銀魂連載 | ナノ
第九十訓 食べ物の好き嫌いが多い人は人の好き嫌いも多い。だから偏食は良くない。




てってって


「(もう戦闘は始まってるはず...一体どこでやってるんだか...)」


そう思いながら屋敷の中を走っていると、目の前から御膳を持って来た柳生家の女中仲間から声をかけられた。


「あ、朔夜さんいい所に!」

「?どうかしたのかい?」

「実は北大路様から、客間に二人分適当に料理を持ってくるようにと言われて・・・残りはこれだけなんですが、持っていてくださいませんか?」

「斎が?ん...わかった。もってくよ」


斎も戦闘要員のはずだろうに...何かあるな

そう思い、軽く返事をし、御膳を受け取って客間に向かって歩き出した。


***


そして


「失礼するよ、斎」


ガラッ


「あぁ...朔夜か」

「朔夜!」

「おや...まさかのトシとだったかい」


なんで食事?

部屋の中にいた意外な組み合わせを見て、一瞬瞠目してから、そう素直な疑問を口にした。


***


「「...」」


もぐもぐ


「(...一応勝負中なんだろうか?皿つけてるし...てかなんでトシ、皿一人だけそんなデカイの?)」


疑問を飲み込み御膳を置くと、二人はすぐにそれぞれ目の前の料理を食べだした。

小生は、とりあえず二人を見渡せる机の真ん中に座り、キョロキョロと交互に二人を見る。

その時――思い切り目の前の襖が開けられた。


「「...」」

「「...」」


もぐもぐと食事を進める2人を入ってきた2人が見つめる。


「あ...(近藤の旦那に新八君...)」

「あ、スイマセンお食事中」

「間違えました」


そして何事もなかったかのように二人は襖を閉じた。

そして一拍あけて再び襖を開けはなった。


「ちげーだろ!!何やってんだァァァ!!トシぃぃぃぃ!!朔夜さんも突っ込んでェェ!!」

「(ようやくこの状況に突っ込んでくれる人らが来た!!)」


小生には荷が重かった!

そう思いながら二人のツッコミにほっとしていると、斎が食べながら静かに告げた。


「――腹が減っては戦もできぬ。どうだ?貴様らも」

「敵のつくった料理なんて食えるかァ!!つーかお前さっきも食ってなかった?!」

「土方さんアンタ何のんびりくつろいでんですか!?三人でそいつやっちゃいましょうよ!」


その言葉にトシが制止の声をかける。


「オイてめーら、余計な手ェ出すなよ」

「土方さん!」「トシ...!」

「コイツは俺のチャーハンだ」

「「チャーハンかィィ!!」」


チャーハンくらい何時でも作ってあげるよ!!

一気に崩れた緊張感に足の力も抜けていると、斎が話しかけてきた。


「朔夜、ちょっとそれ、ケチャップをとってくれ」

「あー...はいはい...(もう...)」

「オイオイなんだよコレ」

「緊張感もクソもあったもんじゃないんですけど」


ケチャップを受け取りながら、凡人にはわからないだろうが、勝負は始まっているのだと斎が言葉を返した。


「武士とは飯の食べ方一つ、箸の持ち方一つでも自分の流儀でいくものだ。日常の行動、所作、全てが己を律する厳しい鎖」

「(まぁ言ってる事はもっともらしいがね)」


あれはいかがなものだろうか...

