第九十七訓 女の一番の化粧は笑顔。だから絶やさず絶やさず
小生達は、とある披露宴のため、とあるホテルの大広間へと来ていた。
『新郎新婦入場です!』
パチパチパチ...
「「「「...」」」」
「本当に近藤さん結婚するんだねー。ね、朔夜さん」
「そうだねー...(まさか近藤の旦那が本当にゴリラの王女と結婚とは)」
あの騒動の裏でこんな事態が進んでいたとはね...
事実は小説よりも奇なりとは、本当にいったものだよ
そう思いながら、遠い眼で目の前の異常な光景を、万事屋一同と空覇と共に眺めていた。
「銀さん、朔夜さん。人間一体どう転ぶとあんなことになるんですか?」
「見合いで脱糞してワントラップいれるとああなるんだよ」
「そんな状況中々人生にないはずなんだがね」
気をつけようね...と子供達3人に遠くを見たまま言いきかせていると、小生と銀時の後ろから
松葉杖をつきながら、小生達と同じく正装の沖田君が声をかけてきた。
「旦那、朔夜さん。笑い事じゃないですぜ」
「いや、笑ってねーよ...」
「というか笑えないよコレ...」
「他人の結婚式で泣きそうになったのは初めてだ」
「ほんとそれ」
「なんとかなりませんかねェ」
「なんとかって...こっちがなにをどうしたらいいか聞きたいくらいなんだけど」
この猿の惑星状態をどうしろと言うんだい?
「この披露宴はただの顔見せみたいなもんでねェ、この後、王女の星で正式な婚礼をあげれば
近藤さんもはれてゴリラの仲間入り...もう帰ってきません。ブチ壊すのは今夜しかねーんです」
「ブチ壊すって沖田君。最初からこの披露宴壊れてるだろ。ゴリラだらけだもの」
「最初から壊れてるものを壊すなんて小生達にもできないよ。完成品が既に粉々だもの。ゴリラだらけだもの」
いつも以上に死んだ目で辺りを見る銀時と共に総悟君にそう返せば、不服そうにされた。
「そりゃねーぜ、旦那に朔夜さん。なんやかんやで、俺たち姐さん救うのに一役買ったんですぜ。これで貸し借りなしにしやしょーや」
その時、ガガッと総悟君のもっていた無線から近藤の旦那の声が聞こえてきた。
『こちら近藤。応答願います!どーぞ。お前ら何やってんだ!早く披露宴ブチ壊してくれ!!どーぞ』
「(そう言われてもなー...)」
『お前らこんなん得意だろうが!御馳走食わせるために呼んだんじゃねーんだぞ!!どーぞ』
「御馳走ってお前コレ、バナナしかねーじゃねーか。あんま俺達なめんじゃねーぞコラ。どーぞ」
すると今回の縁談は松平の旦那が絡んでいるからヘタに真選組は動けないから、陰で動ける小生や銀時に頼んでいるんだと言ってきた。
「(まぁ分かるけど...こんな状況に人生の中でめぐり合うとは思ってなかったから戸惑いしかない)」
頭を抱えていると、無線機をとった神楽が、バナナはどこ産だと近藤の旦那に聞きだし、どうでもいい会話をしだした。
そして銀時と総悟君は連れだってトイレに行ってしまった。
「はぁ...(ヤル気ゼロだね皆...まぁわからなんこともないけどさ)」
「どうする朔夜さん。全員潰しちゃう?」
ぐっと拳を作る、綺麗にドレスアップさせた空覇を見て、思わず苦笑した。
「ダメだよ空覇。一応このゴリラたちは国賓だからね...国際問題になっちゃうから」
「こくさい??」
「ま、簡単にいっちゃえば、大変なことになるからダメってことだよ」
「ふぅん...そうなんだ...わかったよ、朔夜さん」
「(それに、小生が動かなくても、きっと上手く転がるだろう...今トシが妙ちゃんを呼びに行ってるし...)」
多分来てくれるでしょう...あの子は侍の子だし。ちゃんと恩は返すだろう。
「(なんやかんや、近藤の旦那とお似合いな気がするしね)」
そう思いながら、少しお腹が空いてきたのでバナナをもさもさと食べていると、別テーブルのオスのゴリラの一匹が小生に話しかけてきた。
「ウホホッ!【なんて魅力的な女性なんだ!】」
「ん...?(なんか話しかけてきた...)」
「ウホッウホッ【バナナを食べる姿も可愛らしい!】」
「う、ウホ...?【あ、ありがとう...?】(猩猩語を調べてきてよかった...大体言ってる事わかるぞ、よし)」
「ウホホホッウホッホ!【地球人にもこんな心惹く女性がいるとは!】」
「(あれ...なんかこの流れ嫌な予感しかしない...)...ウホホ...ウホ【すいません。用があるので失礼します】」
「!ウホッ【待ってください!】」
「朔夜さん!?」
「空覇は、そこいていいから!」
ゴリラの引き止める声を聞かないふりして、松平の旦那が用意してくれた深海のような色のドレスの裾を持ち上げ早足に広間を出た。
「はぁ...なんか危ない感じした...(あの目はなんども天人に向けられてるし。獣に近い天人ってやっぱそういう本能もやばいのか...!?)」
いやいやいやないないない...頼むから種族内だけでしててくれ
そう思いながら、ひやひやして流れた汗を、ソフに座って拭っていると
一つの陰がホテルの入口の方から現れたのが遠目に見えた。
「ん...あれは...」
「...あら、朔夜さん!今日はドレスなんですか?とてもお綺麗ですよ」
「え、あ、うん。ありがとう...ていうか妙ちゃんやっぱり来てくれたんだね...
