銀魂連載 | ナノ
第八十六訓 んまい棒は意外とお腹いっぱいになる。いや普通のご飯食べようよ




「朔夜、色々あったようで心配したが...息災か?」

「こっちは元気だよ小太郎、そっちは?」

「見ての通りだ...お前も無事で何よりだ」


久しぶりに街中でばったり会った小太郎は、切られた髪はすっかり伸びて、元通りになっていた。

相変わらずの元気そうな姿に安心する。


「...ふふ、無事なのは小太郎こそだよ。真選組の皆に捕まってないみたいで安心した」

「ふん、あんな田舎侍どもに捕まるような俺ではないさ」

「そっか...でもあんまりバカなことしないでよ?危ないんだから」

「大丈夫だ。お前ほど無茶はしない...あぁ、そうだ。そういえばお前に頼みがあるんだった」

「頼み?なんだい?」


できることならするよ、と小太郎を見上げればとんでもない事を言われた。


「今度、大江戸テレビが一日密着レポートとかで俺に取材にくるのだが、一緒に出てくれないか?」

「......」


...あぁ、この子はほんとにバカなんだな。

お尋ねモノの人間が何をしてるんだと本気で頭痛がしたが、ほっとくこともできず、首を縦に振ったのだった。


***


「どうも初めまして、大江戸テレビの花野です」

「どうも」

「こんにちは...(本当に取材受けたのかい)」


幾松ちゃんのラーメン屋で、取材をすることになり、現在その場にいる。


「今回は我々の取材に応じてくださってありがとうございます。

えーと確認させていただきますが、あなた方が狂乱の貴公子、Kさんと、そのお連れのYさんでいいんですよね」

「えぇ、そう――」

「Kさんじゃない、桂だ」


バカかな???なに自分で名前言ってるの!?

そう思っていると、リポーターとしてきた花野アナが戸惑ったように口を開いた。


「...いやあの...匿名にしてくれって...そちらが」

「ああそうか、ピーッていれてくれ」

「じゃあお二人ともピーッていれさせてもらいます」

「ピーじゃない、桂と朔夜だ」

「いやもういいです」

「というか小生の名前出さないで」


そんな不毛な会話を繰り広げる。

すると、花野アナが諦めたように、顔にモザイク入れてあるんで、多分ばれないと言ってくれた。

少し不安に思いつつ、まぁ大丈夫かな...と思うと、小太郎が、人の顔を猥褻物扱いするな、モザイクを取れと言い出した。


「小太郎。自分の立場分かってるかい?」

「む。俺は逃げの小太郎の異名をとる男だぞ。そう簡単に正体がばれるわけないだろう。相変わらず心配症だな」

「(いや心配にもなるよ)」


鼻眼鏡かけて変装って...卿は...アホすぎるよ...

