第九十五訓 普段眼鏡かけてるやつが眼鏡外すとなんか物足りない気がする。本人も物足りない気がしてる。
「ぐっ、たった4人に何をしているかァ!!さっさと片付けろ!!」
輿矩様の声が響く中、5人が庭で応戦する。
「銀ちゃーん、新八ィィ!!」
「あとは頼みますぜ」
「ここまできて負けんのはごめんだぜ!」
「二人とも頑張れー!」
「お妙さんを、俺達の意思は任せた!!」
「二人とも!ここで勝たなきゃ男じゃないよ!」
「「「「いけェェェェボケェェェェ!!決着つけろォォ!!」」」」
あの二人なら強いし大丈夫だろう...じゃ、小生も少しばかり皆のサポートくらいはしようかね。
妙ちゃんから離れて足袋で庭に降り、細い治療針を手にし、こちらに注意を向けていない柳生の門下たちの首筋に向けて針を放った。
プスッ
「っ!?」
どさっと音を立てて、ささった男達が意識を失い倒れる。
「ふふっ、しばらく寝ていなさいよ」
治療針を飛ばして、運動麻痺や失神を起こす個所に軽く打ちこみながら、下っ端の戦力をちょこちょこと減らす。
そんなことをして大体減らした後、後ろ側で行われている激しさを増す戦いに目をやった。
すると銀時は対応できているが、新八君が九兵衛ちゃんにふっとばされていた。
それを見てよそ見をした銀時が、敏木斎様に一撃を受けながらも応戦し、皿を割られそうになった新八君を機転で助けた。
どう見ても劣勢なようだった。
倒れたまま隙だらけの新八君の姿に思わず叱咤を飛ばす。
「ッ、新八君しっかりしなさい!!卿はそんなもんじゃないだろう!」
「そうだぞ新八ぃ、しっかりしやがれ。まさかテメーまでフェミニスト気どってんじゃねーだろうな」
「うごをを...ホントに女!?力も身のこなしも並の男じゃ敵わないよアレ」
「何今さら馬鹿な事言ってるんだい!?実力と才能に男も女もないんだよ!」
起きあがった新八君の言葉に思わず呆れる。
「今さら実力差に気づいたところで遅い。そちらの男は使えるようだが新八君...君は完全にお荷物のようだな」
「!(...ちょっとばかし失礼だね)」
「大将の小僧がやられれば勝負は終わり。しかし兄ちゃん。お前がやられても小僧一人では勝負は決したようなもの」
「この勝負、荷物を抱えて勝てるほど甘くはないぞ」
そして柳生の二人は地を蹴った。
そしてその速さを前に、新八君が怖気づいてしまったのが見えた。
「!怯えたらダメだ新八君!」
その瞬間、新八君と銀時に九兵衛ちゃんと敏木斎様が飛びかかっていった。
新八君が、相手の動きが見えないのか、叱ったばかりなのに目を瞑ったのが見えた。
そんな新八君に銀時が叱咤するように声をかけた。
「新八ィ目ェあけろ!びびってんじゃねェ!!見えるもんも見えなくなるぜ!!」
「勝負は終わってないんだから目だけは開けときなさい!諦めんじゃない!!」
「(そんなこと言ったってこんなのっ...)」
その時、新八君の木刀が吹き飛ばされた。
そして反射的に新八君がそれを拾いに行くのが見えた。
「!行くんじゃない!!」「動くな!!」
瞬間、九兵衛ちゃん達が新八君の懐に飛び込んで皿を狙った。
それを銀時が身を呈し庇った。
「ぐふっ!!」
「!銀時ィ!」「銀さん!!」
そして新八君を後ろに庇いながら戦いだした。
それを見て九兵衛ちゃんが馬鹿にしたように笑う。
「お笑いじゃないか新八君。姉上をとり返そうと仲間をひき連れ乗り込んできた君が一番の足手まといとは」
「!」
「君はなんとなくわかっていたんじゃないのか?どんな無茶をしようが、結局最後は誰かが助けに来てくれることを
誰かが何とかしてくれる。そう思っていたからこそ、、勝ち目のない僕に戦いを挑みに来たんじゃないのか?」
「...」
「君は昔からそうだった。誰かの陰に隠れ、誰かに護られ、君を護る者の気持ちなど知りもしない。その哀しみも背負うものも見ようとせず、ただ、すがるだけ」
「っ(新八君は、そんなことはないよ...)」
だって...
"「ふぅ...っう...おとうさぁん...」
「おや...また恐い夢でも見ましたか?朔夜」
「っおとー、さん...」
「大丈夫ですよ...何も恐いものなどありはしませんから」
「う、ん...ずっと...一緒に、いてね...」"
「(新八君は...誰より愚かで弱かったあの頃の小生とは違うから...)」
「妙ちゃんの顔に何故、あんな偽物の笑顔がはりついてしまったか君に分かるか?それは新八君、君が弱かったからだ。
君に妙ちゃんの哀しみ、苦しみを受け止める強さがなかったから、彼女は自分の弱さを隠そうと、あんな仮面をつけてしまったんだ」
「(九兵衛ちゃんは新八君のことを分かってないなあ)」
「僕が妙ちゃんの隣にいればこんな事にはならなかった。僕は妙ちゃんの本当の笑顔を取り戻す。
君に妙ちゃんは護れない。護る資格もない。彼女を護れるのは僕だけだァァァァ!!」
言うが早いか九兵衛ちゃんと敏木斎様の木刀が、新八君を背に庇う銀時に当たってさらに傷を負う。
「銀さん!!」
「...九兵衛ちゃん、卿は新八君のことを何一つ分かっていないね」
「!朔夜さん...」
「何をいきなり...」
思った事を口にした時、銀時が血を流しながらヨタヨタとしながら立ち上がって九兵衛ちゃんに向けて、怒りを秘めた目をしながら吐き捨てた。
「朔夜の言うとおりだ。それなのにしったよーな口をきくんじゃねーよ。テメーに新八(コイツ)の何がわかるってんだ」
「小生も流石に、九兵衛ちゃんが新八君を語るのは赦さないよ」
「テメーなんぞにコイツを語ってもらいたかねーんだよ」
「今の卿に新八君を揶揄する資格はないからさ」
「!」
その時、敏木斎様が銀時に向かって切りかかった。
それを新八君が銀時を押して庇い、思い切り屋敷内に吹っ飛ばされた。
「しっ...新八ィィィィィ!!」
「!新八君!!」
そして走って向かおうとする銀時と小生の前に敏木斎様が立ちふさがった。
「「!!」」
「言っても無駄ぞい。大将撃沈、これで終わりじゃ」
「...ふっ」
「バカ言ってんじゃねーよ......じーさんよ」
「敏木斎様、九兵衛ちゃんは...護りたい護りたいと自分の主張ばかりで、自分が周りに護られて生きていることすら気づいていませんよ」
「そんな奴にゃ、誰一人護ることなんてできやしねーさ」
「......アレ、兄ちゃん木刀は?」
「あれれ〜どこいっちゃったんだろ〜」
その時、九兵衛ちゃんが屋敷内からふっとんできた。
その姿に敏木斎様が驚く。
「きゅっ...きゅーべーーー!!」
「(...やっぱりあの一瞬で渡してたか)にしても新八君、もう大丈夫そうだね...」
「......新八、テメーにはよく見えるだろ」
「...護り護られることができる」
「大事なモンがよ」
「あーーーようやく見つかった。これで、よく見える」
そういって出てきた新八君は眼鏡をかけていて、自信に満ちた顔をしていた。
〜第六章 End〜
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