第八十五訓 花屋とかケーキ屋の娘に男は弱い。職業より大事なものってあるでしょ?
「ゴホ、ゲホゴホ」
銀時が風邪をひいたと新八君から連絡が来て、来てみれば、布団で寝込んでいた。
「まったく...大丈夫かい?銀時」
「おー...油断した、ごほっ...」
「私の最初のマミーが言ってたよ。バカはカゼひかないって。なのに何故アルカ?マミー」
「んー...銀時の生活が不摂生だからかな...昔から人一倍タフでバカなのに風邪ひきやすいんだよ」
「げほげほっ...おま、そんな言い方...」
「はいはい、ごめんね。今日は大人しくしときな」
髪を撫でてそう宥めれば、大人しくなる銀時。
そんな様子を神楽ちゃんがじっと興味深そうに見ていた。
「マミー、なんか私も具合悪くなってきたような気がするアル。どうしヨ、マミーに甘えて、マスクしておかゆ食べないとダメかなコレ。ダメだぞコレ」
「もう神楽、嘘つかないんだよ」
銀時のマスクをかっこいいといったり、冷えぴたをおでこにつけながら、
新八君が食欲のない銀時のために作ってきてくれたおかゆを食べた神楽の嘘につっこむと、神楽は唇を尖らした。
「んだヨ〜銀ちゃんばっかズルイアル。マミーにちやほやされて、おかゆ食べてマスクして、ちょっとしたパーティアル。私もカゼひきたいネ」
「バカだろお前。カゼをひけ、頭がカゼをひけ」
「カゼひいたからってあんま調子に乗んなよ天パ。私だってその気になれば、いつでもインフルエンザに蝕まれるネ。なめんなヨ」
「バカだよ。やっぱコイツバカだ」
「あーもう今日くらいは喧嘩はやめなさいって」
止めに入った時、チャイムの音が鳴り、銀時が仕事が入っていたんだと布団から出ようとしたのを止める。
「ダメだよ銀時。熱が40度もあるのに仕事できるワケないでしょ?」
「仕事断るワケにもいかねーだろ。この寒い中カゼもひかねーバカ共に任せちゃおけねーってんだよ。朔夜一人に任せんのもアブネーし」
「コラ」
「!...神楽?」
「待つアル。誰がバカだって?」
***
そして――
「すいませーん」
「オイオイ、ノックもなしにズカズカ人んち入りこんでくるたァ、随分と不躾なお客さんだ」
「インターホン押してたよ」
「...(ていうかなんで小生神楽ポジ?チャイナ服?入るには入るけど、お尻のラインとかすこしキツイ...見えそう)」
「なんの用だィ?万事屋グラちゃんたァ俺のことアル」
そう、小生達は神楽の発案から、銀時を抜いた3人で仕事をすることになったのだった。
銀時の服を引っ張り出して着た神楽が銀時のポジションの役回りをして、
小生は神楽と身長がほぼ変わらない、身体も細いということで神楽のチャイナドレスな形式の服がギリギリ入り、
髪も楽しそうな神楽によってお団子にされて、神楽ポジをすることになった。
本当のマミーみたいと喜ばれてしまったので、断る事もできず、今に至るわけだ。
一人現状に悩んでいると、3人の子供を連れて現れた依頼主の女性が、困惑したように神楽に話しかけてきた。
「何の用ってあの...先日、浮気調査の件でこちらに依頼をした川崎ですけれども」
「あーハイハイ。きいてるぜぱっつぁん。茶出してやりなさい」
「神楽ちゃん、お客さんの前でその態度はないよ。ほとんど顔見えないし」
「うるせーな。なんかこんなカンジだろーがアイツは」
机に組んだ足を上げて、だらしない恰好で銀時の指定席に座る神楽に新八君が注意すれば反抗した。
そして見兼ねて小生が口をはさんだ。
「神楽、いつも銀時はお客さんにはちゃんと対応してるよ」
「ハイハイ、マミー...じゃなくて朔夜とぱっつぁんの言うとおり〜」
「ぱっつぁんなんて言われたことないし誰も言ってないし」
さらっとコントを終えて、川崎の奥方の話を聞けば、旦那が浮気をしている気がするから調べて欲しいとのことだった。
なんでも、最近帰るのも遅く、女物の香水の匂いがするらしい。
確かに怪しいけれど、あんまり気乗りしないなぁと思っていると、神楽が口を開いた。
「奥さん、それだけの証拠じゃ浮気とは断定できないアルナ〜。思い込みじゃないアルかネ。
多いんですヨ〜被害妄想というか悲劇のヒロイン気取りというのか〜奥さんのような輩がね」
