第八十三訓 柿ピーはあんまり食べすぎちゃダメ。 唇腫れるからねアレ。
「まさか空覇が手伝いでホストやってるとはね...」
「僕も朔夜さんがくるなんてびっくりしたよ!」
「(小生はそのホストの似合いように一抹の将来への不安を覚えるよ)」
高天原へとやってくれば、手伝いの依頼でホストの仕事をしていた空覇と会うという事態に陥った。
そして小生達は現在――
「朔夜先生お久しぶりです!」
「はいはい、久しぶり」
「しばらく来てくれなかったんで心配してたんスよ?火事にも巻き込まれたって聞きましたし」
「ん、ごめんごめん。忙しくてねェ」
「まぁ今日は楽しんで行ってください!」
「ありがとう」
「わぁ朔夜さんって、どこでも人気者だね!」
「そんなことないと思うがね...」
ていうか空覇って15歳...いや、まぁいいや...
そんなことをおもいながら、小生達万事屋一行は盛大にもてなしをうけている。
***
「神楽、あんまりオロナミンC飲みすぎちゃ駄目だよー」
ホスト達をはべらし、オロナミンCを2本も開けて満喫している目の前の神楽ちゃんに一応注意をしつつ
辺りを興味深げに見渡す二人を見る。
「きょろきょろしすぎだよ、二人とも」
「いやぁ、ホストクラブなんて来ませんからつい...」
「んだか落ち着かなくてよォ」
「まぁ...確かに、男は居場所がない世界だからねェ」
「にしても...空覇ちゃんまで働いてるなんて。いいんですか朔夜さん?」
「空覇の奴確か未成年だろ?(それに性別女じゃなかったアイツ?女にモテてんだけど)」
「まぁ...本人が納得の上なら小生は止めないさ。空覇の自分で決めた行動を、小生が止めたり縛る権利はないからね」
小生が勝手気ままな判断で人生を生きてるように、空覇には空覇の判断で人生を楽しむ権利がある。
「それに、空覇は世の中のことをもっと知る必要があるからね」
少し離れた場所で、たくさんの女の人に囲まれながら、楽しそうに仕事に励んでいる空覇をちらりと見て
おかしな方向に行ってる気がしないでもないけど、この楽しい街でうまくやれているようだと思い微笑んで目を伏せ、煙管の煙を吐きだした。
すると
「いやぁぁぁ!!」
「!」
斜め前のお袋さんの悲鳴にそちらを見れば、二人のホスト君達にはさまれて座っているお袋さんが胸を押さえるように手をクロスさせている姿が映った。
「さわった!今このコさわったわ私のこと!」
「いえさわってませんって、お酒をついだだけ...」
「いえ!さわりましたっヒジでオッパイさわりましたァ今!アンタもアンタでさっきから何チラチラいやらしい目でこっち見てるの?」
「...い...いや、見てません」
「見てたじゃないの!さっきからチラチラ私のボデーばっかり!セクハラ!セクシャルハラスメント!」
「オイババアうるせーよ。セクハラはアンタの顔面だ」
「(言い過ぎ銀時!)」
すると銀時の厳しい突っ込みをものともせず、お袋さんは一番近い小生の腕を掴んできた。
「ちょ、もういやーよ銀さん朔夜ちゃん!何ココ!!私たち八郎を探しに来たんでしょ!こんな所にいるっていうの!?」
「あー...まーまー落ち着いてくださいなお袋さん(にしてもほんとに八郎って...あの八郎なのかなぁ?)」
「アンタらもういいから、俺達勝手に飲むから」
そう言って銀時がホスト達を散らせる。
すると、銀時と小生に新八君がこそこそと話しかけてきた。
「銀さん、朔夜さん。お母さんやっぱりまだ気づいてないみたいですね」
「そりゃそーだろ。いくら息子でもあんな変わっちまったんじゃ...なぁ?」
「え、あー...まぁね...(でも八郎って...娘じゃ...しかも八郎って源氏名だし...んー?)」
ひっかかることに悩んでいると、新八君が一人言のように続けだした。
「でも八郎さんはどういうつもりなんだろう?一切お母さんに息子だって名乗り出る様子もないし
五年間音信不通であんなに変わったんじゃ言い出しづらいのはわかる。多分会いたくなかったんでしょうけど...