もう狂乱の貴公子って異名、頭が狂乱の貴公子に変えた方がいいって。

隣に座る幼馴染の悲しいアホ丸出しの姿に泣きたくなる。

そう思いながら頭を横で抱えていると、ようやく質問に映ったらしかった。


「今回は何故一日密着に応じてくれたんでしょう?」

「一つ目は攘夷志士が何たるかを、よく知ってもらいたかった。テロリストなどと我々を蔑み、恐れている輩も多い――」


云々かんぬん小太郎が語るなか、幾松ちゃんがラーメンを3人前運んできてくれた。

それを小太郎が一つ取り、話しながら食べだした。

しかし食べるにあたって鼻眼鏡が邪魔だったらしく、変装していたんじゃなかったのか、鼻眼鏡を邪魔だと机にたたきつけた。


「ちょっ、小太郎!?(顔出てるから!)」

「幾松殿、ラーメンとはいかがなものか、お茶とか...なんか」

「ウチはラーメン屋だよ。茶飲みたいんなら、茶屋にでも行きな。それから朔夜先生にあんま面倒かけんじゃないよ」

「...怒られちゃった〜」

「いや怒られちゃったじゃなくて...顔が...もういいや」

「...はぁ(もう突っ込むのも嫌だよ)」


もういいよ、好きにしてくれ。どうせそう捕まる男じゃないし。

大体攘夷志士がテレビ出てる時点でおかしいんだから、もう何も言うまい。

そう思いながら、最初からぐだっている取材を見ていると、ラーメン屋の扉が思い切り破壊され、ボロボロのエリザベスが飛び込んできた。


「!!」

「エリザベス!!」

「エリー、大丈夫かい!?」


倒れるエリザベスを助け起こし、なんなんだと外を見ると、そこには総悟君を筆頭にした真選組の面子がいた。


「(最悪だーー!!)」

「カーツラぁぁぁぁ!!今日こそ年貢の納め時だぜィ!!」

「あれ!?朔夜さんまでいる!?何で桂といるんスか!?」

「こ、これには海よりも深い事情があるんだよ!」

「しっ...真選組です!!なんという事でしょう!取材現場が彼らにかぎつけられていたようです!!そしてどうやら朔夜さんは真選組の方とも親密なようです!」

「...というように慌ただしい一日が始まる。ちょうど頃合だしそろそろ出るか」

「え!?これも予定に入ってるんですか!?」

「いつもどんだけ危ない橋ばかり渡ってんだい...(小生は心配です!!)」


ガタガタと机や椅子で入口にバリケードを作ってから、二階から逃げる事になり、階段を上がっていく。


「まったくもー...小太郎は...(逃走になれだしてる自分も嫌だ!)」

「桂さん、朔夜さん、大変慣れたご様子ですが、こんな事は日常茶飯事なのですか?」

「まぁそうだな」

「小生は別に慣れてないです...(違うから!今は一般人だから!)」

「あの...桂さん、朔夜さんは違うと...」

「朔夜はいつも素直じゃないから気にしなくていいぞ。昔からの同志だというのに」

「花野アナ今のアホな発言オフレコでッ!!」


色々生活に支障がッ!!


「え、ですが...」

「いいからッ!!」

「は、はぁ...(この謎な女性は一体...)」


不審がられているのも知らず、二階の部屋に行きついた。


「男子たるもの、この世に生まれ出づる時より常に死を覚悟して生きねばならぬ。

万事に備えあれば常に冷静でいられる。何が起きようと臆することはなくなるのだ」


そしてその部屋のベランダから逃げようと、小太郎が窓を開けた。

瞬間――


「カーツラぁぁぁ!!」

「うわァァァァァァァァ!!」


ドゴ ガシャアア


「...(小太郎...気構えはどこに...)」

「...桂さん今うわァァァって言いましたよね」

「かけ声だ。うおりゃああの間違いだ」

「いや明らかにビビってま...」

「カーツラぁぁ!!」

「なんとあちらからも!!」

「やばっ!小太郎早くんまい棒を!!」

「ああ!んまい棒、混捕駄呪!!」


ドフッ


そして小生達は、んまい棒に見せかけた煙玉にまぎれて、真選組の前から姿をくらました。

...先行きがとても不安だ。


***


「はぁ…卿は一日に何回逃げてるんだい…」


そして不安は的中し、あの後向かった志士達の会議場でも真選組に襲撃され、逃げ出すことになって、現在何とかまいて屋根の上に至る。


「疲れたのか朔夜?」

「うん、心身共にね…」

「休まなくて大丈夫か?」

「まぁ平気だよ」


やれやれとため息をつくと、花野アナが小生に話しかけてきた。


「あの…貴女は本当に何者なんでしょうか?先程からどう見ても桂さん達と同じ攘夷志士には見えないのですが…」

「え…あー…しが無いいっぱんじ――」

「朔夜は立派な志士の一人で、俺の妻だぞ」

「えっ!?」

「誰か小太郎の口を縫い付けてッ!!ていうか全て違うよ!?」


攘夷活動してないから!!それに妻って違う!!

総突っ込みをいれるが、小太郎と花野アナは二人で勝手に話を進めていた。


「――…つまり、朔夜さんは本当は桂朔夜というんですか」

「あぁ。だが俺との関係がばれたら危険にさらされるからな。旧姓の方を名乗っているんだ」

「さらっと嘘押し通さないでくれるッ!?」

「これは照れ隠しだ。朔夜はツンデレでな」

「そうなんですか...可愛らしい奥さんをお持ちで」

「違うぅぅぅ!!ていうかなんでそんな嘘言うの!?」

「...はぁ...それは、お前を愛しているからに決まっているだろう」

「はっ!?あ、愛っ!?」


思わぬ言葉に思考が一瞬止まる。


「テレビの前の皆さん聞きましたか!?まさかのテレビで愛の告白です!!」

「ちょ、ちょっとまって!あ、愛って愛って友愛!?友愛だよね!?」


花野アナが何かを喋っているがそれどころじゃない!


「違う。夫婦になろう的な意味合いだ」

「え、う、嘘!?」


小太郎が小生に!?晋助とか一部と同じ意味合いで!?

