銀魂連載 | ナノ
第百三訓 男ってメンドくさい。それは常々思うよ




「――銀さん、山崎さんと何を話していたんですか?」

「あ?なんでもねーよ、気にすんな」

「そう言われると余計に気になります」


少しして何でもない風に病室に戻ってきた銀時に、ベッドに戻ったミツバちゃんは問いかけた。

すると銀時はAVを取り出してはぐらかした。


「...(絶対に、ろくでもないことだ...)」


銀時の表情やはぐらかし方から、長年近くで見てきたためか、働かせたくない勘が働く。

そして色々と推測しながら、目の前でかわされるミツバちゃんと銀時の会話を聞いていた。


***


「男の子って、幾つになってもそうなのね。集まってはつるんで、悪だくみばかりして…朔夜さんもそう思わない?」

「あはは…男って生き物は子供だろうが大人だろうがそういうもんなのさ」


銀時もそのまんまだしね、と苦笑して、言えばミツバちゃんもどこか懐かしむように笑った。


「ふふ…あの人達もそう…男同士でいる時が一番楽しそうで、結局女の子が入り込む余地なんてないの」

「…ミツバちゃん…」

「みんな私を置いて行ってしまったわ。振り向きもしないで」

「…」


きっとミツバちゃんはトシを心から愛して、また他の皆もとても好きだったんだろう。

大好きな人達に一人おいて行かれる痛みも辛さも、よく分かる。


「(本当は小生も銀時達に置いて行かれるはずだったから…)」


だから少しは真選組の皆や、トシの気持ちもわかる。

きっとミツバちゃんを危険な目に会わせたくないからこそ置いていったんだろう。


「…(それに…きっとあの反応から見るにトシも本当はミツバちゃんが好きだったんだろうな…)」


思い返し、なんとなく鼻の奥がツンとしたのは、二人の関係のもどかしさと切なさからだろう。

すると小生の感情が伝わったのか、隣の銀時が大きな手で何も言わず小生の頭を撫でながら、ミツバちゃんに話しかけた。


「こんないい女をほっといて行っちまうなんざヒドイ連中だねェ」

「そうでしょう?だから私めいっぱい幸せになってあの人達を見返してあげるの…こんな年まで一人で

身体のことでもそーちゃんには色々心配かけてしまったもの。幸せになってそーちゃんを安心させてあげなきゃ」

「(!)」

「幸せにならなきゃね」


ひとり言のように呟き、おだやかに笑うミツバちゃんに、

彼女を蝕んでいる病魔の進行具合がわかる小生は、酷く息が苦しかった。

この子の身体を治してあげたいのに、出会うのが遅すぎた。

もう小生の腕では、この病魔を消してやる事は出来ない。


「(小生は…こんな時も無力だ)」


どうして人間てのは、小生って奴は、こう一番何かしたい時に何もできないんだろう。

でも涙を堪えていつものように笑い、せめて少しでも長く繋ぎとめれればと約束を口にした。


「――ミツバちゃん、元気になったらまた江戸を案内するよ」

「ええ...朔夜ちゃんと友達になれて、本当に良かっ...ケホッコホッ」

「「!」」


急にせき込み始めたミツバちゃんに嫌な予感がし、椅子を降りて、背中をさすり、銀時が声をかける。


「オイ大丈夫か?もう休んだ方が...」

「銀時の言うとおりだ。これ以上は身体によくないよ」

「ゲホッ...大丈夫...です」

「大丈夫って...!(これほどの進行具合で、もし吐血でもしたら今度こそ...!)」

「大丈夫...もうちょっと誰かとお話していたいの...」


そうミツバちゃんがかすれた声で呟いた時、危惧していたことが起こった。

まっさらな雪の上に椿の花が落ちたように、赤い血がミツバちゃんの口の端から零れ、病院の白い布団の上に転々と落ち、染みた。


「――!!(喀血したッ!)」


そこからは早かった。

ごぽりとミツバちゃんの口から血が溢れ、苦しげに咳込むミツバちゃんの身体がベッドに倒れ込んだ。


「ッ――ミツバちゃん!!」

「オイッ!!」


一瞬あまりの衝撃で柄にもなく身体が動かなかったが、

片手でミツバちゃんの手頸を掴んで脈拍を取りながら、ナースコールを押した。

すぐに看護婦がやってきて、ミツバちゃんは集中治療室へと寝台に乗せて連れて行かれた。

