第八十四訓 ものを食べる時にクチャクチャ音は立てない。癖はいつまで経っても治らないものだね
「はぁ...はぁ...」
「大丈夫か?朔夜」
「う、うん...はぁ...でも、どこ行っちゃったんだか...(やっぱり組の屋敷かな...)」
小生達はホスト達と共に、夜の賑わう歓楽街を手分けして、攫われた(?)お袋さんを捜していた。
因みに空覇は、真選組から心配の連絡が入ったので真選組の方に先に帰らせた。
その後も、小生達万事屋は街中を走り回っていたが、見つからず、疲労だけが蓄積し、銀時達より劣る体力ゆえに息が切れ、足が止まる。
でも、また荒事がおこりそうな予感がするなぁ...
***
「朔夜先生!坂田さーん!!」
小生のことを気づかい、足を止めてくれている万事屋3人に申し訳なく思いながら、息を整えていると、別れて捜していた八郎がかけてきた。
「は、八郎...はぁ...どうだい...お袋さん、見つかったかい?こっちはさっぱりだよ...」
「こっちもです。お母様どころか、お母様を追って店を出ていったきり狂死郎さんとも連絡が...」
その言葉に、銀時が落書きをした例の写真を取り出した。
「クソったれ、写真(コイツ)のせいですっかりだまされたな。まさか狂死郎がババアの息子、八郎だったとは...朔夜も早く思いだせよな」
「仕方ないでしょ?記憶の底に埋没させてたんだから...この街じゃ、人様の過去なんてそんな気にしないし...
それにどっちみち、この顔からあの顔に変わっちゃったんじゃ、お袋さんどころか、仏さんすら気づきゃしないって」
「それというのも、お前がんな恰好して八郎なんて名乗ってたからアル!紛らわしいんだヨ、あん!?ジャロに電話したろか!?」
「神楽、よしなさい。元はと言えば、神楽と銀時が落書きしてたらたまたま似て、こっちが勘違いしただけなんだから」
八郎の襟元をつかんで、理不尽にいちゃもんをつける神楽を宥めると、八郎が口を開いた。
「でも何故お母様を目の前にして狂死郎さんは何もおっしゃらなかったんでしょう。
五年前から、かかさずお母様に向けて仕送りをされていたといいます。誰よりも会いたかったに違いないのに」
「...」
『この街でのし上がるには、キレイなままではいられない』
『得たものより、失ったものの方が多い』
『恥ずかしい話...親に顔向けできない連中ばかりですよ』
数刻前に聞いた狂死郎の言葉を思い出し、歯がゆさに思わず唇を噛む。
「(気持ちはわかるけど...親は自分より早く逝くのに会える内に会わないなんて...でもそれは、狂死郎自身が決める事か)」
あまり自分の心に投影するべきではないか
「(とりあえず、選ぶ事すらできない事態に陥る前に両方探さないとな...)」
そう思いながら、八郎達と再び別れ、また探そうと歩きだそうとした時、頭上から黒い我が子同然の影が飛んでくるのが見えた。
「カァー!」
「!お、カーラス4世!」
「よ、4世!?朔夜さん鴉に名前つけてんスか!?(相変わらずネーミングセンス酷っ!!)」
「あ、新八君達は小生の傑作カラクリ『カーラスシリーズ』を見るのは初めてか...」
バサバサと降りて、小生の差し出した腕に止まったカーラス4世の頭を撫でてやりながら
軽く神楽と新八君に説明をしてあげると銀時が話しかけてきた。
「つーかカーラス飛ばしてたなら走り回る必要なかっただろ」
「いや、確かにカーラスは優秀なんだが、こちらも動きまわったほうが会える確率もあるし効率がいいからね...