(でもなんで薙刀...?)」
「えぇ。それと、この前は本当にありがとうございました。迷惑を...」
「あぁ、気にしないどくれ。好きでやった事だから」
「はい...でも、今回の事で貴女を母親のように慕う神楽ちゃんと、空覇ちゃんの気持ちがよく分かりました」
「おや...そんな大層なもんじゃないよ。いつまでも好き勝手してる不良娘さ」
そう返して立ち上がり、妙ちゃんに笑いかけた。
「それに小生は、妙ちゃんのいつもの元気な笑顔が見たかっただけさ...さて、披露宴はこん中でやってるよ」
あとは任せるよ、妙ちゃん。
目の前の大きな扉を指して言えば、妙ちゃんは笑顔で頷いてくれた。
「えぇ、ありがとうございます朔夜さん(本当に朔夜さんがいてくれて...よかった
きっとこの人は、自分は何もしていないよ、と笑顔でかわすだろうけど)」
「いやいや...いってらっしゃい(よし、小生はもうしばらくここにいようかな)」
そして扉を思い切り開け、中に入った妙ちゃんの背中を見ながらソファに腰かけた。
中の大騒ぎが半端ない事になっているのがよく見えて、出てきといてよかったと本気で思う。
「...あ、空覇置いてきちゃった...」
でも、大丈夫か。ちゃんと自己防衛できるし、うん。それにあれは不可抗力だ。
そう自分を納得させ、座っていると、またホテルの入口に人影が現れたのが見えた。
「!...おや...」
「!朔夜さん...!」
「!朔夜殿!」
「九兵衛ちゃんに歩じゃないかい。この前ぶりだね。その後身体は大丈夫かい?」
思わぬ来客に一瞬驚いたものの、笑んで問いかける。
「は、はい...あの...この前は、迷惑を...それに失礼な事を言って、」
「あぁ、何も気にしなくていいよ。九兵衛ちゃんが小生に謝るような事は何もないはずだよ」
「!」
手を伸ばし、しゅんとする九兵衛ちゃんの頭を撫でると、驚いたような顔をされた。
その目を、笑って見つめ返す。
「ん...真っ直ぐな綺麗な目だ。いくらでも卿ならやり直せるよ...大丈夫さ、九兵衛ちゃん。だから、何も小生に謝らないでおくれ」
全て手の中にある内に気づけた九兵衛ちゃんなら、きっと失う事はないだろう。
「!は、い...(温かい...妙ちゃんと似てて、でも...どこか違った強さのある女性だな)」
「よし!それで今日はどうしたんだい?」
「あ、祝儀を...」
「あぁ、祝儀ならあのカウンターだよ」
「あ、わかりました。ありがとうございます」
「気にしないでおくれ」
そして、祝儀を渡しに行く九兵衛ちゃんの小さくなる背中を優しい気持ちで見つめていた時
広間の方から、ゴリラの女王に追いかけられて、ものすごい勢いで全員が走って出てくるのが見えた。
「げっ!!!」
それを見て思わず小生も危機を感じ走り出す。
しかし、すぐに逃げる皆と混じる。
「ったく、もー!!!」
悪態をつくと、隣を走る妙ちゃんが小生の手を握ってきた。
思わぬ行動に、彼女の顔を見れば、彼女は楽しそうに元気そうに笑いながらこっちを見た。
その笑顔に何だかこちらまで楽しくなり、ふっと口元を緩ませて、妙ちゃんの手を強く握り返し、同じように笑みを返して走りだした。
それからというもの、妙ちゃんと九兵衛ちゃんとも、なんとなく前より仲良くなれて、たまに会うようになれた。
まぁ若い女の子と一緒に遊ぶって、少し気恥ずかしいんだがね...男ばっかりの所で十代を過ごした分、ちょっと新鮮で嬉しいのは秘密だ。
〜Next〜
prev next