「ん〜...小生も確かに少し早計だとは思うし...」
「ちょっとちょっと(朔夜さんまで...)」
「朔夜の言うとおりヨ。ぱっつぁん、俺ァどーにも気乗りしねーアル。パフェ食いに行っていいかィ?朔夜と一緒にな」
「小生はバニラアイスがいいな」
「何言ってんの!?ちょっと!!銀さんと朔夜さんのかけあいっぽいけれども何言ってんの!?」
すると川崎の奥方さんが小生と神楽に向けて昨日は引き受けてくれたじゃないと声を荒げてきた。
それを聞いて、小生は奥方さんを見据え、神楽は椅子を回転させて背を向けた。
「気にくわねーんだヨ」「気に食わないんだよね」
「...子供達の前で平気で父親の悪口言うなんてさ」
「アンタにとっちゃロクでもない旦那でも」
「「子供/こいつらにとっちゃ大事な父親/父ちゃんなんだよ/アルぜ」」
「そ...それは」
「銀さんだ!!ちっちゃい銀さんだ!!2P目にして朔夜さんとの説教モードだ!!」
すると奥方さんは、こんところに子供を連れて来たくなかったけれど、旦那さんが何を聞いても黙ってるから、我慢できなくなってしまったと泣きだした。
「別れる覚悟はできてるの!でもあの人浮気のことも離婚のことも認めてくれなくて!!」
「証拠が欲しいの!!あの人が浮気してるって確実な証拠が!!そうすれば...」
「悪いがごめんこうむるアルぜ」
神楽ちゃんが奥方さんの言葉を遮り、小生が続ける。
「子供らから、父を奪う証拠をみつけるなんて真似できないよ」
「そのとおりネ。さっ行くアルぜ、朔夜、ぱっつぁん」
「あ、うん」
「え?どこに」
「あぁ、そりゃぁ...」
「「変わらぬ愛の証拠を見つけにさ/だよ」」
「グラさんんんんん!!(朔夜さんとのコンビネーションもばっちりじゃん!)」
「あっ...ありがとうございます!!よろしくお願いします!!」
そして小生達三人は、万事屋を後にし、仕事をはじめたのだった。
***
「おいィィ!!君達かァコレやったの!!」
銀時なしでもやれると息巻いて、『ハシッテーヨ』君に乗る小生の隣で
銀時のスクーターに乗っていた二人(無論無免許だと止めたが聞いてくれなかった)は、
運転を誤り、こっそりのぞくはずだった川崎の奥方の旦那さんの店『くノ一カフェ』に、見事につっこませた。
そのため、見事に見つかってしまった。
「(はてさて困ったことになったね)」
「こんな事してェ!!どう責任とってくれるんだィ!!」
「すいません」
「悪気はないんだよ(しかし小生まで未成年と勘違いされてるな...はぁ...)」
「とりあえず家の電話番号教えて、親に連絡するから」
「そいつはもう遠い昔に忘れちまったアルな」
「電話番号忘れちゃったの!?しょーがないな住所は!?」
「この青い空の下、大地全てが俺の住処だと思っている。猿一匹、心は侍」
「ウザいんだけどこの子!!」
「(だろうよ)」
そんなやりとりを横目に見ていると、店の中からあやめちゃんが出てきた。
そして眼鏡をかけているにも関わらず、銀時の恰好をしている神楽に近づいて、銀時と思って話しかけだした。
「どうしたの?こんな縮んじゃって」
「さっき事故っちまってこのザマさ。こんな俺でもくれ。その乳俺にくれ」
「心配しなくても銀さんは、私の母乳で立派に育ててあげる!私は銀さんのものだから」
「(あやめちゃんは見る度に心配になってくるが大丈夫なのだろうか...)」
神楽を抱き締めたあやめちゃんを見ながらそう思っていると、それを公衆の面前でと旦那さんが止めに入った。
すると、神楽があやめちゃんの顔を掴んで、その後頭部を思い切り、あやめちゃんの後ろにいた旦那さんにぶつけ、二人を地に沈めた。
「グラさんんんんんん!!」
「ちょっいきなり何やってるんだい!?」
「ぱっつぁん、鈍い野郎アルな。お前は恋愛の細かい機微がわからねーからモテないアルぜ。朔夜も鈍感過ぎるアルぜ」
「えっまさかさっちゃんさんが旦那さんの浮気相手!?」
「はい!?」
「その通りアルぜ!ともかく二人を連れ帰るアル!」
そして二人をそれぞれのスクーターに乗せ、万事屋へ帰った。
でも、絶対違うと思うんだよね...でもまぁ、二人がやる気出してるし、しばらく口出さないでおこうかな...
