銀魂連載 | ナノ
A



少し行くと変に静まり返った開けた場所へと出た。


「...(罠か...)」


徐々に陰から小生達を取り囲むようにして現れ、距離をつめてきた浪士達を睨みながら、前方のコンテナの上に立つ蔵場を見た。

すると、蔵場は無表情で淡々と話しかけてきた。


「残念です。ミツバも悲しむでしょう。古い友人と新しい友人を一度に亡くす事になるとは。

聞けば朔夜さんは真選組女中だそうですし...あなた達とは仲良くやっていきたかったのですよ」

「はッ...調べ済みってわけかい...」

「当然でしょう。あの真選組の後ろ楯を得られれば、自由に商いができるというもの。

そのために縁者に近づき、縁談まで設けたというのに、まさかあのような病持ちとは。

姉を握れば総悟君は御しやすいとふんでおりましたが、医者の話ではもう長くないとのこと。

非常に残念な話だ」


淡々と語られる薄っぺらい言葉にはなんの感情もないことが見てとれた。

すると隣のトシが静かに言葉にした。


「...ハナから俺達抱き込むために、アイツを利用するつもりだったのかよ」

「愛していましたよ。商人は利を生むものを愛でるものです。ただし...道具としてですが」

「...」

「あのような欠陥品に人並みの幸せを与えてやったんです。感謝してほしい位ですよ」


悪びれもなく言い切った蔵場に、一拍置いて煙管の煙を吐きだした。


「...そうかい...まぁ小生に卿を罵る気はないよ...」

「...クク、俺も外道とはいわねェよ。俺も、似たようなもんだ...ひでー事、腐る程やってきた」

「(トシ...辛いだろうに...)」


前だけを見据えるトシをちらりと見る。


「挙句、死にかけてる時にその旦那叩き斬ろうってんだ、ひでー話だ」

「...そして小生もその話にのっかって、粛清してやろうとしてんだから、相当だよ(せめて、トシにだけ背負わせやしない)」

「!(...朔夜...)」


トシと同じように静かに前を見据え言う。


「同じ穴のムジナという奴ですかな。鬼の副長とはよくいったものです。そして、それに従う貴女も阿修羅や羅刹の顔をお持ちのようで...あなた方とは気が合いそうだ」

「はは、笑わせるたとえだ」

「...そんな大層なもんじゃねーよ」

「俺ァただ...」「小生はね...」


お互いに自分の得物を構える。


「惚れた女にゃ、」

「大事な友には、」

「「幸せになってほしいだけだ」」

「こんな所で刀振り回してる俺にゃ無理な話だが...どっかで普通の野郎と所帯もって、普通にガキ産んで普通に生きてってほしいだけだ。ただ、そんだけだ」


トシの優しすぎる感情に胸が痛みつつも口を開く。


「小生は、友達にはずっと笑っていてもらいたい性質でね...優しい友には、最後まで、心穏やかにいてほしいんだ...それだけさ」


すると、蔵場の隣の男二人がこちらにバズーカを向けてきた。


「なるほど、やはりお侍さまたちの考える事は私達下朗ににははかりかねまするな」


そして男達が今にも撃ってきそうな時――


「撃てェェェェ!!」


ドォン


「「!!」」


小生達を取り囲む男達の一部が爆撃され吹っ飛ばされた。

そして現れたのは近藤の旦那を筆頭にした真選組だった。


「いけェェェェ!!」

「しっ...真選組だァァァ!!」


あっという間に混戦が始まり、小生は白衣を脱いで肩に持ちながらトシと共にその場の中心を離れる。


「トシぃぃぃ!!朔夜さァァん!!」


走る小生達の後を、敵のガトリングの弾丸が追いかけてきた。

片足が駄目なトシもなんとか避けていたが、一つの弾丸が、近くのオイル缶に当たったの見て

脱いだ白衣で身体を覆い、力の限りトシの身体を押しやった。

瞬間――小生の横で爆発し、爆風に身体を飛ばされ、地に腰骨と米神をたたきつけられた。

白衣で身体をかばって、傷は負わなかったのが救いだ。


「っあ、ぐ...!!」

「!朔夜ッ!!」


爆発後の煙の中、トシが駆け寄ってこようとするのを見て、打ちつけてぐらぐらする頭で声を上げた。


「っいっ、て...!!」

「!」

「優先、すべきは...あの男の粛清でしょー、がッ...!!」

「っだが...」

「小生は、こんなの...慣れっこさ...だから、ミツバちゃんのためにも...カタ、つけなきゃ...!」


何のために、卿はここにいんだい...?