じゃあなんでわざわざ向こうから接触してきたんだろう?」
「んー...人間は理屈や理論だけじゃ行動は計れないからねェ(とりあえず疑問は置いとくかね)」
「朔夜の言うとおりだな。うっとーしい母ちゃんでも、目の前で暴漢に襲われてりゃ助けちまうのがガキってもんだろ」
「襲われたっていうか襲ってましたよねアンタら3人」
「失敬だなぁ。教育的指導だよ」
そんな話をしていると、狂死郎がやってきて、声をかけてきた。
「皆さん、お楽しみ頂けてますか?」
「あ、狂死郎」
「野郎に酒ついでもらっても何だかねェ」
「もう、ホストクラブなんだから仕方ないじゃないかい。銀時がごめんね狂死郎」
「いえ、いいんですよ。お好きなだけ飲んでいって下さい。あ、何かお食べになりますか?」
その言葉に銀時が頼もうとすると、お袋さんが重箱を取りだし開けた。
「ホラ、煮豆!コレ歳の数だけ食べな。ガンにならないよコレ」
「なに持ち込んでんの!?ビンボくせーからやめてくんない!!
こういう所くらいスタイリッシュにキメさせろよ!何で甘い豆?!酒に合うかよ!!」
「そーいう怒りっぽいトコロもなおるからこの豆は!食べな早く!ほら、朔夜ちゃんと、そこの派手な兄ちゃんも!」
「(えぇー...)」
あんまりお腹にモノいれたくないんだけどなー...そう思いつつ、無理矢理箸を渡されたのでしかたなくもぐもぐと食べる。
そして席に着いた狂死郎と、聞きたい事があると狂死郎に話しかけた新八君の話に耳を傾ける。
「狂死郎さんって、この店No.1であり、店の経営もやってらっしゃるんですよね、何でもしってますよね?」
「...ええまァ」
そして八郎について新八君が聞きだした。
「(小生も二人のことは創業当初から知ってるからなぁ...)」
二人が店を始めた頃に新しいホストクラブができたと聞いて興味で来て、それ以来いい付き合いをしている。
そう思いながら二人の話を聞いていれば、八郎の整形失敗話から、この街でのしあがるという話になっていた。
「この街でのし上がるためには、キレイなままではいられないですから...
私もかぶきNo.1ホストとまで言われるようになりましたが、得たものより、失ったものの方が多い。恥ずかしい話...親に顔向けできない連中ばかりですよ」
「...(狂死郎達はそんなことないと思うがね...)」
小生に比べりゃ、ずっと心がきれいだし、顔向けできると思うな。
そう思いながら冷めた煮豆を噛みつぶす。
その時だった――
ガシャァアア
「「「!!」」」
響いた音に入口の方を見れば、そこには蹴り飛ばされた八郎と、よく見知ったヤクザ達がいた。
「(あれって勝男...?)」
「八郎!!」
「オイオイなんだありゃ?朔夜知ってるか?」
「あ、あぁ...知ってるけど。あれは溝鼠組の...」
「エライ騒がしてすんませんでした。皆さん気にせんとどうぞ続けてください。ほな、これで」
小生の言葉を遮ってそう言った勝男の言葉を皮切りに、店の客の女の子たちが一斉に逃げ出した。
その騒ぎに乗じて、銀時、新八君と、臨戦しようとしていた空覇を呼び、4人で席の陰に隠れ、様子を見る事にした。
すると、あの制裁を加えた勘七という男が、溝鼠組の親分である次郎長の親父さんの、親戚の親戚の親戚の親戚であったらしい事が判明した。
「(まさかそういう繋がりとはな〜。でもあの事進めるための言いがかりなんだろうな...)」
「朔夜さん、八郎さんのこと助けなくて良いの?」
