうしてやってきたのだよ。なぁ...キャプテンシルバーポップコーン3世」


妙に芝居かかった風に、朔夜が銀時の方を見てそう言った。


「(どっから出てきやがったその名前ェェ!!)あ、あぁ...そうなんだよ。だから雇ってくれよ」

「生憎だが、そういうのいらねーんだよ」

「そういわねーでくれよ〜。お前からも言えよ、ヅラ」

「ヅラじゃない。キャプテンカツーラだ。俺たちは海賊になりたくて来たんだぞ」

「だァーから、ウチはそーゆのいらねーんだって!!」


尚も頑なに拒む船番に、さらに訴えかける3人。


「つれねーな。なぁ参謀の姐さん」

「参謀の姐さんじゃない。小生はタクティクシャン・イバラと呼ぶといい」

「(呼ぶといいじゃねーよ!ダサいんだよ!!)お、俺たちも海賊になりてーんだよ〜連れてってくれよ〜、な?ヅラ」

「ヅラじゃない。キャプテンカツーラだ」

「俺達、幼い頃から海賊になるのを夢見てた、わんぱく坊主とじゃじゃ馬娘でさァ

失われた秘宝“ワンパーク”というのを探してんだ!な?ヅラ、参謀の姐さん」

「ヅラじゃない。キャプテンカツーラだ」

「参謀の姐さんじゃない。小生はタクティクシャン・イバラと呼ぶといい」

「しらねーよ。勝手にさがせ」


船番が律義な突っ込みを返してくる。若干めんどくさそうだ。

だが銀時が相変わらず強請る。


「んなこと言うなよ〜。俺、手がフックなんだよ」

「そうなんだ。このキャプテンシルバーポップコーン...あれ、何世だっけ?まぁいいか、はなァ...もう海賊かハンガーになるしかないんだぞ!手がフックのせいで!」

「しらねーよ。何にでもなれるさ、そいつなら。というか友達の名前忘れてんじゃねーよ」


妙に優しい突っ込みをする船番だ。


「とにかく帰れ。ウチはそんなに甘い所じゃな・・・」


船番が背を向けると、銀時と桂が刀に手をかけ、朔夜はコートの裏にしまっていたメスを取り出した。


「!!」


船番が気づいた時にはもう遅く、三人によって刃がつきつけられた。


「面接ぐらいうけさせてくれよォ」

「ホラ、履歴書もあるぞ」

「判子も持ってきたが必要かい?」


***


朔夜は腰に両手を当て、二人が倒した船番を見た。


「さて、多少荒っぽくなってしまったが乗り込むとしよう...銀時、二人の方は任せるよ」

「わーってるっての...お前はどーすんだ?」

「小生は小太郎と行くことにしよう」

「小太郎じゃない。キャプテンカツーラだ。なぜ俺と?」

「もう良いんだがね...まぁいい、小生は転生卿のサンプルが大量に欲しいのだよ。

おそらく転生卿はこの船の内部にあるであろうし、少々頂いて行こうと思ってね」


そう言った朔夜は好奇心と探求心に満ち満ちた、科学者の目をしていた。


「相変わらずやることが極悪じゃねーか」

「ふふん。できれば得をしたいのが人間というものさ...さあ、それぞれの目的を終わらせよう」

「あぁ、そうだな」


そして、3人は船へと侵入した。

しばらく内部を歩いていると、船室の一室にいくつもの袋が並ぶのを見つけた朔夜と桂。


「なるほど...これは随分と大量だね」

「朔夜、俺は爆弾を仕掛けてくるとする」

「分かった。...さて、小生はさっさとかっぱらうことにしよう」


朔夜はメスといくつかの試験管を取り出すと、手近なところにあった袋を一つ切り裂いた。

瞬間、中からザァァァァッと音と煙をたて、白い粉が流れ出てくる。

その煙を吸わないようにと、朔夜は素早く口元を押さえた。

しばらくして流れ出るのが終わると、朔夜は流れ出た転生卿に触れないように、先ほど出した試験管に匙で入れ始めた。


***


「...さてさて、お金になるといいんだがね」

「朔夜!いつまでやっている!そろそろ爆発するぞ!」

「はいはい、分かっているさ。今出るよ」


朔夜は数本の試験管いっぱいに転生卿を入れるとコルクで蓋をし、桂の元へと走った。


「それをどうするつもりだ?」

「ん?何を分かり切ったことを...解毒薬を作るための材料にするのだよ」

「...それを持っているとお前も犯罪者だぞ」

「...罪の一つや二つ犯すのが怖くて、科学者がやってられるものか。

それに、足がつく前に解毒薬に変え、社会に流してしまえば良いだけの話さ」

「...相変わらずの無法者ぶりだな」


呆れたように言う桂を朔夜は、鼻で嗤った。


「フン!他人に定められた法など、生きる上で厄介な事この上ない。

だから小生は己の法だけを重んじ生きるのさ。だいたい無法者は卿もだろう?」

「フッ...違いない...おい、あそこから上に出るぞ。銀時に知らせねば」

「分かっているよ」


二人は少し先に会った非常用の階段らしきものから上へと上がった。

ドドン!

