銀魂連載 | ナノ
第九十八訓 かもしれない運転でいけ。いやでも、かもしれない運転で事故るかもしれないじゃないか




「はぁ...面倒だねェ(免許更新を忙しくてすっかり忘れてたよ)」


ベンチに座り、ぐっと伸びをした。

小生は先日、免許を更新するのを忘れて失効にされ、取りなおすために自動車学校の講習に来ていた。


「ふあぁ...(でもま...銀時も数日前にピザ配達中の全蔵を撥ねて、タイミングよく免許取り消しになって一緒の講習受けることになったし、まだ友達いる分いいか)」


あくびをしながら思い返していると、トイレから銀時が戻ってきたのが見えた。


「おーい朔夜、そろそろ行くぞ」

「あ、うん〜今行くよ〜」


そして小生達は教習所のコースに向かった。


***


「すいませーん。また来ちゃいました〜」

「また更新忘れちゃいました〜」


へらっとしながら、今回も担当らしいよく見知った先生に言う。


「また来ちゃいましたに、忘れちゃいましたじゃないでしょ、坂田さんに吉田さん。アンタら何度ここに戻ってきたら気が済むの。

何?坂田さん、今度は何やったの?吉田さんはどうして忘れちゃったの?」

「すいません〜。忍者をね〜ちょいとはねちゃいまして〜エエ免許とり消しみたいな」

「小生はアレなんですよ。普段から持たないもんだから...ついしまいっ放しで」


まさか切れてるとは...不覚だった。


「なんで車より速く走れる忍者をはねれるの?隕石が地球に落ちてくるくらいの確立だよ。

それに吉田さん、普段から免許持たないと無免許運転で捕まるよ?なんで持たないの」

「「先生の教えのたまものです」」

「教えてねーよ。何ちょっと先生のせいにしてんの」


そして先生はため息を吐くと、説教を始めた。


「だから言ったでしょ、『だろう運転』はダメだって。『誰も飛び出してこないだろう』『多分免許持ってなくても大丈夫だろう』

こんな気構えじゃ、急な時対応しきれないの。『かもしれない運転』でいけって言ったでしょ」


そういえば言ってた気もする...


「『忍者が出てくるかもしれない』『もしかしたら無免許でつかまるかもしれない』

そういう気構えで運転してればなにが起きてもスグ対応できるでしょ?免許を持って運転して更新日も忘れないでしょ?」

「まぁ...」

「ハイ、じゃ坂田さんは助手席、吉田さんは僕と一緒に後部座席乗って。君達に足りないのは技術より注意力だから、他の人の運転を見て注意力を養う。

じゃあよろしくね。今日は合同教習だから」


そして助手席の扉を銀時が開けて、運転するのは誰だろうと見ると、そこには見覚えのありすぎる顔があった。


「どうも、宇宙キャプテンカツーラです。よろしくお願いします」


その瞬間、銀時がキャプテンカツーラもとい小太郎を、反対側のガラスを突き破らせ外まで蹴り飛ばした。


「よし、何も見なかったね。誰もいなかった」

「坂田さん、吉田さん〜、かもしれない運転でいけって言ったでしょ?『もしかしたら合同教習の相手が宇宙キャプテンかもしれない』

そーいう気構えでいかないとダメ」

「「あ、スイマセン。ちょっとビックリしちゃったんで」」


そう遠い眼で冷静に言いながら、とりあえずお互い車に乗る。


「早くカツーラさん車に乗って。乗車する前にちゃんと周囲確認ね」

「ハイ。もしかしたら車の下に忍者がはりついてるかもしれない」

「もしかしたら確認作業中に車が急発進するかもしれない」


ブォォォ ガタゴン


「ぐけふっ!」

「ちょっ銀時!?」


今完全に小太郎轢いたよ!?