「ん?あ、あー...しばらく様子を見よう。ここと溝鼠組の、この関係が始まったのはわりと前からだしね」
「朔夜さん、あの連中のこと知ってんですか?」
「ん、ダチ?みたいなもんだからね...あれは溝鼠組の黒駒の勝男だよ」
新八君の言葉に何でもない風に返す。
「かぶき町四天王の一人、侠客、泥水次郎長んトコの若頭か...つーか朔夜お前、まじで付き合う連中は選べって言ったろ」
「勝男はわりと仲良くなれば良い奴だよ。ま、ヤクザだからこんな事もしてるがね...」
「お前な〜アイツはアブネー奴って聞いてるぜ?こんな事してるしよ〜」
「まぁまぁ、そりゃあヤクザだからねェ...ま、やりすぎたら邪魔するけど」
「はぁ...けど、また厄介な奴と何モメてやがる?」
「あぁ、それは――」
「ヤクよ、ヤク」
「うわっ!」
「神楽!」
言おうとすると、神楽がオロナミンC片手に割り込んできた。
そしてホスト達に聞いたらしい、ヤクをさばくさばかないの競り合いについての話を銀時達に聞かせた。
その話に銀時が面倒そうに頭を抱えた。
「...ったく、次から次に手のかかる息子だぜ。なぁ、母ちゃんよ...アレ?」
「...そういえばお袋さんは?」
「アレ、いないアル」
そして視線をさまよわせれば、はたと、前方の席に座っている勝男の隣に立つお袋さんが見え、小生達の時間が思わず一瞬止まった。
「「「「...(あれ?何やってんのあの人?!)」」」」
「あ、お袋さんいたね〜朔夜さん」
「(いや、居ちゃいけないとこにいるよ...どうしよう。小生が出ていったらうやむやにできないかなコレ)」
そう思いながら、勝男とお袋さんの激しいやり取りを見つめていると、隣の銀時に更衣室を指された。
「(朔夜、俺の考えわかるよな?)」
「!...(そういうことか。わかったよ)」
こうして、こそこそと見つからないように新八君、神楽、空覇を連れて小生達は更衣室へと向かった。
***
「...お前、ほんと何着ても可愛いになっちまうな...」
「え、駄目?イケてない?」
前髪をホストっぽくオールバックにして、スーツに着替えてみれば、スーツ姿の銀時に第一声でそう言われた。
「いや、イケてねーっていうかな...男にしちゃ可愛いし、お前だってすぐバレちまいそうだ」
「大丈夫だって、それより早く行かなきゃ」
そして煮え切らない様子の銀時の背中を押し、どうにも微妙な表情の残りの二人と、小生を可愛いという空覇の事も呼び、更衣室を出る。
すると、何故かお袋さんと勝男はタイマンで柿ピー生討論をすることになっていた。
「(今の短い時間になにがあったんだ?)」
疑問を浮かばせていると、勝男が酒を持って来いとテーブルを蹴り飛ばした。
「なんやこの店、ホストクラブのくせに接客もようせんのか?」
しかしホスト達は皆恐怖にかられて、動けないでいた。
小生は見兼ねて声をあげた。
「はぁい。今お酒お持ちしまーす」
「!」
そして全員の視線がこちらに向いた。
「今宵は、ホストクラブ高天原へようこそいらっしゃいました」
「当クラブのトップ3ホストの一人、シンです」
「ギンです。ジャストドゥーイット」
「グラだぜ、フゥー」
「お手伝いの空覇でーす!」
「同じくヘルプのサクだぜ。よろしく」
ビシッと各々かっこよく見えそうなポーズを決めた。
「なっ...」
「度胸あるやないか、こっちこ...って、アンタ、朔夜...?!」
「秒でバレた!?」
「バレへんと思ってたんか!?」
「(やっぱり朔夜の奴バレたか...!)」
結構オールバックでイケてると思ってたのになぁ...