***
そして――
「俺がこのメス豚と乳クリクリ合ってたら、アンタの旦那...見事にワナにかかってくれましてね〜」
「(いやワナって)」
「俺の乳に触るなァァァとばかりに飛びかかってきました」
「そんなこと一言も言ってないぞ!というかみち子ォ!お前こんな所で何やってんだ!!」
神楽のとんでもない早さの判断と、奥方さんの思い込みの激しさのために、事態がかなり面倒な事になった。
しかし、その騒ぎの中でも得る事があり、脇と言う、聞き覚えのある名前の女性と、旦那さんが怪しいとの情報が手に入った。
そして、その情報を頼りに再び小生達は街へスクーターで繰り出したのだった。
勿論、神楽に運転させまいと止めようとしたが、次こそはと聞く耳持ってくれなかった。
銀時のスクーターがガタガタだ。大丈夫かな。
そう思いながら前を走る二人を見ていると、新八君が口を開いた。
「グラさん、回り道したようで意外と核心に近づいたね」
「計算通りアル。全てはあの男を追いつめてボロを出させるた作戦アルぜ。知ってた?ぱっつぁん、朔夜も」
「いや、知りたくもなかった。そんな負け惜しみ」
「(確かに)」
まぁ...ともかく、その女の人を掴まえて自白させるということで、その女の人の実家の花屋に向かっている。
「男は花屋とかケーキ屋とかに弱いアルな。バカだよな」
「男なんて女に関しちゃ、将来の夢がおもちゃで遊べるからおもちゃ屋って言ってる子供くらいバカだからね」
「朔夜さんが言うと妙に説得力ありますね...でも、いいのかな。奥さんなんやかんやで、ホントは旦那さんと別れたくないように見えたよ。
それに神楽ちゃんと朔夜さんが言った通り子供達がかわいそう...ホントにいいのかな、これで。銀さんならどうするかな...朔夜さん、どう思いますか?」
「ふふっ、自分達なりの考えで動いてごらん、若人よ」
「はぁ...あっ、そこの花屋だよ」
そしてまた神楽が駐車しようとした瞬間、ガードレールに車体をぶつけ、二人は思い切り投げ出されて、花屋にスクーターをつっこませた。
「ちょっ二人ともォォォ!!」
「ヤバイヤバイ!」
「隠れるアル!」
「えっ、ちょ!」
そしてスクーターをそのままに、二人は自分の『ハシッテーヨ君』から降りている最中に小生を放って、ポストの陰に隠れてしまった。
小生が対応できないでいると、中から見た事のある女の人がでてきた。
「だ、だいじょうぶで...って、あ」
「ちょっとぉ〜なぁにこの汚いバイク...って、あらん?貴女...」
「奉行所の時の...脇薫さん、だったかな」
記憶をたどり、問いかければ、頷かれ、じろじろと見られ、問いかけられた。
「えぇ、そうよん。貴女は...全蔵の奇跡的なお気に入りよねん」
「は?(奇跡?お気に入り?)」
「だって告白されたんでしょ?私達忍者の間じゃ結構タイムリーな話よん」
「え!?いや、告白...告白かぁ...(やっぱりこの前のあれ告白だったのか!?流しちゃってたけど!!)」
「まさか全蔵が、こっちの趣味にくるなんてねェ...普通の男なら惚れるのもわかるけど...」
「え?こっち?趣味?(何の話!?)」
「...あら、貴女まさか知らないのん?全蔵は...」
「朔夜!」
「!...あ...」
噂をすれば影と言ったもので、声をかけて、こちらにやってきたのは全蔵だった。
「あらん全蔵」
「コイツの店で何してんだ朔夜?」
「え、あーたまたま通りかかってさ...」
「そうか、奇遇だな」
「うん...っ...あ、雨...」
急に首筋を走った冷たさを皮切りに、サァサァと雨が降り出した。
傘も持ってないし、どうするかと考えていると、全蔵が何も言わずにコートの中に入れてくれた。