ところで4世、狂死郎はどこにいったんだい?」
そう聞けば、ピー、ガガッと機械音をさせ、閉じた嘴からレシートを出すように狂死郎の位置を示した簡易マップをだした。
「...ふむ、なるほど。流石は小生のカーラスだね」
「カァー」
「ふふっ。それじゃあまた呼ぶ時まで自由に飛んでおいで」
そして腕をあげれば、バサバサと闇夜の中に溶けるように飛んでいった。
それを確認してから3人に向き直る。
「場所分かったのか?」
「あぁ、偵察カラクリのカーラスにかかればお手の物さ。場所はここの工事現場だよ。ここからあんまり遠くない」
「そうか、ならちゃっちゃと行くぜ」
「うん!じゃあ新八君と神楽も行くよー!」
「あ、はい...(あんだけすごい物作れるのに、なんであんなネーミングセンス悪いんだろう...)」
そんな事を思われてると知らず、小生達はその場所に向けて走り出した。
***
「っは...はぁ...ぜぇ...(走り回って疲れた...)」
「朔夜、お前休んでた方が...」
「へ、平気だよ...それよりタイミング見計らっていかなきゃ」
しばらく走り、建築工事の現場に来たあと
新八君を近くに置いてあったクレーン車の操縦を簡単に教えてから乗せて
神楽ちゃんをクレーンが吊っていた鉄骨にくくりつけ
小生と銀時は気配を消しながら、外から中を窺っていた。
すると、狂死郎がトランクの中のお金で勝男達と取引するという話になった。
勝男はその話を飲んで、狂死郎がトランクを勝男達の方に投げ渡した瞬間、
銀時が立ち上がり、腰の木刀をぶん投げ、トランクに当てて壁にそのまま張り付けた。
「(相変わらずあの木刀すごいな...)」
そんな事を場違いに考えつつ、中に入る銀時のあとをててっとついていく。
すると混乱した様子の狂死郎と勝男の視線が此方に向いた。
「「!!」」
「やぁ狂死郎ー、勝男達にそのお金上げなくていーよ」
「あぁ、そいつは大事にとっとけ。母ちゃんにうまいモンの一つでも食わせてやりな」
「!!朔夜!?それに、お...お前はァァァ!」
全員の視線がこちらに向いた瞬間――ドゴォ
「!!うおおおおお!!」
クレーンにぶらさがっていた鉄骨が新八君のクレーンに操作によって動いたらしく、勝男たちめがけて追突していき、ヤクザ達を大幅に蹴散らした。
そして残っている逃げてくる下っ端のヤクザ達を銀時と小生とで、お互いつかず離れずのの距離で、それぞれのしていく。
「っふぅ...もー、おいたがすぎるよ!卿らはっ!(下っ端の皆くらいならそこそこ相手できるか...まだ自分も若いねェ)」
ガッ、ゴンッ
「いだッ!!あ、姐さん!アンタ俺達の味方してくれないんスかァァ!?」
目の前にきたよく見知った下っ端ヤクザの一人の言葉に思わずため息をつく。
「はぁ...小生はねェ、ぶっちゃけ絶対的に誰かの味方ってわけじゃないの。自分の道理にそぐわないことを思うままに勧善懲悪してるだけなんだよ」
他人や社会が決めた善悪、敵味方、そんなのどうだっていい。
そんな固定観念ににとらわれるつもりもないし、そんなものに価値はない。
だって絶対間違ってる、絶対正しいなんてありえないから。
「小生が護りたいのは、その時折りで心が、魂が護るべきだと感じたものだ」
それがどんなものだろうが関係ない。
「醜いガラクタだろうが、泥だらけの石ころだろうが、護りたいとおもったら、それの味方だよ。小生は」
だからね?小生の今護りたいものに手ェ出すなら、それが小生の敵だよ。
にっこりと笑ってから、大柄な相手の懐にするりと入り込み、鳩尾に采配の柄を出来る限りの力で叩きこんだ。
どんな男も、やはり人体の急所の各所は効くらしい。目の前の彼はすぐに倒れた。
「ふぅ...やれやれ...(疲れてきた...眠いなぁ...)」
これ、もう終わったらすぐ寝れるよ。
そんな事を考えながら、かかってくる連中がいなくなったのを見渡していると
鉄骨にくくられていた神楽ちゃんが、お袋さんを掴んで助け出したのが見えた。
「このオバはんはもらったぜ、フゥ〜」
「(よっし、かぐ...)」
「のおおおおお!!」
「!!」
「(勝男も諦め悪いな!!)」
神楽が掴んだお袋さんの足に勝男がつかまった。
「このォボケコラカス。なめとったらあかんどォ。朔夜の知り合いやろォが、お登勢のババアの回し者やなんやしらんが
この街で、わしら溝鼠組に逆ろうと生きていける思うとんのかボケコラカス。次郎長親分敵に回したら...」
そこまで言って急に勝男が黙った。
「(...あれ?なんかのけぞってる?大丈夫か?なんか耐えてる顔してるし)」
そんな事を思いながら見ていると、お袋さんが急に頬を赤らめ、それに対し全力で勝男がつっこんでいた。うん、大丈夫そうだ。
すると、振り子の原理で揺れているクレーンの行く先に銀時が立っているのが見えた。
「溝鼠だか、二十日鼠だかしらねーけどな、溝ん中でも必死に泥かきわけて生きてる鼠を、邪魔すんじゃねェェ!!」
