第九十四訓 間違いは誰にでもある。問題は、それをどう正すか
「!?」
「「!朔夜さんッ!?」」
「...朔夜さんも来たのか」
襖を開けはなった先には眼鏡がない新八君、妙ちゃん、庭先には九兵衛ちゃん、そしてその脇に血まみれで倒れるトシがいた。
「!(トシ...!なんてこったい...)」
九兵衛ちゃんと戦ったのか...!?こりゃますます早く終わらせなきゃ...
そう思いながら、こちらを見つめる九兵衛ちゃんを見返した。
「...どうやら修羅場にきちまったようだねェ、九兵衛ちゃん」
「!朔夜さん、九兵衛さんが女って知ってたんですか!?」
「これでも医学に通じる人間だよ。男か女かぐらい勤めにきた日に分かったさ...」
ま、妙ちゃんが幸せそうなら、中立を貫くつもりだったんだがね
「でも、違うようだから。ごめんね九兵衛ちゃん。小生は、恒道館側につかせてもらうよ」
にっと笑えば、九兵衛君が口を開いた。
「貴女は中立と言う約束でしたが?」
「あぁ、だから小生は応援するだけさ。約束は破らないよ。でも、妙ちゃんは此方側に返してもらいたいからさ」
この子は、ここで笑えていないから。
そう言って、妙ちゃんの手をそっと握る。
「!朔夜さん...」
「...」
「...所詮、貴女もこの者たちと同じで男だ女だと枠にとらわれるわけですね」
「!...(そんな事は言ってないのにねェ...)」
「そんなつまらん枠にとらわれる君達に僕は倒せんよ。この男を見ろ。僕を女と知るや、途端に剣が鈍った...そんな脆弱な魂で大切なものが守れるか」
「(あぁ...この子は...)」
やっぱり、新八君達に勝ってもらわなきゃ、ダメだ。
この勝負に負けないと、この子は変われない。
そう思った時、新八君が腰の木刀を引き抜いて、九兵衛ちゃんに向かって踏み込んだ。
「「勝手な事を、ごちゃごちゃぬかしてんじゃねェェ!!」」
ガキィィン
「!(うおぅ...新八君も男らしくなったもんだねェ...しかし、塀の向こうから銀時の声がハモった気が...)」
「笑顔の裏に抱えているもの!?それを知りながら、なんで今の姉上の顔は見ようとしない!?」
「(...やっぱり向こうから銀時の声が聞こえるね...こっちに来てるのか)」
目の前で繰り広げられる戦闘を見ながら、冷静に聞きとっていると再び二人の声が重なった。
「「男も女も超えた世界!?んなもん知るかァァボケェェェェェ!!」」
「惚れた相手を泣かせるような奴は」
「男でも女でもねェ」
「「チンカスじゃボケェ!!」」
塀の屋根の上に新八君と九兵衛ちゃんが上がった瞬間、銀時と敏木斎様も塀の上に現れ、銀時と新八君は背中合わせになった。
「!(あ、やっぱりいたんだ)」
「だからモテない奴は嫌いなんだ。ねっ?銀さん」
「まったくだ新八君」
「(ふふっ...二人とも、最後は頼むよ)」
その時、別の場所の襖が開いて、九兵衛ちゃんの父である輿矩様が柳生家門下の男達を率いて現れた。
そして銀時、新八君を捕えようと襲いかかっていった。
しかし、そこに近藤の旦那、起きたらしいトシの上にのる総悟君、そして神楽ちゃん、空覇がやってきて、敵をそれぞれなぎ倒しだした。
その光景に妙ちゃんが目を見開いているのを見て、小生は手を引いて、背中に手を回し緩く抱きしめた。
「!朔夜、さん...」
「皆、卿のためにここにいるんだよ。卿が泣いていた...その理由のためだけにここにいるんだ」
皆、卿を護ろうとしているんだよ。卿のいつもの笑顔が見たいんだ。
「だから、無理をしないでいい。我慢しなくていい。卿はいつも、がんばりすぎる」
背中を撫でながら言えば、妙ちゃんも小生の背に腕をまわしてきた。
首筋に、ぽたぽたと何か流れてくるのを感じながら目を閉じ、できる限りの優しい声で囁いた。
「妙ちゃん...自分の心も騙せないような、泣いてしまう嘘など、ついてはダメだよ...ほら、卿の正直な気持ちを言ってごらん」
きっと、叶えるよ。その願いを
「朔夜、さん...し...たい...私、みんなの所に帰りたい」
「...うん。その言葉をまっていたよ」
抱きしめられ、確かに聞こえた言葉にゆるく微笑んで、安心させるように強く抱き返した。
...さぁ、小生の仕事は終わった。あとは、二人に戦に勝ってもらわなければね。
そして小生と妙ちゃんは手をつなぎ、塀の上の二人に目を向けた。
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