銀魂連載 | ナノ
第八十九訓 ワレモノ注意。ちゃんと扱いには気をつけましょう。




「では、勝負内容の説明をしよう」


勝負を受けることにしたらしい九兵衛君たちは、少しして、庭に出て、銀時たちと対峙した。

その二組の真ん中に、荷物を置いて戻ってきた空覇と共に、医者鞄を片手に立っていた。


「(最近トラブル率が高い...いや別にいいんだけどさ)」


どちらもあんま怪我しないでほしいんだよねェ


***


「ねぇ、朔夜さん。つまり今から何をするの?」


屋敷の敷地全てを使った壮大な合戦勝負のルールを一通り九兵衛君が話し終えた後、空覇が聞いてきたので、簡単に答える。


「んー...つまりだねェ。6対6でこの家のあの人達と、皆が剣でそれぞれ大将を立てて、皿を割る勝負するってことだよ。

大将の皿を割られるか、全滅させられるかで決着がつくって話さ」

「そうなんだ!楽しそう!!僕は参加しちゃダメなの?」

「あーもう皆の方戦う気満々の6人そろってるからねェ...(柳生家のほうにもちゃんと6人目いるみたいだし)」

「むぅ...わかった...」

「よしよし」


しかし、型にはまった道場剣法じゃなくて喧嘩みたいな合戦式なら、こっちに分があるんじゃ...

まぁ勝算があって言ってるんだろうが、真選組の剣技はどちらかというと実践的だし、銀時なんか滅茶苦茶我流だし...

そう思っているとトシが小生の考えている事と似たようなことを口にした。


「いいのか?型にはまった道場剣法なら、あんたら柳生流に分がある。俺達ゃ喧嘩なら負けねーよ」


九兵衛君は、このやり方は、柳生家に伝わり、幕府に有事の際、馳せ参じる時のため、年に一度取り行う合戦演習だと告げた。

その言葉に、そう言えばそんなことたまにやってたなぁと思い出す。


「柳生流がただの道場剣法でないところをお見せしよう。

君達の誇る、その実践剣法とやらを完膚なきまで叩き潰して、全ての未練を完全に断ち切ってやる」

「上等だよコノヤロー。喧嘩なら負けねーぞ」


その時、近藤の旦那が何か気づいた。


「ちょっと待て!六対六ってそっちは五人しかいねーじゃねーか。騙そうったってそうはいかねー」

「(え、むしろそのほうがいいんじゃない?)」

「オイなめんじゃねーぞ、数くらい数えられんだヨ!!あやうく騙されるとこだったアル!!」

「(神楽まで!?ていうか何に騙されるの!?)」

「六対五ってこっちの方が有利だろーがァァ!!アレ?こっちの方が有利アル...ゴリラぁぁぁ!!有利だぞどーするコレ」

「さ...さっき言った事はナシの方向にしろコラァァァ!!」

「さっき言った事はナシにしろォォナメんじゃねーぞコノヤロー!」


...二人とも、なんか小生は涙がでそうだよ...

