第百六訓 悪人でも親は親。その子供にとっちゃ唯一無二でありまして
神楽ちゃんが正面から飛び込んだせいか、中はばたばたとしていて、あっという間に侵入できた。
しかし、ここから見つからず狐を見つけて進むのが大変だ。
「ばたばたしてるね...」
「本格的に動き出したみたいですよ」
「オイオイこんな騒ぎじゃ狐も尻尾巻いて逃げちまうんじゃねーのか?」
そう話しながら、角に隠れて辺りをうかがう。
「ほんとにこのままこなかったら本末転倒だよねェ」
「そいつは無いと思うでやんす。わざわざ犯行予告を送りつけてくる位だ。これ位の警備体制、狐も予想してるはずでやんす」
「まぁ確かにね...」
そう真面目に話していると、何故かまたハードボイルドモードで、堂々と窓の外をワイン片手に小銭形の旦那が眺めて語り出していた。
そして身体を震わせているとおもったら、窓の外に思い切り吐いた。
「完全にビビってますよ。吐くほどガチガチになってますよ」
「それでも卿は同心かい」
どこまでも間違ったハードボイルドを貫くその姿に呆れてくる。
「バカだろお前。いい加減ワイン飲むのやめろ。お前がハードボイルドじゃない事はみんな知ってるから」
「ワインじゃない、カミュだぼろ゛ろ゛ろ゛」
「カミュでもアムロでもいいから、酒で緊張を紛らわすなぼろ゛ろ゛ろ゛ろ゛」
「ギャアアアア!!銀さんしっかりして下さい、もらいゲボロ゛ロ゛ロ゛ロ゛」
「みんなして何やってんだい...しっかりしなよ」
ハジちゃんと、吐く男衆を冷めた目で見ていると、人が来る気配がした。
慌てて近くの人形に近づいて、インナーだけを脱いで隠し、肩を見せるよう着物を落とし
酌をする遊女の銅像のフリをし、伏せ目がちに顔を下に向ける。
そして横に目線だけを動かせば、隣の方では新八君と銀時が、鎧をつけて、鎧武者の恰好をしていた。
「(勢いでやっちゃったけどばれないかコレ!いけるかコレ!?)」
やってきた奉行所連中の対応をしてくれているハジちゃんを見ながら冷や汗をかいていると、奉行所連中がこっちへやってきた。
「「「...」」」
「...なぁ、この遊女の人形なんかさァ、朔夜さんによく似てね?」
「(どきーんっ)」
「朔夜さんって...あぁ、あの松平長官お気に入りで、思わず魅了される美人って噂の真選組の女中の?」
「あぁ、一度会ったんだけど、噂以上の美人だったぜ。ほんとこの人形みたいな品がある綺麗さでさぁ
童顔だったけど、傾国の美女...いや美少女ってああいうのを言うんだろうな。警察内にファンクラブができる理由がわかるぜ」
「へぇ...いいなお前。そりゃ俺も是非拝んでみたいもんだわ」
「(本人知らないけどその嘘八百の噂!ていうかファンクラブって何!?その非公式の怪しい団体!!)」
警察いいのかそれで!この国は大丈夫なのか!
目の前から去っていく奉行所の同心二人に、人形のフリをしたまま心の底で突っ込みをいれる。
すると、ある像の前で二人は足を止めた。
「...オイ、こんな像あったか?」
「コレ家康像じゃ...」
「ピンポンパン。こちらの像は、家康公鷹狩りの折り、一瞬の隙をつき背後をとった暗殺者のハードボイルド像です」
「「あるかァァァ!!んな像ォォォ!!」」
「バレるよそれはさァ!!」
家康像の土台に乗り、後頭部に銃を向けている絶対にあり得ない像を演じる小銭形の旦那に向けて、銀時と新八君が突っ込みととともに蹴りを入れた。
そしてそれによって完全にばれて、あちこちから同心たちがやってきて逃げる羽目になった。(小生は走れないので、銀時に担いでもらっているが)
後ろから、怒鳴り声が聞こえてくる。
しかし根っからのヘタレなのか、やたらと一旦BARに戻って態勢を立て直しに行こうとする。
それを銀時とともに叱咤しながら逃げていると、ハジちゃんが転んだ。
「!!」
「あ!ハジちゃん!!」
「アニキぃぃぃ!!」
「ハジぃ!!」
もうすぐ捕まってしまうという時に、窓ガラスを割って外から飛び込んできたものがいた。
それは、狐の仮面を被った男、探していた義賊『狐』だった。
狐はあっという間に、折ってきた同心たちを気絶させると、小生達に追ってこいとでも言うよう手招きして、走り出した。
小生達も慌てて狐の後を追う。
「アニキ...狐の奴、今の...まさかあちきを助けて...」
『フン...まさか...だが、あの狐からは、どこか懐かしい風が匂った。』
「(またやってる)」
『その後、俺達は狐を追ったが結局捕まえること叶わず、一旦BARに戻り態勢を立て直すことにした』
「勝手に終結させてんじゃないよ!油断したどんだけBARに行きたいの!!」
「いちいちBARを挟まねーと次の行動ができねーのか!!早く野郎追うぞ!!」
『BARもしくはビリヤードなどをたしなみながら態勢を立て直すことにした』
「ビリヤードもダメ!行きますよボケ!!」
アホなやり取りをしながら走る。
「銀時大丈夫?」
「だ、大丈夫だ問題ねェ...!」
小生を背負いぜえぜえ言いながら階段を駆け下りる銀時に声をかける。
みんなももう体力の限界にきているようで息を乱している。
しかし狐との距離は一向に縮まらない。
「ぐ...ぐるじい...なんか全然走っても!!前に!!進まない!!」
『自分では前に進んでいるつもりでも、後ろにさがっていたりする。結局人生なんて、死ぬ時になって、たった一歩でも前進していたらそれでいいのかも』
「うるせェェ!!疲れてる時にそれやられると異常に腹立つな!死ねよお前!!」
小銭形の旦那に、ついに走りながらキレた新八君を宥める。
「新八君落ち着いて!余計な体力を使うから!」
「にしてもコレ幾らなんでも進まなすぎ...ってコレ!床が後ろに流れてるぞォォォ!!
