銀魂連載 | ナノ
第百二訓 辛いものばっかり食べると痔になったり、色々悪影響だよ!




「ようやく落ちついたみたいですよ」

「(よかった...)」


屋敷に入って、ミツバちゃんを寝かせてすぐに、空覇は近くの街医者を背負って帰ってき、医者に見せる事が出来た。

しばらく苦しんでいたミツバちゃんの容態もようやく安定したようだった。

隣の部屋の襖の隙間からそれをうかがって一息つきながら、ミツバちゃんの枕もとから離れずミツバちゃんを見つめる空覇を見る。


「...」

「...(あそこまで必死な顔で、人を見つめる空覇は...初めて見るな...)」


少しだけ違和感を感じながらも、無理に止める必要はないかと、せんべいをほおばる銀時のそばに座りなおした。


「...身体が悪いとは聞いていたけど、ミツバちゃん大分体調が悪いみたいだね」

「ええ...倒れたのが屋敷前じゃなかったらどうなってたことか...それより旦那、朔夜さん。アンタらなんでミツバさんと?」

「「.........なりゆき」」


退君の言葉に、たっぷり間をあけつつ答え、銀時が先程から気になっていることを聞いた。


「そーゆうお前はどうしてアフロ?」

「なりゆきです」

「「どんななりゆき?」」


そして、先程から一度も此方を見ず、煙草をふかしながら縁側に立って外を見るトシへ銀時とともに視線を向けた。


「...そちらさんは、なりゆきってカンジじゃなさそーだな。ツラ見ただけで倒れちまうたァ...」

「昔ミツバちゃんと何かあったんだい...?」


胸の奥がツンツンと軽く針で指されるような気持ちの悪い感じがする気がしながら、問いかけてみる。


「てめーと朔夜にゃ関係ねェ」


ズキン!


「(...今のは...?)」


トシにしては珍しい、完全に突き放した言葉に、一瞬ひと際胸が痛くなった気がしたが、

すぐに銀時と退の、トシをからかう言葉で現実へ引き戻された。


「ププッ、すいませーん。男と女の関係に他人が首つっ込むなんざ野暮ですた〜」

「ダメですよ旦那〜ああ見えて副長純情(ウブ)なんだから〜」


カチャ


「関係ねーっつってんだろーがァァ!大体なんでてめェと朔夜がここにいるんだ!!」

「副長落ち着いてェ!隣に病人がいるんですよ!!」

「うるせェェ!大体おめーはなんでアフロなんだよ!!」

「ちょ、トシ!らしくないよ!?」

「朔夜はちょっと黙ってろ!」


二人の台詞にトシがキレて刀を引き抜いて銀時に振りかざしたが、退が後ろからトシを押さえた。

そんなトシの様子に、更に疑問が浮かび、胸の痛みが増した気がした。


「(なに...?変な病気でももらってきたのかな...?)」


一度自分の身体の検診が必要だな...

そんな事を考えていると、廊下側のふすまが開いた。


「!」

「みなさん」


開けたのは、一人の中年くらいの、そこそこの身分らしい男だった。


「何のお構いもなく申しわけございません。ミツバを屋敷まで運んでくださったようでお礼申し上げます」

「...商人さんかい?」

「はい。私、貿易業を営んでおります『転海屋』蔵場当馬と申します」

「へぇ...」


すると後ろで退がトシに、ミツバちゃんの旦那になる人だと耳打ちしているのが聞こえた。


「(ミツバちゃんの夫に...悪いが、なんだか好かない男だね)」


...人のよさそうな顔してるが...裏で何やってるか分かんない人間だ。


「(似た人種だからこそわかる匂いかね...)」


そう思いながら銀時の隣に座ったまま蔵場を見ていると、蔵場がトシと退を見て、真選組だと気づき

ミツバちゃんの弟、すなわち総悟君の友達かと聞きかけた時だった。


「友達なんかじゃねーですよ」

「「!」」

「総悟君」


部屋に現れたのは先程別れたばかりの総悟君だった。


「(空気が、重い...?)」

「総悟君、来てくれたか。ミツバさんが...」


蔵場の言葉を無視し、ポーカーフェイスだがピリピリとしたものを纏ってトシに近づく総悟君。


「土方さんじゃありやせんか。こんな所でお会いするたァ奇遇だなァ。どのツラさげて、姉上に会いにこれたんでィ」

「(...これはやっぱり...)」


ミツバちゃんとトシに...恋愛関係の、もつれが...?

