A
数時間後――
襖が開き、朔夜が眼鏡を外しつつ、小さな袋を片手に出てきた。
「小太郎!出来たよ、まだ試作段階だがね」
「本当か!流石に早いな」
「ただ論理上の上ではこれでいけるはずだが、どうなるかの保証は小生は一切しないよ」
「何だと?!」
朔夜の無責任な言葉に桂は詰め寄る。
「当り前だろう?本来ならその辺で見つけてきた人でじんた...ゴホン、実験をするべき薬だからね」
「今人体実験と言おうとしたろう?」
「いやだな、気のせいさ。とにかく、天才の小生に失敗などありえないよ。だからこれを被害者に投与してみるといい。もう連れてきているんだろう?」
「あぁ...わかった。お前を信じるぞ朔夜」
「ふふん。小生の計算にミスなどありえないからね!...ところで、銀時は...」
「...銀時なら、まだ眠っている。左腕が使えぬ上、肋骨が数本いっているそうだ」
ソワソワという感じで不安げに聞いてくる朔夜を見て、若干ムッとしながらも答える。
その答えに朔夜は驚愕した。
「銀時が!?どんな強敵と戦ったんだ!小生は銀時の所へ行ってくる!」
「朔夜!」
朔夜は桂の呼びとめる声も無視し、廊下を走り出した。
***
バンッ!!
「はぁ...はぁ...銀時...」
銀時の部屋を見つけると朔夜は息を乱しながらも、眠る銀時の隣に座りこんで右手を取った。
「――...大馬鹿者め...小生を、心配させるなっ...」
その表情は安堵に満ちていたが、次の瞬間、その表情はまた不安に変わった。
「...う...っ」
「銀時?(うなされているのか...?)」
「...くっ...」
「銀時、銀時!」
ガバッ
瞬間、銀時が鬼気迫る表情で起き上がった。
「銀時!」
「っ朔夜!?お前なんで...って、アレ?泣いてね?」
「!?ば、馬鹿者ォォォ!!!」
「何でいきなり罵倒されてんの俺!!」
自分でも気づいてなかった指摘をされ、朔夜はごしごしと涙の溜まった目元を拭くと
顔を真っ赤にし銀時の胸元を掴んだ。どうやら過激な照れ隠しのようである。
「卿のために小生が泣くか!この戯けめ!戯けめェ!!」
「二回言った!!てか、何この状況!!?何でお前いんだよ!!」
「!ッ――小生をこれだけ心配させておいてっ...覚えてないのか貴様ァァァ!!」
「お前キャラ違ェェェ!!!...ん?お前今心配したって...」
朔夜の漏らした一言に抵抗しつつ気づく銀時。
「!!...心配して、悪いか。うなされてる卿が悪い!」
「...ったく、素直なんだか素直じゃねぇんだか...でもよ、ありがとな」
「...ふん、馬鹿め」
ガラッ
「何を良い雰囲気なっている。それにしても銀時、ガラにもなくうなされていたようだな...昔の夢でも見たか?」
「ヅラまで?なんでてめーらが...」
そこまで言って、銀時は数時間前のことを思い出したらしく
布団から立ち上がろうとしたが、すぐに布団の上に倒れた。
その間に桂は朔夜の隣に座った。
「無理だ。左腕が使えないうえに、肋骨も数本いってるらしい」
朔夜が倒れる銀時に静かに状況を告げる。
それを引き継ぐように、桂が次に口を開いた。
「むこうはもっと重傷だ。お前がかばったおかげで外傷はそうでもないが、麻薬にやられている。
今は_朔夜#に早急に作らせた解毒薬で安定しているようだが」
「タイミングが良かったよ。小生は半分くらい断る気だったからね」
「クソガキめ、やっぱやってやがったか...つーか科学者のチョイスがこいつかよ!」
「失礼な。天才の小生に不可能と失敗の文字はない」
「嘘つけ!あのガキ死んでないだろうな!?」
「なにを!?しっかり効いただろ!?小太郎!!」
「あぁ、今回は効いたぞ」
二人の視線を受けつつ、しっかりと頷く小太郎。
その答えになんだか複雑な表情を浮かべる朔夜。
「...含みが気になるが、まぁよしとしようか」
「というか、貴様は何であんなところにいたんだ?」
「というか何でお前らに助けられてんだ?俺は。
というかこの前のこと謝れコノヤロー!」
「というか、お前はこれを知っているか?」
「(というか、というかと言い過ぎじゃないか?って小生も言ってしまったよ!!)」
一人自己嫌悪に陥っていると話が随分進んでいたらしかった。
「オイ、きいているのか?」
「はっ!?な、何がだい?!」
「お前じゃないぞ、朔夜」
「そ、そうか...というか銀時、その体でどこへ行くつもりなんだね!」
いつの間にか布団から出て掛けられていた着物を手に取る銀時に朔夜が思わず声を荒げる。
その声に、銀時は外を見たまま答える。
「仲間が拉致られた。ほっとくわけにはいかねェ」
「その身体で勝てる相手と?」
「相手は、春雨だろう...?」
「“人の一生は、重き荷を負うて遠き道を往くが如し”」
「!(その言葉は...)」
懐かしい言葉に朔夜が目を見開く。
「昔なァ、徳川田信秀というおっさんが言った言葉でな...」
「誰だそのミックス大名!」
「聞いたことないぞそんな大名!家康公だろ、家康公!」
シリアスをとことんギャグにする男だな。そう思いつつ、桂と朔夜が修正する。
だが銀時は構わず続けた。
「最初にきいた時は、何を辛気くせーことをなんて思ったが、なかなかどーして年寄りの言うこたァバカにできねーな...」
「銀時...」
昔を思い出し朔夜は目を伏せた。
「荷物ってんじゃねーが、誰でも両手に大事な何か抱えてるもんだ。だが、かついでる時にゃ気づきゃしねー。
その重さに気づくのは全部手元からすべり落ちた時だ。もうこんなもん持たねェと何度思ったかしれねェ。
なのに...また、いつの間にか背負い込んでんだ」
「...(嗚呼、やっぱり強い男だよ。卿は)」
朔夜は銀時の背を見て薄く笑った。
「いっそ捨てちまえば楽になれるんだろうが、どーにもそーゆ気になれねー。荷物(あいつら)がいねーと、歩いててもあんま面白くなくなっちまったからよォ」
「...」
銀時がすべて吐き出し終わると、桂が銀時の隣へと歩き出した。
その一歩後ろを朔夜が面白そうに笑いながらついてくる。
「仕方あるまい。お前には池田屋での借りがあるからな」
「小生は別に銀時のためではないがね、個人的な探究心と欲求を満たしに、つき合うとしよう」
「!」
「「ゆくぞ/行こうか」」
「あ?」
「片腕で荷物などもてまいよ。今から俺がお前の左腕だ」
「なら小生は、その二人の背をいつもどおり後ろから押そうかな」
訝しげな顔をする銀時に二人が笑った。
〜Next〜
prev next