「あ、ありがとう全蔵。でも全蔵も濡れてるのに...」
「気にすんなよ。俺はカゼ引くようなやわな男じゃねーから」
「そっか...なら今度何かお礼するね」
「デート一回でいーぜ?」
「ん、そんなんで良いなら、全然いいよ」
「(よっしゃ)じゃあ決まりな」
「(本当にベタぼれしてるのねん...というかこの子、軽くデート受けてるけど、鈍いのかしらん)」
「つーか、そういやどうしたコレ」
隠れている二人がやってしまった花屋の惨状に気づいて、全蔵が問いかける。
「あぁ、きいてよん全蔵。なんかこの子がくる前に、店にいきなり汚いバイクがつっこんできて〜」
「マジでか、店メチャクチャじゃねーか」
「店はいいのよん。どーせ客なんかこないからん。ただね、私のバイト先の店長がね、今年結婚十周年らしくて
奥さんに花でつくった絵を贈りたいというから私、手伝ってあげてたのん」
「...(そういうことだったのか...)」
これで納得がいった。
そう思っていると、その絵を薫ちゃんは出して見せた。
「花で奥さんの似顔絵を描くという力作よん。一生懸命やってたのにん店長」
絵は崩れていて、とても見れたものじゃなかった。
「(てか、やっちゃった感がいなめないよ...どうしよ...)」
「崩れてすっかり不細工になっちゃってん」
「不細工かァ、俺はイケるよ。これ位なら」
「(え?マジでか全蔵?)」
「アンタブス専だからよん。これはキツイわよ〜こんなん贈られたら自殺するわよ」
「え...ブス専...?」
思わぬ単語に思考が止まる。
「あらん、やっぱり知らなかったの?まぁ、私達も最初はびっくりしたけどん」
あのブス専の全蔵が、貴女みたいな子に惚れるなんて
そう言われて、思わず全蔵を見上げる。
「お前の事は顔に惚れた訳じゃねーからな。俺はお前の魂ってやつに惚れてんだ...お前も余計なこと言うんじゃねーよ」
「あらん、ごめんなさいねん。でも知っといた方がいいでしょう?」
「え、あ...まぁ...(凄く複雑な気持ちだよ。いや、告白された話自体もそんなさらさらいかれても複雑なんだけどさ!)」
でも、いくら顔じゃないといっても、そんなブス専なら...やっぱり小生もブス寄りな顔ってこと!?
そこまでじゃないと思ってたのに!まだ普通だと思ってたのに!?
キャバ嬢ギリギリできるくらいには...と思ってたのに、思いあがってた!?
ちょっぴりナイーブな気持ちになりながらも、そろそろ小生もちょっと仕事をしようと思い、
陰で絶望的な顔をしている二人を呼び、薫ちゃんに事の全てを話し、なんとかしてあの夫婦をうまくいかせようと策を練るのだった。
***
そして――
ブェクシッ
「皆、大丈夫?」
「マミーおかゆが食べたいアル...」
「すみません朔夜さん...三人も面倒見させて...ごほっ」
「朔夜、俺の水も頼むぜ〜...」
「はいはい...いいから大人しく寝ておきなさい」
なんとか夫婦は仲直りをさせたが、雨の中駆けずり回ったため、二人が風邪をひいてしまい
銀時とともに、三人纏めて、まだ無事だった小生が看る事になったのだった。
「でもなんで一番ひきそうなお前がひかないんだよ」
「え?あー...うん。まあね。それに小生まで倒れたら誰が看病するのさ(本当は微熱があるけど、言ったら寝ろって怒られるからいいや)」
そう結論付け3人を看病して治した結果――その翌日に、一人家で40度以上の熱を出して寝込むことになったのは、まぁ語らなくてもいいだろう。
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