そして思い切り木刀を振りかぶって、勝男を小生の横の方にふっとばしてきた。
「兄貴ィィィ!!」
「やれやれ...やりすぎるとロクな事がないってね...教訓になったかな?ふぁ...」
「んなことよりけーるぞ朔夜ー(眠そうだな...まぁ、動きまわったし無理もねぇか)」
「んー...わかった...勝男はお大事にね〜...」
そして、落ちそうな瞼を持ち上げて。帰ろうとする銀時達のほうにむかえば、銀時に抱きあげられた。
そしてうとうとしながらそのまま帰ろうとすると、仲間に支えられた勝男が、話しかけてきた。
「これでこの件から手ェ引いてもオジキに言い訳立つわ。溝鼠にも溝鼠のルールがあるゆーこっちゃ。
わしは借りた恩は必ず返す。7借りたら3返す。ついでにやられた借りもな。3借りたら7や、覚えとき兄ちゃん。
朔夜、お前は...そういう女やとしっとるから大目に見たるわ...でもあんまわしらの邪魔するんやないで(惚れた弱みってのは恐ろしいもんやの...)」
「んー...ありがと...」
「返事しなくていーぞ朔夜。それよりとっとと帰ろうな(また見ない間に悪い虫増えてっし...)」
「ん...ねむ、ぃ...」
「寝てかまわねーよ...ちゃんと連れ帰ってやるから」
「んー...おねが、ぃ...」
銀時の優しい声を聞いて、朝日が僅かに照らし出した外を見てから小生は深い眠りについた。
***
こうして万事屋に泊って起きると、その日、お袋さんは夜に田舎に帰ると言った。
そして現在、いざ帰るとなった後、玄関から色々と注意をとばしてくるお袋さんがいた。
「アレだよ!砂糖とかお酒入れて煮て食べるんだよ!そのカボチャ!」
「しつけーな、何回同じ事言うんだよ!!」
「大きい声出すんじゃないのォ!!アンタはもう人のアゲ足ばっかりとってェェ!!」
「(なんか、珍しい会話だなァ)」
銀時がほんとに息子みたいだな。
口にはせず、こっそりと思う。
「アレだよ!あんま煮すぎてもダメだよ! グズグズになるから!適度に!」
「それさっきも聞きましたよ!ていうか大丈夫で...」
「そういう事言うんじゃないのォ!!アンタももう人のアゲ足ばっかりとってェェ!!」
「ええー...」
お母さんって口うるさいんだなー...
けど、小生もこういうの初めての会話だな...なんか、またかーと思うけど、暖かくてむず痒いな。
「アレだよ!よくかんで食べるんだよ!!」
「しつけーな何回同じ事言うんだよ!!」
「コレはまだ一回目だよ!!だまされないよ私ゃ!」
「(...でも、たまにはこんなんも悪くないな)」
くすっと笑い、目の前の銀時がうるさそーにしつつもきっちり返答する様子を見る。
「それじゃ私いくけど、私いったらちゃんとカギしめんだよ!最近物騒だから!!」
「しつけーな、もういいから早くいけよ!」
「アバヨ、オバはん。いい夢見ろヨ」
「オメーもなクソガキ!」
「(しかしやっぱり母親って口うるさいんだね)」
それは確かだと、そう再確認していると、お袋さんがついに帰る気になったらしく、玄関の戸を閉めようとした。
そんなお袋さんに、新八君が声を上げた。
「あのっ...お母さん...あのっ......結局...力になれなくて...すいませんでした」
「!(新八君...)」
そうだ...結局名乗りでなかったんだよね...狂死郎...
そう思うと歯がゆさを感じたが、お袋さんはニタッと満足そうに笑った。
「何言ってんのさ」
「え?」
「会わしてくれたじゃないのさ」
「!(気づいて...!?)」
「それじゃあね、色々ありがとうよ」
そしてお袋さんは玄関の戸を閉めて行ってしまった。
「...気づいてたんですかね...?」
「...さあね...でも母子ってのは、見えない何かで繋がってるって言うからね...生命の不思議だよ」
「難しい話はやめようぜ...それよりカボチャでも煮て食うか」
「マミー、小腹すいたヨー!」
「はいはい、じゃぁすぐ煮るよ」
***
しばらくしてかぼちゃを煮て、小生達はいつもより静かに、居間でカボチャの皿を囲んだ。
「ようやくうっとーしーのがいなくなったな」
「そうアルな」
「アレだな、母ちゃんなんていてもうっとーしーだけだっつーのがよくわかったわ」
「そうですね...」
「ま、母親は口うるさいもんだからねェ(皆なんか寂しいんだろうな...)」
「まったくだぜ...口うるさいのは朔夜だけで十分だわ」
「あれ、そんな口うるさい?」
「ああ、母ちゃんみたいにな」
静かさと妙な寂しさに蓋をして、いつもの軽口をたたいた後、皆でかぼちゃを取り、口にいれた。
「「「「1 2 3 4」」」」
全員で言われた通りよく噛んだかぼちゃの味はとても甘かったのに、何故かいつもよりどこか味気なさを感じた。
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