行き当たった推論に、今までで一番酷く心臓が痛んだ気がして、思わず自分の着物の胸元を掴んだ。


「(...何...?)」


さっきから...痛むとか気のせいだよね?

だってトシとミツバちゃんは男と女で旧知の仲なら、そんなことあってもおかしくない事だし...

うん、そうだ。だから深く考えないでいよう。

結論付けて現実に思考を戻せば、トシが退をひきずって帰ろうとしているところだった。


「邪魔したな」

「!と...」


ミツバちゃんのこといいの?と言おうと思い、追おうと廊下に出ると、トシが隣の部屋を通り過ぎざまに

寝ている病床のミツバちゃんと一瞬視線を交らせていたのが見えた。

それを見た瞬間言葉もでなくなり、その場から動けなくなった。

そしてそのままトシの背中を見送った。


「――(なに、この変な気分...あ、あれか?トシは恋愛無縁そうなのに、実はそんなこともなかったから動揺して...)」

「?朔夜、大丈夫か?」

「!う、うん、大丈夫だよ銀時。ちょっとぼうっとしちゃっただけ」


近づいてきた銀時に声をかけられ、おかしくなっていた思考を戻した。


「ならいいけどな...帰って寝ようぜ」

「――うん(きっと知り合いの恋愛のもつれを見たからいたたまれないんだ...)」


そう気持ちの悪い感情に決着をつけて、小生も銀時と帰ろうと思い、ミツバちゃんの枕元にいる空覇に声をかけた。


「空覇、そろそろ小生達は帰るけど...」

「...」

「?空覇...?」

「...」


まったく小生に反応をかえさずミツバちゃんを見つめる空覇。

その姿があまりにも必死に見えて、蔵場に声をかけた。


「...すみません蔵場の旦那。空覇をミツバちゃんにつけていていいですか?心配らしいので。あの子は自分で全部できる子なので、かまわなくて大丈夫ですから」

「え?あ、あぁ...構いませんよ。ミツバの友人ならば...」

「ありがとうございます...それじゃ空覇、何かミツバちゃんにあったら連絡して」

「...」

「(...まぁ大丈夫か)」


こちらを見ようともしない空覇に違和感を感じながらも、空覇なら平気かと思い、銀時とともに小生はその場をあとにした。


***


「朔夜、ぼちぼち病室行くぞ」

「あ、うん」


数日後、入院したミツバちゃんに頼まれた『激辛せんべい』を届けるためと、お見舞いのために病院に向かった。

そして、中から旦那になる蔵場が出てくるのを待って、銀時と共におどけるようにしてひょいと病室の中に顔を出した。

すると小生達を見て、口元に手を当てて楽しそうに笑うミツバちゃんに、少しだけほっとし、中に入って『激辛せんべい』を渡した。


「スゴイ。ホントに依頼すればなんでもやってくれるのね」

「そりゃあ、万事屋だからね」

「オラ、食いすぎんなよ。痔に障るぞ」

「あなた私が痔で昏倒したと思ってるんですか」


そんなプチコントを聞きながら、天井へと声をかける。


「空覇、もうそろそろ出といで。小生達がミツバちゃんを見てるから、一回屯所に帰りなさい」


ミツバちゃんが心配な気持ちはわかるが、これは異常だ。

空覇はあれから一度も、屯所に帰っていない。

そんな事を思い返しながら、天井を見ていると、がたっと天井の板が一つ動いて空覇が少しだけ顔を出した。


「...でも...」

「空覇、お風呂にもちゃんと入ってないだろ?だから行ってきなさい。休息も大切な事だよ。ここは小生達に任せて、ね?」


にこりと微笑みかければ、空覇は渋々と頷いた。そして天井を元に戻して、ガタガタと

音が遠くへ消えていくのを確認してから、今度はベッド下へと視線を向けた。


「それから...卿もせんべいどうだい?」

「バナナとかもあるぞ」


するとベッド下から魚肉ソーセージを持った手が出てきた。


「いえ、結構です。隠密活動の時は常にソーセージを携帯しているので」

「......アレ、山崎さん?なんでこんな所に」

「しまったァァァァァ!!」


三人で下を覗き込むと思った通り退が隠密用の恰好で潜んでいた。

そして、出てこようとする退を銀時がオラオラと軽く蹴る。それを止めて、退を立ち上がらせる。


「す、すみません朔夜さん」

「いや構わないけど...何をしていたんだい?(この前からトシと退は何かおかしい...隠してる...)」