そう眉尻を下げて笑えば、トシはすまねェと小さく一言謝って、煙の中に消えた。

その背中を最後に見て、小生はおかしな切なさに襲われながらも、ふっと何故か笑んでから、這って動き、コンテナに凭れかかった。


***


少しして、銀時がやってきて、くたくたで動けない小生を抱き上げてくれた。


「銀時...粛清、終わった...?」

「あぁ...ちゃんと終わったぜ。病院の方は、空覇に任せてきた」

「...よかった...トシは、大丈夫そう...?」

「あいつらがパトカーに乗せに行ってる。お前は怪我はなさそうだが...どうするよ?」

「...銀時が、今行こうと思ってるトコに行くよ...」


心配そうに目じりを下げながら聞いてくる銀時に笑みを返せば、銀時は大きなため息を吐きだしてから頷いてくれた。


***


「辛ェ」

「...」


星の瞬く綺麗な夜、静かな病院の屋上、港から戻ってきた小生と銀時は、水の貯蔵タンクの裏に黙って座っていた。

黙って煙管で薊の煙を燻らしていると

タンクを挟んだ反対方向から聞こえた声とせんべいを齧る音――


「辛ェよ。チキショー辛すぎて涙出てきやがった」

「...」


煙混じりの吐息をもらしてから、無言で立ち上がり、近づく。


「辛ェ」

「...」


こちらに背中を向けて、目をこすり煎餅を食べているトシの背中に、トンッと自分の背中を預けて寄りかかり煙を吸い、星空に吐きだした。


「――...今日は、やけに煙が目に染みるね...分量、間違えたかな」

「っ...」


ガバッ


「!」

「すまねェ...今だけ、こうさせてくれ...」

「...小生は何も見えちゃいないし、聞こえないよ...」


小生の肩に顔を埋め、身体を痛いほど強く抱きしめてくるトシ。


「(トシは、やっぱりミツバちゃんが好きだったんだな...ミツバちゃん、卿の想いは...ちゃんと叶っていたよ)」


わずかに心臓が軋むような感覚を気のせいに、そっと目を閉じた。


***


――その夜、総悟君と空覇、真選組の皆に看取られてミツバちゃんは、逝った。

遺体のそばから動こうとしなかった総悟君を、空覇が無言で頭を撫でていたと、翌日聞いた。


***


――後日――

真選組も喪から明け、いつも通りになってきて一安心し、いつものように女中仕事に勤しんでいると空覇と総悟君がやってきた。


「朔夜さーん」

「おや、総悟君に空覇、どうかしたかい?」

「...娘さんは俺が嫁にもらいますんで、お義母さん」

「あぁそ...え?あれ?嫁ッ?!お義母さッ!?」


おもわず手のハンガーを落とした。


「それじゃあデート行ってきまーす。空覇、行こうぜィ」

「(でーとが何か分からないけど)いってきまーす朔夜さん!」

「え、ちょっ!?」


脳の処理が追い付かず、とりあえず引きとめようとしたときだった。

総悟君は思い出したようにして、近づき、耳打ちしてきた。


「あ、それからお義母さん」

「だからおかあさっ――」

「『もう遊べないけれど、ずっと友達でいてね』だそうです」

「っ?!...(ミツバちゃん...)」

「それじゃ」


そして総悟君と空覇は、手をつないで去って行った。


「(...ずっと友達に決まってるじゃないか...)」


死んだ後だって、小生が生きている限り、卿はこの心と頭の中で生きているから...