激しく混乱していると小太郎が小生の両肩を掴んできた。


「――朔夜」

「こた――」


ちゅ


「!?」

「...好いているぞ、随分と前からな」

「(嘘でしょ!?でもキスされたし!?本当に本気なの...!?)」


名前を呼ばれ顔をあげれば、軽く口づけられた。

そして見慣れてるはずの真剣な眼差しを見る事ができなくなった。

ずっと気の置けない友人だと思っていたのに...晋助と同じ感情を小生に...?

うまい言葉が浮かばず、俯いて思わず着物を握りしめる。

すると小太郎が、小生の頭を撫でた。


「お前が友情以上で俺を見たことがないことはわかっている...」


だから、せめて俺を男として見てくれ。

そういって小太郎はふっといつものように笑った。


「っ...(晋助だけじゃなくて小太郎が小生を、なんて...全然気づかなかった)」


どうすればいいんだ...他の人からもそういえば告白されてるし...なんでこんな急に...

皆、仲間や友達として好きだし大切だし愛してる。それじゃダメなのかい・・・?

ずっとそのままの関係じゃ、不満足なのかい?

想いと相反して、徐々に変わっていく関係に苦しくなり俯く。


「(これ以上告白されることもないだろう...落ち着いたらどうしようか考えなくちゃ...でも小太郎。一つ言わせて...)」


どうして、屋根の上、しかもこの全国放送のテレビカメラの前で、キスをしてそんな重大な事を告げたのかな!?


「(どんなタイミング!?)」

「(キャメラの前なら、返事を流されることもあるまい。牽制にもなるしな)それでは次は、朔夜と同じくらいの重要人物と会い、説得するところを見せよう」

「重要人物!?誰ですかそれは」

「俺達になくてはならん男だ」

「(...今悩むのがアホらしくなってきたからやめよう)」


小太郎のマイペースな進行についていきながら、とりあえず今日のところは悩まないと決めた。


***


そして――


「やれやれ...危なかったね」

「待期させておいて正解だったな」

「うん。しかし、去り際のバイビーは古いよ小太郎」


万事屋へとやってきて、いつものように銀時の勧誘をした小太郎は、いつものように失敗した。

そこに、なんとまた真選組がやってきて、屋根の上を逃走することになった。

だが沖田君のバズーカによって全員落ち、小太郎が抱えていた花野アナを屋根の上に放り投げたあと

小太郎の待機させていたトラックの荷台に、小生、小太郎、エリーは受け止められ、そのまま逃げる事に成功したのだった。


「古いだと!?バイビーの何が古い!?言ってみろォォ!!」

「新しいと思ってるの小太郎だけなんだろうなと思うくらい古いと思う」


でも時代ずれてるのが小太郎だしね。

告白の後とは思えないくらいいつも通りの調子に、くすくすと笑いながら答える。

やっぱり男女とかじゃなくて、こういう気兼ねない関係が一番いいな...


「...ね、小太郎...」

「なんだ?」

「ずっと友達じゃ、ダメだったの?」

「...それでもいいと思った事もあった...だがお前を知れば知るほどに、友では満足できなくなっていく(これは絶対に俺だけではない...)」


お前の存在全てを、己だけのものにしたいと思ってしまう。


「もっと、お前に想われていたいと...独り占めにしたいと...」


頬に手をあてられ、真摯な瞳でそう言われ、思わず視線を逸らす。


「...そう(小生の何がそんなに...)」

「...だから、友ではダメなんだ(お前の愛情は、深く広いから)」

「...わかったよ。でも、小生はその、やっぱりね、小太郎は男として愛せない...」

「...そうか...(分かってはいたが...やはりか...)」

「ごめん...」

「気にするな...なんとなくその答えは分かっていた。だがこれからも、お前を...愛するひとりとして、昔からのかけがえのない友人として、お前を護っていこう」


そう言って力づよく、そして優しく抱きしめられた。

身体の距離はとても近いのに、今まで感じた事がないくらい、小太郎との距離がいつもよりひどく遠く感じられた。


「...(やっぱり、『男』と『女』なんだな...)」


晋助と同じで、みんな異性なんだ...

そう思いながら抱きしめられたまま、そっと目を閉じた。


***


――数日後、その番組が放映されたことで、知り合いという知り合いから三日三晩、電話がかけられまくってこられ

小太郎の方は、真選組やその他もろもろからの追跡やら狙われ率が何故か高くなったらしいのは、また別の話だ。



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