心配になって外の小太郎を見るが、小太郎はめげずに車の後ろに回っていた。


「もしかしたら、車の後ろで忍者がかくれんぼしてるかもしれない」

「もしかしたら車がバックしてくるかもしれない」


ブォォオ ガタコン


「ぐぎゃぶ!」

「銀時ィィィ!やり過ぎやり過ぎ!!」


無情にも再び轢いた銀時に、思わず止めに入る。

すると小太郎が流石に怒ったらしく、銀時に怒鳴ってきた。


「いい加減にしろォォ貴様!!俺は真面目に免許をとりにきているんだぞォォ!!」

「カツーラさんはね、ビデオ屋の会員になりたくて免許を取りに来たんだよ」

「ビデオ屋の会員!?どこが真面目なの!?」

「俺と朔夜だってなァ、真面目に免許取り直しにきてんだよ!お前なんかに付き合うのは絶対嫌だ!先生なんとかしてくれ!」


しかし銀時の言葉は受け入れられず、結局一緒に乗り合わせ、小太郎の運転でコースを走り出した。


「もしかしたら、仲の悪い二人と微妙な立場の一人が一緒に乗車することがあるかもしれない」

「(仲が悪いというか...うん。小太郎の運転が心配だな)」

「ね?かもしれない運転だよ三人とも。あらゆる状況を想定して、臨機応変に安全で速やかな運転を心がけるんだ。

あーいいよーカツーラさん。初めてにしては、実にいいハンドルさばきだ」

「でもスピード出しすぎだよキャプテン。カーブ前は減速しなきゃ!」


減速する気配がない小太郎に後ろから声をかける。しかし、緊張しているのかハンドルに寄ってガチガチの小太郎には聞こえていなかった。


「お前力入り過ぎなんだよ。ハンドルに寄り過ぎ。かえって視界悪くなるぞ。身体を離せ」

「もしかして...俺は緊張しているのかもしれない」

「どんなかもしれない運転?!」

「つーかかもしれなくねーんだよ。完全に緊張してんだろーが!」


話を聞いているのか聞いていないのか、カーブで減速せず、小太郎はドリフトをかました。


「ちょっとキャプテン!危ないからスピード落として!!」

「坂田サン、ブレーキを。教習車には助手席にもブレーキがあるから」


その言葉にブレーキを落とそうとした銀時の足を掴んで止める小太郎。


「小太郎何して...」

「もしかしたら...スピードを50キロ以下に落とすと爆発する爆弾をどこかのテロリストがしかけているかもしれない!」

「どんだけ手の込んだかもしれない運転!?」

「ていうかテロリストは卿だから!!」


ていうかこんな教習車に爆弾しかけるアホがいるかい!


「オイぃぃ先生!!どうすんだ!?だから俺イヤだっていったんだよ!コイツクソ真面目だからこういう事になんの!!」


そして、S字だろうがおかまいなしにそのまま直進で走り続けていった時、小太郎が唐突に語り出した。


「もしかしてS字の曲がった部分の一つに...」


***


「すっかりさびしい食卓になってしまいましたね。...夏子さんの花嫁姿、お母様にも見せてさしあげたかった。とてもキレイだった」

「てやんでェバーロー。おめ、娘なんてロクなもんじゃねー。どんなにかわいがって育てても結局みんな余所にいっちまいやがる。薄情なもんでィ」

「アラ、娘ならまだここにいるじゃないですか、お父様」

「......松子さんよ。アンタ今からでもいい。誰かいい人探したらどうかね。息子の嫁とはいえ、今やその息子も死んでいねェ。

血のつながりのないアンタが、こんな老いぼれの世話する義理もねーだろう。アンタは気立ても器量もいいから、幾らでも相手がいるよ。

俺に気ィ遣うこたァねェ、一人でもやっていけるさ」

「......こんなオバさん、もうもらい手なんていませんよ。お父様、そんなに私を追いだしたいんですか?」

「いや...そーじゃなくて」

「フフ...縁談があればスグにこんな家出ていってやるわ」


そんな憎まれ口を叩くくせに、女はいつになっても出ていかなかった。

いつも口うるさく俺の世話を焼いた。



ある日の夜−−


「もういいじゃないか」

「?」

「まだ死んだ旦那に未練があるというのか。もう7年だぞ?君は君で人生を歩むべきじゃないのか?