瞬間、先ほどまで二人がいた倉庫から爆発の音が響き渡り火の手が上がる。

それを見て、甲板に居た数人の天人が倉庫の方へ走っていき、慌ててリーダー格らしき陀絡という男に告げた。


「陀絡さん!倉庫で爆発が!!転生卿が!!」

「俺たちの用は終わったぞ」

「!」


陀絡が出てきた声のした方を見やる。

そこには爆弾を両手に持った桂と、片手に3本ずつメスを構えた朔夜が立っていた。


「後は卿の番さ。好きに暴れたらいい。煩わしい羽虫は小生たちで駆除しよう」

「てめェは...桂!!それにその珍しい銀灰色の目の女...まさか"茨姫"か!?」

「違〜〜〜う!!」「その二つ名を...!」


二人は同時に床を蹴り、飛びだした。


「俺はキャプテンカツーラだァァァ!!」「気安く口にするなァァァ!!」


二人は雑魚を相手に好き勝手に暴れだした。


「やれェェェ!!桂の首を取れェェ!!」

「それにあの女は攘夷志士の要の智将だった茨姫だ!!二人を殺せば宇宙中に名が轟くぞォォ!!」

「やれやれ、懐かしい名をよく知っているものだね」

「天人達にとってお前はそれほどの脅威だったということだろう」

「人を化け物のように言わないでほしいものだ。よほど化け物染みているのは卿等だっただろう」


桂と朔夜は混戦の中で戦いつつ話していた。

だが、余裕そうな口調とは裏腹に朔夜の額には汗が滲んでいた。


「くっ...小生も老いたかな」

「お前は老いた以前に弱いだろう!だから俺の背に居ろと出る前に言ったではないか!!」

「っ無礼者!小生は別に弱くなどない!それに、どうして小生が自分より愚かな者に守られねばならないのだ!!」


いつもの憎まれ口を叩いているが、その顔には冷や汗が伝っていた。


「後ろが本音だろう!大体刀も使えないではないかお前は!冷や汗だらだらだぞ!」

「小太郎!皆まで言わんで良いだろう!!」


***


「はぁはぁ...これで弱いとは言わせないぞ、小太郎」

「全く...なぜお前はそう無茶ばかりするんだ。しっかりしろ、満身創痍ではないか」

「うる、さい。小生は、卿等と違って、体力馬鹿ではないのだよ...ぜぇ、ぜぇ...」


数分後、あらかた片付いたのを見計らって、二人は銀時たちに気付かれないように船を後にし

港のコンテナの上で休憩をしていた。

主に疲れきって、肩で息をしているO朔夜の休憩だが...

桂は呆れたように、だがどこかもどかしそうに朔夜の背をさすっていた。


「刀も使えぬのに前線に出てどうするつもりなんだ。全く、お前は銀時と同じで昔と変わらないな...いや昔より無茶をするようになったか」

「ぜぇ...はぁ...小生は、・・・変わって、なんかないよ...」

「...あまり、命を捨てに行くような真似はしてくれるなよ。お前がいなくなった日の思いは二度としたくないからな」

「...、仕方ない...次は無茶をせず、守られてあげよう...光栄に、思いなよ...」

「満身創痍で言われても情けないぞ」

「...小太郎は、いつも一言多い...あぁ、銀時達だ」


息の整ったらしい朔夜がコンテナの下を見れば、銀時と新八、神楽がいた。

見ていると何かを話し、銀時が怒鳴って置いて行こうとする。


「!?何をやっているのかね、銀時は?迎えに来たのだろう?」

「...見ていればわかる、お前も座ったらどうだ?朔夜」


いつの間にか桂は眼帯を外し、コンテナに腰かけていた。

朔夜も言われるままにそれに倣う。

すると少し離れて行っていた銀時が足を止め、座り込む二人に向かって怒鳴るのが聞こえ

二人が走りだし、銀時におんぶをされていたり小脇に抱えられているのが見えた。


「...」

「あれがあの3人なのだろう」

「あれも切りたくない絆、か...」

「あぁ...――フン、今度はせいぜい、しっかりつかんでおくことだな」

「...(新しい糸か...)」


朔夜は桂の楽しそうな横顔を見つつ、銀時たちの方を見て、少しだけ切なさを宿した微笑みを浮かべた。



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