「い、いえ...その...」

「(ミツバちゃんに何かあるわけがない...だが通じる何かなのは間違いない。それはあるとすれば、転海屋のあの男...)」

「あー...オイ、ジミー。ちょっとお前に用があったなそういや。朔夜、お前はここで待ってろ」(ぽん

「...了解、銀時(そっちは頼んだよ)」


うまい具合に退を連れ出し、病室から出ていった銀時に感謝し、椅子に座ってミツバちゃんに笑いかける。


「...山崎さんと銀さんは...?」

「あ、退はどうやら銀時との用があったらしくてね!すぐ戻ってくるよ。それまで話して待ってようか」

「...そうね」


そして日が落ちていくなか、他愛のない世間話をした。

まぁほとんど小生が大江戸の日々の話をして、ミツバちゃんが激辛せんべいを口にしながら笑い頷くという感じだった。

でも、それがとても新鮮で楽しくて、この子と友達になれてよかったなと思えた。

そして夕暮れに部屋が赤く染まるころ、ミツバちゃんが夕焼けが見たいというので、窓際へと移動した。

そこから見える街は綺麗な赤に染まっていた。

全てを溶かすような夕焼けの色にしばし目を奪われていると、ミツバちゃんが再び隣で激辛せんべいを食べだした。

その瞳はどこか遠くを見て悲しんでいるような、なつかしんでいるような、切ないものだった。

そんな横顔を見ていられず、微笑んで声をかける。


「...辛いもんの食べ過ぎは身体に障るよ、ミツバちゃん」

「あら、まだ大丈夫よ朔夜ちゃん。私...今とても調子がいいの」

「――そうかい...(薬に、身体が騙されているだけだと知っているんだろうか)」


何人もの命がついえる瞬間を見てきたから分かる...ミツバちゃんの、命の残量は...もはや...

じっとミツバちゃんを見つめていると、ミツバちゃんが物悲しげに微笑んで此方を見た。


「...ねえ、朔夜ちゃん」

「ん?なんだい?」

「朔夜ちゃんは...銀さんと幼馴染なのよね?」

「あぁ、そうだよ」

「ずっと、一緒にいた?」

「...そうだね、ずっと一緒だった。本当の兄妹のようにずっと...」


離れてても、気づいたらいつも側にいた。いてくれた。

どんな時も、はぐれないようにお互いが標になれるように手を握りあって歩いてきたよ。

そんなことを告げれば、ミツバちゃんは優しくでも、より切ない瞳で小生を見つめた。

それが夕暮れの光の加減のせいなのか、わからないけれど、その笑顔は切なさに泣いているように見えた。


「...いいな、朔夜ちゃんは」

「え?」

「銀さんや...大切な人達に、おいていかれなかったのね」


一緒に行く勇気も、心の強さもあったのね。

そんな事を言うミツバちゃんに思わず苦笑する。


「...そんなんじゃない...小生は意地を張っただけだよ」

「それも強さよ...私ももう少し意地を張ればよかったな」

「え...?」


私に足りなかったものを持ってる朔夜ちゃんが、可愛くて、本当に綺麗で...羨ましい――

飛びきりの笑顔で告げられた言葉に思わず言葉を失った。


「私も...本当は江戸に皆が出るときね、とてもついていきたかったのよ。皆や...十四郎さんに...」

「!――...」

「本当に...心から、好きだったから...」


あ、私達だけの秘密にしてね、と切なさを消して微笑んだミツバちゃんに小生は何故だろうか、言わないよ、と笑い返すことしかできなかった。


***


その頃――

先程まで土方と道場で戦っていた沖田は、土方に負け、庭に倒れ伏していた。


「(くそ...あの野郎...)」

「...総悟」

「!...空覇...」


沖田に音もなく近づいてきたのは、一度帰るように言われ帰って来ていた空覇だった。

その腕には、朔夜の救急箱が抱えられていた。


「...総悟が怪我してたら、ミツバさんが心配するよ」

「!...自分で、やる...そこ置いときなせェ」

「...うん。わかった。それじゃあ僕は行くね」


そして空覇は救急箱を置いてその場を後にした。


「...(感謝してやらァ...空覇)」


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