ふざっけんなよ!今までの俺の労力返せよ!!」
「ちょっコレどーすんスか!?全然前に進みませんよ!!」
床が後ろに流れていると気づいたと同時に、後ろに大きな無数のトゲがついた壁が現れ、こちらにゆっくり迫ってきた。
それに慌てて躍起になって皆が走るが意味はなさそうだ。
しかし前を行く狐は、壁を跳ねて走っていく。それを見て銀時も真似をするが、力み過ぎて
蹴りで壁に穴を開け足を突っ込む形になり、失敗に終わった。
そこに今度はいくつもの玉が無数に転がってきた。
小銭形の旦那が、銭投げという技を使ったが、首にひもが絡まったらしく、首つりのようにぶらんとなっていた。
皆は、危機一発ジャンプして玉を避ける事に成功した。
「もう無理!!限界!!」
「アニキも限界でやんす!!」
「しらねーよオメーんとこのバカ大将は!やべーよ!次来たらさけきれねェ!!」
「小銭形の旦那ァァ!卿は何がしたかったんだ!」
すると前からまた何か流れてきている影が見えた。
思わず身構えるが、流れてきたのは床に伏したおばあさんだった。
「え、おばあさん?!」
「ラッキぃぃぃババアだ!!これなら楽勝でやんす」
「つーかなんでババアだよ!!なんのためのババアだよ、誰が流してんだァァ!!」
「でも助かったでやんす」
「一体どこのおばあさ......」
「.........」
流れゆく先を見ると、そこには例のトゲの壁。
全員が無言で布団ごと担ぎあげた。小生も銀時に降ろされてその布団に乗せられた。
「チクショォォォォォ!!なんで見知らぬ流れ者のババアをかつがなきゃいけねーんだ!?」
「がんばれ皆!」
「ふざけんじゃねーよ!もうこっちも限界なんだよ!!」
するとまた何かが流れてくるのが見えた。
「もう次ババア来ても絶対無視な!!もうしらねェ!ババアオーバーな!!」
流れてきたのはおじいさんだった。
「今度おじいさん!?何!?誰のおじいさんなの!?」
「無視だ!!見るんじゃねェ!!これ以上荷物かかえ込むわけにはいかねーんだよ!!」
そしてスルーしかけた時――
「バーさん、さようなら。愛してるよ」
「!」
その言葉に思わず担いでいる布団の上におじいさんを乗せて走る。
「ジジイぃぃぃぃ!!さよならなんてさせねーぞォ!!」
「ほらッ、おばあちゃんここいるから!!隣でさっきの言葉をもう一度!!」
すると今度は、目じりがおじいさんそっくりで息子だと思われる、遺産の話ばかりする男が流れてきた。
その男はいけすかないので、串刺しになれと無視を決め込もうとしたが、すぐ後から赤ん坊が流れてきた。
それを見て、男も赤ん坊も布団の上に乗せて再び走る。
「三世代目じりがそっくりだろーがァァァ!!」
「生きなァァ!!どんな悪人でも子供には親が必要なんだから!!」
しかし皆の努力空しく、どんどん壁は迫って来て、最後尾の新八君がもうダメだとなった時
バイクでトゲの壁を突き破って神楽ちゃんが現れ、状況を打破してくれた。
そして何とか廊下を走り切り、ようやく金の油揚げが置いてある広間までたどり着き、狐を追いつめた。
「古くから狐は田の神、稲生の神の使いとして崇められてきました。お稲荷さんという奴ですな。
狐の好物を金でつくっちまうなんざ、江戸での人気っぷりもわかるというもんでしょう。
しかし一方で神様なんぞと呼ばれていながら、その一方で人を化かす妖怪(ばけもの)なんて呼ばれてるのが、狐の面白い所でやんす。
九尾狐に玉藻前、姐己に褒
と恐ろしいのが揃っていましょう。神様か妖怪か、はてさてあっしはどちらでございやしょう」
その言葉に十手を構える小銭形の旦那。
「ほざけ下郎め。てめーは神でも妖怪でもねェ、ただの小汚ねェ盗人だ。十年にわたる因縁、ここで決着をつけてやる」
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