もういい加減、僕と一緒に新しい一歩を踏み出してもいいんじゃないのか?」

「...私はいつだって、自分の人生を歩んでいます。未練とか、そんなくだらない理由でこの家にいるんじゃありません」

「じゃあ何故だ。他に男でもいるというのか?」

「私には、お父さんがいますから。血はつながってないけど、お父さんなんです。私の...」


***


――というモグラ達があのS字の土の下に...


「いるかもしれな...」

「いるかァァァァァァァァ!!しかも無駄に長ェェんだよ!!もう『かもしれない運転』でもなんでもねーよ!!ただの妄想じゃねーか!!」


銀時がブレーキを半ば無理やりかけながら踏み切りの前で車を止めた。


「坂田サンよく止めたねェ。踏切前は一時停止」

「止めてくれてありがとうね銀時」


ぐすぐすと流れてきた涙を拭いながら声をかける。


「なんで泣いてんの?しかも朔夜まで」

「小太郎の妄想に不覚にも泣けてきてッ...!」

「おーい、アレただのコイツの脳内妄想だぞ」

「わかってるよ...!」

「とにかくはい、カツーラさん窓開けてェー」

「いやもう窓ないんですけど」


涙をぬぐっていると先生が踏み切りの説明を始めた。


「ここでも『かもしれない運転』だよ。『電車が来るかもしれない』『踏み切りが下りてくるかもしれない』耳で音を直接確かめてください。

まあ教習所ですから電車は通りません。線路もないけど、一応形式としてやってください」


すると――


「!!いや、ちょっと待て!!」

「へ?」

「...える。きこえる。きこえるぞ電車のくる音が!!」

「...え?」「きこえねーよ」

「いやきこえる!!踏み切りが下りる音も!!はっきりときこえる!!」

「オイ朔夜ヤベーよコイツ、頭見てやれよもう!!」

「うん、小生も流石に心配になってきた!」


幻聴に幻視って...大丈夫かな小太郎...そう思いながら見守っていると目の前の踏み切りの中央を見つめた。


「!!あ...あれは...お父様ァァァァ!!」

「えぇ!?」


止める暇もなく、ドアを開けて飛び出していって踏み切りの所にあったカラーコーンスライディングで蹴り飛ばした小太郎をただ車の中から見ていた。


「「......」」

「バカヤロォォォォ!!なんてマネしてんだ!!死ぬところだったぞ!!アンタが死んでどうなる!!それを松子が望むと!?」

「「.........」」

「俺といても松子は幸せになれねェ。松子より確実に早く俺は死ぬ。その時、一人年おい残された松子はどうすりゃいいんだ。

...俺はいない方がいいのさ。俺がいなければ松子は俺と言う呪縛から解き放たれ自由になれる(桂裏声)」

「それは違うわお父様!!(桂裏声B)」

「お前はまっ...(桂裏声)」


ドゴッ

電波ワールドを見ていられなかった銀時が運転をしだし、小太郎を黙らせるために思い切り撥ねた。

小生も今回ばかりは何も言わない。

そして銀時はそのままコースを走らせていく。


「...坂田さん、吉田さん」

「「はい」」

「かもしれない運転はもうしない方がいいかもしれない」

「「そうかもしれない」」


その後、小生達二人は無事免許を取ったわけだが、小太郎はビデオ屋でなんと指名手配書を見せたらしい。

その話しを聞いてから、借りたかったら小生を連れていくようにと言いつけたのはいうまでもない。

いつか小太郎が捕まりそうで、ハラハラするよ...


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