身内の言葉にならないアホな姿に思わず熱くなる目頭を押さえていると、九兵衛君がここに自分達の大将はいないと言った。


「我等の大将は既にこの屋敷のどこかにいる。我々を相手にせず、そいつを探して倒せば勝てるぞ」

「(まぁ戦略的には一番妥当な考えだよね...皆がその戦略選ぶとはぜったい思えないけど)」

「あっと、君らは教える必要ないですよ。精々僕等にバレないよう気を配ってください。どのみち私達はあなた方の皿を全て割るつもりなので大将が誰でも関係ありませんから」

「あんだとォォコルァァァ!!」


歩の挑発に見事にはまる一同。


「それでは勝負開始は20分後」

「うるせー10分で始めてやるよ!」

「しっかり準備しておいてください」

「するかァぶっつけでいくわボケェ!!」

「(いや腹たつのもわかるけどそこまで噛みつかなくても!)」


皆の喧嘩っ早さに頭を痛めていると、去ろうとしていた歩が小生と空覇の方を見た。


「朔夜殿...貴女はどちらの側にも付かないように。その、空覇殿といいましたか。その方もです」

「え、あーうん...元より救護にまわるつもりだから大丈夫だよ」

「ならいいのです(朔夜殿が相手でも、若のために本気でやりますが...手を出しにくい)」


そして小生の返事を聞くと、柳生側の5人は去っていった。


「ふぅ...」

「朔夜、俺らの味方してくれねーのかよ」

「んーごめんね。とりあえず小生は事態が把握しきれていないのでね、自分で何が正しいか決めさせてもらうよ。

それに、いろいろお互い複雑な事情がありそうだし...なによりフェアじゃない」


ま、救護はいつでもやってあげるからさ

そう返せば銀時はため息をついた。


「ったく...まぁ言うとは思ってたけどよ。けど、なんでお前こんなセレブんとこで働いてんだ?」

「あぁ、それはだねぇ...バイト捜してたら、知り合いが誘ってくれたんだよ。ところで、こっちは卿らがきた事情を聞きたいんだけど」

「あーそれはな...」


そして簡単に話をまとめれば、この家に妙ちゃんが、幼馴染だった九兵衛君の嫁になると泣きながら行ってしまったため、

新八君と近藤の旦那を筆頭に、妙ちゃんを取り戻しに来た、ということだった。


「なるほどね...おおかたそっちの事情は理解できたよ(しかし九兵衛君は...まぁ、それは仕方ないか)」

「なんだか複雑なんだねぇ」

「そうだね...」


空覇の言葉に頷いた後、小生は皆を見た。


「(ま、言わなくても皆なら九兵衛君のこと気づくかな...)...じゃ、小生達も最終準備のために行くよ。

皆、頑張ってね...できるだけ何かあればサポートはするから」

「またねー皆〜」


こうして小生と空覇は、皆と別れた。


***


そして――


「空覇、卿は戦いが始まったら敷地内を動いて怪我人を見つけて、小生に教えてくれるかい?」

「うん、わかったよ!朔夜さんはどこにいるの?」

「屋敷内あちこちを動きまわってると思うから、面倒かもしれないけど、小生のことを見つけてもらえるかな?」

「うん!でも...朔夜さん危ない事しない?」

「...今回は救護だけだから心配しないでおくれ。大丈夫だよ」

「...わかった。無茶しないでね?」

「うん」


そして、離れて行く空覇を見送った。


「...さて、小生も動くかね...(とりあえず妙ちゃんはどう思ってるのか見に行くかな...)」


そして小生も、その場をあとにした。


***


「...(妙ちゃんと九兵衛君...二人の過去に何か有るみたいだね)」


柳生家の者たちの噂話を糧に、妙ちゃんを探しに来てみれば、

敷地の奥の屋敷の一角にある縁側で、九兵衛君の祖父に当たる敏木斎様と妙ちゃんが話していたので

気配を絶ち、壁の陰に隠れて話を聞いていた。

その話の内容からすると、妙ちゃんはどうやら九兵衛君に対して、過去に何かあったことを負い目に感じているようだ。

まぁ、本人は敏木斎様には否定していたけれど。


「(負い目があるのは明確...参ったなぁ)」


そういう人間ほど意固地なんだよ。自分自身がそうだから分かる。

そう思いつつ、声をかけようと咥えていた煙管の煙を吐き出し口を開く。


「ご機嫌いかがですか、奥方様?」

「!え、えぇ...って、朔夜さん!?」

「やぁ、妙ちゃん。びっくりしたかい?」


ニッと笑って言えば、妙ちゃんは動揺したようになんでここにいるのかと尋ねてきた。


「小生はここでもバイトしてるんだよ」

「あぁ...だから...お朔さんはほんとに神出鬼没ですね」

「ふふ...でも、皆から何があったかは聞いてるよ...九兵衛君の花嫁になりにきたらしいね」

「えぇ、そうですよ」

「...いいのかい?ここから出られなくなるよ?」


よっこいしょと、隣に腰掛けながら問いかける。


「自分で決めた事ですから」

「泣いてた、と聞いたけど?」

「...今はもう大丈夫ですよ。お朔さんも働いてらっしゃるなら尚更安心しました」


いつもの笑顔で微笑んできた妙ちゃんを見て、一つ息を吐きだす。


「...やっぱり中々弱音を吐きだしてくれないねェ」

「あら、それはお朔さんの専売特許でしょう?」

「おや...小生は吐く弱音なんてないけれど?」

「...やっぱり...私より貴女の方が意固地ですよ」

「ふふ、そうかねェ...小生は弱音より、言うのが憚られる事が多いだけだよ」


不良娘だからねェ、今も昔も。

そういってけらけらと笑うと、今度は妙ちゃんは小生から視線を逸らして零した。


「お朔さんは...無理矢理連れて帰ろうとはしないんですね」

「んー...個人的には是非そうしたいところなんだけどねー...」

「?」

「今小生がそれをしても...卿にとっても九兵衛君にとっても、何の解決にもならないから」


卿ら自身が離れる事に納得しなければ、何の意味もない。


「同じ事を繰り返すだけだよ、何度でもね...それにそもそも、卿に戻る気はないんだろう?妙ちゃん」

「!どうして...」

「...妙ちゃんの何かを覚悟した目を見れば分かったよ」


負い目があって、重たい物に耐えて、傷ついている瞳をしてる。

そしてそれゆえに、選択を間違おうとしている。

そして微笑みかけた。


「お朔さん...」

「...ま、人の事を言えた義理じゃないのかもしれないがね」


小生も、思い返せば何かに追われて間違ってばかりだよ。


「朔夜さん、私は...!」


立ちあがった小生に何かを言おうとする妙ちゃんの口元に人指し指をつけ、言葉を封じ、続けた。


「妙ちゃん、どんな間違った選択をしようとそれが卿の後悔しない選択ならば、最後の瞬間まで、いつものように笑顔でいれる選択ならば、小生はそれでいい」


でも、違うならば。涙を耐えられないほど苦しい選択ならば...


「本当の心で選択肢を選び直しなさい。その時の涙は小生が拭ってあげるから」


そして目をしっかりと見つめてもう一度微笑んでから、指を離し、背を向けてそこから去った。


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