第九十六訓 誰もが誰かを想ってる。それは誰もが誰かに寄り添わねば強くなれないから
しっかりとした顔つきになった新八君に、もう心配はいらないと思い、戦いの邪魔にならないようにと距離を置いて、妙ちゃんの隣に立った。
そして火を付けた煙管を口にし、日日草の香りを吐きだした。
「(ぼちぼち...勝負が決まるな。手当ての準備をしておこうか)」
やれやれ、この人数だし...これは久々の大仕事だねェ...
そんな事を考えながら、携帯式操作盤で、カーラス達にポチポチと命令を送るのだった。
***
「かっ...勝ったァァァァ!!」
「新八ィィィ!!」
「新八君おめでとう!」
新八君が敏木斎様の皿を割ったことで決着がついた。
それを見て、戦っていた者たちが動きを止め、近藤の旦那と神楽ちゃん、そして空覇が新八君へ走り寄って行った。
それを温かい気持ちで見ながら、先程思い切り敏木斎様に石燈籠に腹部を打ちつけられ皿を割られた、血だらけの銀時に近づいた。
「銀時、お疲れさん。ナイスファイトだったよ」
「...おう...お前もな」
「ふふっ、ほらつかまって」
手を伸ばし、支えて立ち上がらせる。
そして、屋敷内に行かせようとした時、行く先に目を伏せて立ちつくす妙ちゃんがいるのが見えた。
「...妙ちゃん、そんな沈まなくても、小生達は男だ女だとか責める気は一つもないよ。だけど、九兵衛ちゃんは知っていたんじゃないかな。
妙ちゃんがどんなつもりで、どんな思いで自分の左目になろうとしていたか」
「お前も知ってたはずだ。そんなモン背負ってアイツの所へ行ったところで、何も解決できねー事くらい」
「...」
「お前らは知ってたはずだ。こんな事しても誰も幸せになれねェ事くらい」
「...ごめん...なさい」
目を合わせず謝る妙ちゃんに、ふっと息を吐いてから銀時から手を離し、妙ちゃんの身体を抱きしめ、安心させるよう背中をぽんぽんと叩いた。
「謝る必要なんてないよ...誰も。皆ね、自分の護りたいものを護ろうとした...たった、それだけのことなのだからね」
今日くらい、我慢しないで素直に気持ちを吐きだしてらっしゃいな。
「!(本当に、母や姉のような人...)」
小さく妙ちゃんに耳打ちしてから身体を離し、銀時を支え直して、それ以上は何も言わないで笑いかけるにとどめた。
すると妙ちゃんは何も言わず、仰向けに倒れたままの九兵衛ちゃんの方に向かった。
少しすると、九兵衛君が話しだしたのが聞こえた。
「......朔夜さんとあの男の言うとおりだ。僕はみんなしっていた。勝手なマネをして君に重い枷をつけ
君の思いをしりつつも、見て見ぬフリをした。君を側に置きたいばかりに...」
「...」
「それでも君は、僕を護ろうとしていたね。僕の左目になるって...父上やおじい様が僕を護らんとして男として育てたこともしってる。
でもどこかで恨んでた。僕を男でも女でもない存在にしたこと...僕がこうなったのは誰のせいでもない。自分自身の弱さのせいなのに」
「(いい子だね...九兵衛ちゃんは)」
「それでもみんな、僕を最後まで護ろうとしてくれた。結局僕は...護られてばかりで前と何も変わらない。
約束なんて...なんにも果たせちゃいなかったんだ。僕は...弱い」
「...」
「......なんで、こんなふうになっちゃったんだろ...いつからこんなふうに......
僕も...ホントはみんなと一緒にままごとやあやとりしたかった。みんなみたいにキレイな着物で町を歩きたかった。
妙ちゃんみたいに...強くて優しい女の子になりたかった」
心からの声に、妙ちゃんが答える。
「...九ちゃん。九ちゃんは...九ちゃんよ。男も女も関係ない、私の大切な親友。だから...泣かないで。それでほォお侍はん...」
「妙ちゃん」
「...めんなさい。ごめんなさい。でも...今日位泣いたっていいよね。女の子だもの」
涙して抱き合う二人に、もう二人は大丈夫だと微笑んで、そんな二人を不躾に遠目に眺めている怪我だらけの男達を動かす事にした。
「ほらほら、いつまで女の泣き姿を眺めて突っ立ってる気だい。卿らは全員手当ていくよ」
「え、ですが...」
「いいから黙って来る。これ以上は野暮だよ。あ、輿矩様、屋敷の広間一室借りますね」
銀時を支えたまま歩き、近場の広間の縁側に銀時を座らせてから襖をパンと開けた。
目の前に清潔感のある広間が広がった。
「えっ、ちょ、朔夜さん!?まだ良いって言ってな...」
「一室くらいケチケチせんでください。もうそろそろ荷がくるんで」
下の方で縛ってる髪から紐を抜き、上の方で髪をポニーテールに縛り直すと、頭上からバサバサと待っていた複数の羽音がした。
「カァカァ」
「!(鴉!?)」
「ご苦労さま。ありがとうね」
いつもの医者鞄や、予備の医療器具の入った箱を持ってきてくれた
可愛いカーラス達の頭を撫で労い、再び空に飛ばした後、空覇を呼んだ。
「空覇、手当ての準備を手伝ってくれるかい?」
「うん勿論だよ!」
そして空覇と準備を始めると、歩が慌てたように止めに入ってきた。
「ですがこれだけの人数を...」
「小生を舐めるんじゃないよ。この程度の人数問題ないさ。ほら、重傷者と意識がないのから運んでくれたまえ」
天才の小生に任せなさいよ、と強気に笑えば、歩は諦めたように息を吐き、みんなも躊躇いながらも動きだした。
それを見て、小生も一人ずつ手当てを始めた。
こうして、一日の出来事とは思えない長い騒動は幕を閉じたのだった。
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