一つため息を吐きだし、諦めて勝男の横に座る。
「何してんのや朔夜!」
「えー...出にくかったからノリだよノリ。なのにすぐバレちゃったし...」
「ノリて...わしらがお前に危害を加えるワケあらへんのやから普通に出てくりゃ良いやろ!(オールバックも似合うとる...!)」
「え、いやぁ、勝男達も仕事の話だったから無暗に関わって邪魔するのも悪いと思ってねェ」
「(朔夜先生/姐さんはほんとにどっちの味方でも敵でも無いな!)」
そんなことを思われているとは知らずに勝男と話していると、
その間に銀時に気づきそうになったお袋さんを、神楽がボディーブローで沈めたのが目に入った。
「アレ?お客さん。アララ〜もう潰れちゃったぜ、フゥ〜」
「いや、オバはんまだ飲んでへんで」
「気にしない気にしない。きっとさっきまで飲んでたのさ」
「オイ、シン。ババ...お客さんをあちらに寝かせて、ジャストドゥーイット」
「オッケェイ、我が命にかえても」
「なんやウザイんやけど」
「まぁまぁそう怒らない怒らない」
3人のやり取りにいらつく勝男をなだめる。すると勝男は、苛立たしげにしつつも目の前に座ってきた銀時から目を離し、狂死郎に話しかけだした。
「まァ朔夜の前で荒っぽい事はあんまりしたないからエエわ。狂死郎はん、話を元に戻...」
「何飲みますか?」
「(銀時ほんと恐いもの知らず...)」
「焼酎水割り7:3。で、話を元に戻...」
「焼酎3ですか?水3ですか?」
「焼酎や。話を元に戻...」
「焼酎3ですか?」
「せやから焼酎3やて!話を元に戻...」
「焼酎さん、何飲みますか?」
「焼酎さんちゃうわァァ!!いや焼酎3やけれども!」
「勝男!落ち着いて落ち着いて!」
わざとなのか本気なのか分からない銀時の鬱陶しさに限界がきたらしく、ついに怒鳴る勝男。
「いんやこのウザさ耐えられへんわ!いいか!?さっきの『3』は『さん』やのーてスリーや!焼酎スリー水セブンオッケー?」
「オッケェー我が命にかえても」
「流行んねーからそれ!さっきから何か押してるけども!イラッとくるからそれ!!」
「勝男、ギンは気にしないで穏便に話をしよう!」
そして勝男はゴホンと気を取り直すように咳払いをして、狂死郎にヤクザ的ビジネスの話をしだした。
その内容は、ここで女相手にヤクを売れという話の続きだった。
「(ヤクザってのも天人が来てから形態が変わっちゃったな...溝鼠組も仁義に厚い悪い奴らじゃないのになァ...時代かな...)」
「悪い話やないやろ、簡単や。いつものように甘いトークで女どもたぶらかして、金おとさせたらエエねん。クスリ買わせてな。
それでワシらこの店の用心棒がわりしたるし、もうけもきっちり7:3でわけたろーゆーてんねん。
もうこないな事もなくなるし、ワシも朔夜の前でこーゆー話せェへんですむようになるし万々歳やないの」
そして勝男に肩を抱かれ、抱き寄せられた。
銀時が一瞬怒りを秘めた瞳をしたのが見えたが、小生以外気づいてなかったのであえて触れないでおこう。
それよりも気になるのは、勝男の咥えた煙草に火をつけようとしている神楽の行動だ。
「前にも言ったはずです。僕らはあなた達のような人達の力を借りるつもりはない。
僕らは自分達の力だけでこの街で生きてきた。これからも変わるつもりはない」
「(なんで誰もつっこまないんだろう。狂死郎、シリアスにかっこいい台詞で返してるけども)」
ライターでもマッチでもなく、火打ち石だよ?いいの?
「ほぅ、ほなツレがどーなっても...いっ!」
あっ!シリアスに決めてた勝男の顔に当たった!!