「...って、あ!結局お義母さんとか嫁とかデートって何なんだい総悟君んんん!!(いつからそんな関係に!?)」


去ってしまった二人に向かって大事な事を叫ぶが、聞こえるはずもなく、虚しく庭に響いた。


「(ええええ!!あの二人に何がァァ!?)」

「...朔夜、どうした?」

「!トシ!い、いやなんでも...!」


激しく動揺していると、通りかかったのかトシが近づいてきた。

見た瞬間、針で刺されたように小さく心臓に走る痛み。

ここ最近、よく起こる。

なんなんだろ?ストレスかな?

そんなことを考えていると、黙っていたトシが、口を再び開いた。


「...なァ、朔夜」

「ん?なんだい?」

「...俺な、昔一度お前とよく似た女に会った事があるんだよ」

「え...?」

「まだ10代の時で、暗い山の中でよ...血に濡れたお前くらいの身長の女に」

「!...そうなんだ...(まさか...いつかの...?!)」


...言われた言葉に、記憶の底に埋没させていた、一度きりのある男との出会いが思い出される。


「...俺はその女の走り去る背中がずっと忘れられねェ...だから、お前と初めて会った時から、その背中を重ねてた」


重ねれば重ねるほど、お前ばかり見ていた。

そう語るトシに、小生はただただ嫌な予感を覚えて冷や汗を流す。

早まる鼓動の音がやたら大きく聞こえてきた。

嫌な予感を回避しようと、後ずさり誤魔化すように笑う。


「な、何言ってるの?トシはミツバちゃんが...」

「――...ミツバのことは昔は惚れてた。...だが...もうその事は俺の中で決着はついてたんだ」

「!」


トシは、何...いってるの?


「俺は、ミツバを護れないと、幸せにできねーと思って置いて行った...でもお前は、俺の手で護りたいと、幸せにしてやりてーと思ったんだ」


心臓が絞めつけられるようで、音をたてて軋む。


「...虫が良い話かと思うかも知れねーが、俺は...今はとっくにお前を「っやめておくれ!」!」

「...トシっ...お願いだからそれ以上馬鹿な事言わないでくれよ...っ!」

「!」

「...ミツバちゃんをトシは愛してた...それで、いいじゃないかっ...」


今まで通り、それでいい。

何一つ変える必要なんかない。

ミツバちゃんへの感情も、小生との関係も。

――だってミツバちゃんはずっとトシを好きだった。

なのにトシに今予想してる馬鹿な事を言われたら、ミツバちゃんにどんな顔しろって小生にいうんだ。

しかも、こんな、いきなり――


「よくねェ...!俺はっ...」

「聞かない!!」

「!...朔夜...」


トシの言葉を遮り、流れ落ちる汗をそのままにトシを強く見つめたまま離れるために後ずさる。


「トシ...そんな感情は、ミツバちゃんを失って間もないから気の迷いだよ...なのに、これ以上なにかとんでもない事を言う気なら...

小生は、今ここで自分の三半規管えぐり取ってでも聞かなかったことにする!」

「!(...こいつなら、やりかねねェ...!)」

「...だから、今までどおり接して...そんな一過性の感情、すぐに消えてしま――「消えねェよ...」!」

「確かに俺もこんなタイミングで悪かった...もう、今はいわねェ...でもな、言おうとしてることも、言ったことも、全部俺の正直な気持ちだ...」

「っ...」

「また、ちゃんと言う...だからそれだけは、忘れんな」


そう言い残してトシは背を向けて去っていった。


「っ...(なんて...いえばいいの...)」


告白は、何度かされてきた。

でも、いつも困るというか、もっとなんか...違う反応ができていた。

なのに、できなかった。

こんな動揺して、哀しいのは...こんな、心臓が壊れそうで、泣きたくなる感情は...


「(...違う...ミツバちゃんを、友達を失って動揺してるだけ。それだけ。)」


だから、こんな感情もまやかし――...

胸元の襟を掴んで、涙を片手で拭って、早く仕事を終わらせ

源外の旦那の所に行って、采配を直しながら、こんな気持ち振り払ってしまおうと、そう決めた。


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