その後すぐに空覇が来たので、空覇には総悟君達に連絡を入れてもらうようにお願いをして集中治療室から離した。

そして集中治療室の中が、ガラス越しに見える廊下に銀時と立った。


「...」

「朔夜、大丈夫か?」

「うん、平気...それより、退と話した事...なんか悪い事でしょ?顔見ればわかるよ」


ガラスの向こうを見たまま声をかけてきた銀時にふっと笑いを零してから

銀時を見ずにガラスに凭れかかり、煙管を蒸かして問いかけた。


「ああ...この前の転海屋のことを聞いた」

「やっぱり...一体どんな嫌疑が?」

「浪士との武器の闇取り引きだとよ...今日も港であるらしい」

「はっ...実に商人らしい嫌疑だね」


そんなところだろうと思ってたけど...

思わず煙管を握る手に力が入る。


「(恐らく真選組を抱きこむために、縁者であるミツバちゃんを利用しようとしてるんだろう)」


小生がアレならば、間違いなくそうする。


「(そしてトシは...それを知って...)」


そこまで考えがまとまると、小生は煙管を片手に、集中治療室に目を向けたままの銀時に背を向けて屋上に向かって歩き出した。


「...朔夜行くのか?」

「――うん、止めても無駄。銀時は、#空覇#と一緒にここで、総悟君達をお願い」

「また、無茶しに行っちまうんだな」

「...無茶でもなんでも、行くのが小生でしょ。いつだって」


銀時達と共に行きたいんだと告げた時から、ずっと。


「...あぶねー真似はすんなって、何度俺ァ言ったか忘れちまったよ」

「ふふ...ごめん。でも、もう何もせず後悔はしたくない」


己の無力さを呪い、潰した哀しみに無音で吼えて、後悔はもう十分すぎるほどしたから。


「ここにいても小生に出来る事は、何もないんだ。このガラスを超えて救う権利が小生にはないことも

もはやあの子の命を小生には救う事ができないことも・・・」


幸せにならなければ、とミツバちゃんは言った。

幸せになって欲しいと、おだやかな笑顔が続けばいいと小生は願った。

でもそれが叶わぬ夢だというのなら、ならばせめて――


「最期まで穏やかな気持ちで、逝って欲しい...」


せめて、その心に宿る優しさが、光が消されないように曇る事がないように。


「最期まで笑ってほしいと、そう思ったんだ」


それが正しいのかどうかなんて、ちっぽけな小生には本当の答えなんてわからないけども


「きっと無力だからと嘆いて何もしないで突っ立って息してるより、ずぅっとマシだと信じているよ」


絶対的な善悪がないならば、自分の善悪を信じる。

それだけで我儘な小生の答えには、必要十分条件がそろってる。

アカシアの香りの煙を吐き出して、顔だけ後ろの銀時に向け、強気に笑った。


「銀時――行ってくる」


タタッと軽やかな足音を立てて、屋上に向かった。


「(朔夜の奴...目がキレかかってたな...)」


最近は全く見なくなった、かつての朔夜のある姿を思い出し、止めればよかったかと銀時は後悔したが

ここですべき事を終わらせて後で追えばいいと思い返し、再びガラスの向こうのミツバに目を向けた。


「(...頼むから、死なないでやってくれよ...朔夜にとっちゃアンタは、もうかけがえねーんだ...)」


***


――ヒュォォ


「...良い星空だね」


屋上の夜風を感じつつ、1羽のカーラスを腕に乗せ3羽の愛しいカラクリであるカーラス達を従え手摺を超えて立つ。

より生き物に近づけてリアリティを追求したこの子たちの頭を撫でてやれば、答えを返すように鳴いてくれる。


「カァーカァー」

「――うん...行こうか」


タンッ

着物の裾を広げ、バッグ状の紐を身体から出した1羽を背負って、足場を蹴って夜闇の空へと飛び込む。

途端、高所特有の風に煽られる小生の身体をうまくコントロールしてくれ、背中のカーラスと、周りのカーラスが補助して飛んでくれる。


「(ちゃんと機能してるみたいだ...良かった)」


メンテナスしばらくしてないなと思いながらも、転海屋の取引先の港へと星空に紛れながら急ぎ飛んだ。


〜Next〜

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