そう思いながら斎の、日常全てが修行で、それによって強靭な武士の魂が作られるという持論を聞いていると

斎がケチャップの蓋を開けた。


「土方十四郎よ、貴様にはあるか?己を縛る鎖というものが」


そしておもいきり目の前のオムライスに、血の海のごとくケチャップをかけた。


「ケチャップ!?」

「オムライスにケチャップをあんなに...」

「(ほんとになぜこっちに走ったんだか...)」

「一つ言っておこう、俺は朔夜以外からは生粋のケチャラーと思われているが、実はトマトの類が大の苦手。見るだけで吐き気がする。

これが俺の鎖...嫌いなものを過度に食することにより、折れない屈強な精神をつくりあげる。

今では苦手だったトマトも大好きになり、トマトにケチャップをかけて食すほど」

「「(それもう修行になってねーよ!!ただの不摂生)」」

「(本当にどうしてそうなった、ってやつだよね)」


他にもやり方あるだろうに。

そう思っていると、今度はトシがマヨネーズをチャーハンにいつも通り、あり得ない量をかけていた。

それを見て、斎が信じられないといった風に唖然としていた。

そんな斎に、トシはチャーハンをほおばりながら告げた。


「ちなみに一つ言っておこう。俺は周りから生粋のマヨラーだと思われているが、実はマヨの類が大嫌いで、あの赤いキャップを見るだけで吐き気がする」

「「「(ウソついてる!!負けたくないばっかりに平気でウソついたよマヨラー)」」」


心の中で突っ込みを入れている間に、二人は食事を終えた。


「フン、伊達に『鬼の副長』と呼ばれているわけではないという事か...なかなか面白い食事だった」

「(いや、互いに偏食家なことばらしただけだったんだけど)」

「タバコ吸いてェな。朔夜、灰皿あるか」

「あ、灰皿なら――っ!」


刹那、二人の空気が身体によく馴染んだ緊張感に変わったのを感じ、そこから跳ねのくようにして下がる。

瞬間、思い切りテーブルを壊し、二人の刀が、鋼のぶつかる音を立て目の前で交差した。


「(あっぶな...!!)」

「タバコの前にごちそうさまはどうした」

「クソまずい飯ごちそーさんでした」

「ほら」


シャッ


「灰皿だ!!」


壊した机から、一枚の空き皿を掴んでトシに投げる斎。

トシはそれをなんなく掴んだが、すぐさまそこに斎が突きを撃ちこんでいった。

トシはすぐ気づくと足の裏で木刀の先を受け止めると、思い切り庭へと吹き飛ばされたが、綺麗に着地した。


「(斎...やっぱりそれなりに強い...戦闘スタイル的には、トシには不利な相手かもしれないね...)」


そんなことを考えながら、二人を見つめる。



「まずい。あの男トシのクセを短時間で見抜いた」

「...みたいだね(完全に動きが読まれてる)」


吹き飛ばされ、防戦一方のトシを見ながら近藤の旦那のもらした言葉に同意する。

そして一人しらない新八君に二人で説明を始めた。


「俺達真選組の得意とする真剣での立ち合いにおいて、相手の一太刀をうけることは即ち死をあらわす」

「例えその場じゃ命を落とさなくても、深手を負えば、死に直結する事にもなるしね」

「ゆえに、俺達に絶対的に求められるのは、危機察知能力。研ぎ澄まされた直感力で相手の気配を察知し、敵の攻めを崩す」

「最前線で戦い続けてるトシは、他の誰よりその能力が高いんだよ...でも斎が得意な道場剣術は、トシの実戦剣術と違って

敵を斬るためでなく、敵の意表をついて一本取るための剣術...つまり、トシの勘の良さは、斎相手じゃ仇になるんだ」


それに加えて、着けてる的があの大皿だから...いつもより余計にトシの感覚が研ぎ澄まされるんだろう。


「あの男はそれを利用し、攻防自在に転じ、それに反応したトシの隙をついている。攻めると見せて引き、引いたと見せて攻める。

無数の擬餌を、無意識で反応してしまうギリギリのレベルでくり出してくる」


思い切り吹き飛ばされ川に落ちたトシに走り寄らないよう、冷静を装いながら、ぽつりと零す。


「斎は、本物の達人だよ。人の心だけじゃない、己の心さえも自在に操る、道場剣術の達人」


その実力は確かだ。

それは何度も見た鍛錬の姿から感じられた。


「(トシ...頑張っておくれよ。負けるな)」


妙ちゃんの自責の念からの強固な決心を揺るがせるには、皆が勝つしかないから。

自分がした選択なのに泣いてしまうなら、笑う事も出来ず自分を騙し通せない嘘なら

素直になりなと、言ってやらなきゃいけないから。

何より...あんな何かに耐えた憂いの笑顔は、あの娘(こ)にゃ似合わない。


「(だからトシ、任せたよ)」


卿ならば絶対に勝てると、信じているから。

そして小生は、ところどころ血を流しながらも斎に一矢報いたトシの挑発的に斎に笑った姿に向けて、信頼を込め、少しだけ微笑んだ。



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