痛みに思わず顔を押さえた勝男が神楽を止めて、ライターを差し出した。
神楽は少し嫌そうにしつつ、それを受け取り、火打ち石とコラボレーションし、ライターを叩き壊した。
「お前なにさらしてくれとんねん、朔夜が前にくれたんやでコレ!」
「(神楽よくやった)」
「ま、まぁ勝男、また誕生日に買ってあげるからさ」
大切にしてくれてありがとね。
そういいながら肩を叩いて、結構落ち込んでいる様子の勝男を元気づけるようにしていると
ヤクザの皆に捕まえられている八郎が、狂死郎に向かって、自分の事は良いから言いなりになるなと言い出した。
その言葉を聞いて、勝男が小生から手を離して立ち上がって歩いていき、八郎の頭をわしづかんで地面にたたきつけた。
「ええ度胸やないかァ。ほな、この街で生きてくゆーのがどんだけ恐いか教えたるで」
「!勝男...!」
八郎にエンコヅメをしようとする勝男に、流石にやりすぎだと止めにかかろうと立ち上がれば、控えていた空覇に話しかけられた。
「朔夜さん...止めにいこうか?」
「っ待ちな空覇...(もう銀時達が動いてくれてるね...)」
空覇の言葉に、銀時達へと気づかれぬよう視線を走らせれば、もう3人は動きだしてくれていた。
気づかれないように勝男の後ろへと回る銀時と視線があい、任せろというような赤い瞳に安心し、出るのをこらえて再び座る。
「流石ワシが認めた裏も表も知り尽くした女やな。裏社会の男の仕事にも理解があって助かるわ...」
「...(銀時なら任せて大丈夫...)」
そして勝男が腰の刀を引き抜き、振りかぶった。
「お前らとワシらじゃ覚悟がちゃうちゅーことを思いしれやァァ!!」
その時、勝男の刀を持つ腕がボキリといやな音を立てた。
「なァオイ、切腹ってしってるかァ?俺達侍はなァ、ケジメつける時、腹切んだよ」
ボキゴキと、銀時が掴んだ勝男の腕の骨が音を立て、その手から刀が落ちた。
「痛そうだから、俺はやんないけど」
「(流石銀時...(ほっ))」
「...お前、誰やねん」
勝男のその言葉を引きがねに見知ったヤクザ達が銀時に襲いかかった。
すると銀時がさらに後方へと視線を向けた。
「ドンペルィィィニョ3本入りまぁーす!!」
「はーい!」
新八君が銀時に向けて3本の瓶を放ると、銀時がまず二本掴み、かかってきたヤクザ達をその酒瓶で殴り倒し
最後の一本を掴んだ瞬間、勝男にさっきまで咥えていた竹串を向けられた。
「そううまくはいかんで、世の中」
「!ぎん――」
小生も助太刀にと、立ちあがった瞬間、勝男のメール着信音が響いた。
そしてメールを開いた瞬間、叫んだ。
「メルちゃんがァァァ!!ワシのいぬ間にママになってしまいよったァァ!!」
「あ、産まれたんですか、ついに。おめでとうございます」
「おめでとうであるかァボケェ!!こうしちゃおれん、スグ引き上げるでェ!!」
「へい!」
そして勝男達は覚えとけという台詞をのこして去って行った。
「(...メルちゃん最近妊娠してたもんな)」
そう思いながら、とりあえず事態は落ち着いたと思いながら倒れている八郎に声をかけた。
「八郎、大丈夫かい?」
「え、えぇ...ありがとうございました皆さん、助かりましたァ」
「フー、ったく手間かけさせやがって。母ちゃんの目の前で息子死なせるワケにはいかねーからな」
「母ちゃん?」
「とぼけんじゃねーよ。どうして隠してたかしらねーが、もういいだろ。名乗り出てやれや、あのババアによー」
「いや、何を言っているのか、よく...」
「(...あ、そう言えばやっぱり八郎って...)ねぇ、その話なんだけど――」
思い出した事を言おうとしたが、新八君に遮られてしまった。
「いい加減にしてください。お母さんがどれだけ心配したと思ってんですか」
「え?...いやでもオラの母さんもう死んでるし」
「......死んでるってなんだよ。僕の中では死にました的なアレだろ」
「死にました1年前に。ちなみにオラ、息子じゃなくて、こう見えて、元娘です。
オナベですからオラ。八郎は源氏名、本名は花子です...朔夜先生は知ってるはずなんですが」
八郎の言葉に銀時と新八君の視線が確認するような死んだ目が此方に向くのでこくりと頷き、答える。
「忘れてたけど、ほんとだよ。八郎は元々、女の子なんだよねェ」
小生の所にも顔変えに来たから覚えてるよ。でも、小生は整形好きじゃないから断ったんだよねェ...
そう思い返しながら、茫然としている二人に言っていると、神楽が走ってきた。
「銀ちゃん、マミー大変アル!」
「どうしたんだい?神楽」
「おばちゃんが...どこ捜してもいないアル!!」
「お袋さんが!?」
「ひょっとして連中にさらわれてしまったのかも...!」
「!!母ちゃんが!!」
「「え」」
「......(あ、そういえば...狂死郎が本名は八郎だったな......わぁ、マジかい)」
声をあげた狂死郎に、そういえばと再び埋没していた情報を思い出したのだった。
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