銀魂連載 | ナノ
第八十二訓 大体どこの母ちゃんも同じって、全国のお母さんに失礼じゃない?




あの常盤家の事件から数カ月がたった。

燃やされた廃屋の跡地から、床下の地面に隠していた金品や通帳、印鑑などを救いだし

新たな家を、他の皆の家を転々としながら探して見つけた

かぶき町の外れの打ち捨てられた、昔の豪家のらしい日本家屋を住めるように掃除したり

失った家財道具や、薬品、実験器具など必要なモノを買いつけたり

忙しいわ、出費はかさむわで最悪だった。

まぁ出費に関しては、自費を覚悟していたんだけれど

言ってもいないのにどこで聞きつけたのか、辰馬や、歌舞伎町の知り合い

それに万斉もとい、つんぽを通して鬼兵隊が買ってくれたし、松平の旦那とかも、皆それぞれ家財道具やら、お金を送ってくれて

おかげで本当に助かった。持つべきものは、困った時に助けてくれる優しい知人だね。

そう思いながら、小生はモノがそろい、すっかり住みやすくなった、新居のボロボロの日本家屋の縁側で、煙管の煙を吐きだし

万事屋に行こうと腰を上げた。


***


ガラッ


「おはよー...って、あれ、おきて...」

「おー、朔夜か」

「おはようございます朔夜さん」

「あ、マミーおはよーアル」

「アラアラ、おはよう」

「って、どちらさん!?」


居間に入り、知らない声にそちらを見れば、一人の年配の女性が定春に餌をあげていた。

驚いて思わず飛びのけば、普通にスルーされて席に促された。

よくわからぬまま空いている新八君の隣に座る。


「そんなことより早くご飯食べなさい。ご飯は中盛り?大盛り?」

「え...寧ろ小盛りで」

「何言ってるのよォ!!そんな小枝みたいなほっそい小さな身体してェ!!」

「いやあんまり食べれないんで」

「口答えすんじゃないの!アンタはもう人のアゲ足ばっかりとってェェ!!」


そして問答無用で大盛りのご飯を渡され、仕方なく箸を取って食べだすと、

その女性はゴミ捨てに行ってくるから、残さず食べなと居間を出ていった。

ご飯を少量口に含み、少し間をおいて、新八君が問いかけた。


「銀さん」

「あ?」

「誰ですか、アレ」

「アレだろ。母ちゃんだろ」

「え?銀さんの?」

「それはないよ」


多すぎるご飯を銀時に半分くらいあげて、否定する。


「そうそ、俺家族って朔夜しかいねーから。オメーのだろ、スイマセンね、なんか」

「言っとくけど、僕も母さんは物心つく前に死にました。神楽ちゃんでしょ?」

「私のマミー朔夜並にべっぴんアル。それに今は星になったヨ」

「小生にももう母親いないし...じゃあ誰――「もの食べながらしゃべるんじゃないの!」

「あ、スイマセン」


まだゴミ捨てに行っていなかったらしい誰かのお袋さんが顔をだした。


「ちゃんとかむんだよ!二十回かんでからのみこみな!」


そして再び障子を閉め、今度こそゴミ捨てに行ったらしい。

それを見届けてから、4人で口の中のものを大人しく噛みだす。


「「「「...…...1、2、3、4...」」」」


そして聞きたかったことを、ごくりと飲み込んでから切りだした。


「結局、あの人誰?」

「「「さあ?」」」


***


「――で、貴女は一体なんなんですかい?」

「母ちゃんだよ。八郎の母ちゃん」


帰ってきて、普通に自分の家のようにご飯を目の前で食べる女性に机を挟んで座り、聞けば、そう返ってきた。


「八郎...?」

「八郎って誰だよ。つーか八郎の母ちゃんが、何故ウチで母ちゃんやってんだよ」

「ウチの田舎じゃね、母ちゃんはみーんなの母ちゃん。子供はみーんなの子供」

「グレートマザー気どり?グレートマザーポジションなら朔夜だけで十分なんだよ。

グレートマサみたいな顔して...オイ、それ何?なんで食べてんの?ウチのメシなんで食べてんのオイ」


そして銀時の突っ込みをスルーして話し続ける八郎のお袋さんの話を聞いていけば

江戸へと出てきた息子に会おうと田舎からきたが、迷って困り、この万事屋を見つけたらしく

お世話になるから、寝てるあいだに朝ごはんを造ったとのことだった。

ていうか鍵閉めとこうよ銀時...不用心な...

そう思った時、八郎のお袋さんが一人の青年が映った一枚の写真を取りだした。


「コレ、うちの息子の八郎なんだけどさ五年前江戸に上京してから音信不通で

この街で働いてるのは確かなんだよ...一緒に捜してくれないかィ?」


すると銀時はようやく依頼主ならばとちゃんと聞く態度になった。


「...いや、仕事なら引き受けますけどね。おばちゃんお金とかちゃんと持ってんの?」

「コレ八郎に食べさしてあげようと思ったんだけどね...仕方ないね」


ゴトゴト


「(お袋さん!それカボチャ!それでいけると思ってたのかい!?)」

「オイオイおばちゃんおばちゃん。誠意って何かね?」


銀時がそう突っ込めば、今度は和室の敷きっぱなしになっていた布団に寝転がった。


「ちょ、お、お袋さーん?」

「...成程、そーいう事ですか。つくづく腐ってるね、メガロポリス江戸...

わかったよ、好きにすればいい。ただ一つだけ言っておく。

アンタに真実の愛なんてつかめやしない!」

「深読みしてんじゃねェェェェ!!気持ちワリーんだよクソババア!!しかも朔夜の前で不吉な事言うな!!金だ金!!」

「(また濃いキャラのお客だねェ...)」


そう思いながら、小生達は報酬を息子から貰うという事で、この依頼を受けることにした。

そこでまずは下のお登勢さんの所に行って、情報を得る事を試みたのだが、見た事がないを言われてしまった。


「名前は黒板八郎らしいんですが...」

「名前なんざこのかぶき町じゃ、あってなきようなもの。名前も過去も捨てて生きてる連中も多いからねェ」

「ですよねェ...」


浄も不浄も受け入れる、無法者達が集うかぶき町。

そこで生きてるってことは親に顔向けできないことやってる連中も多いし...

捜すのは至難の技だな...

思わずどうしましょうとため息をついていると、小生達にお袋さんが、心外だというように話しかけてきた。


「ちょっとちょっと奥さんに娘さん、何?ウチの子が何?なんかうさん臭い事でもやってるっていうの?」

「あぁ、いえ、そういう奴が多い街だからってことで...」

「冗談じゃないよ!八郎はそんなんじゃないよ!あの子は小さい頃から真面目で賢くて孝行者で私の自慢の子だったんだい!

五年前、単身江戸に出たのだって、父ちゃんが急に死んじまって貧窮したウチをなんとかするために...あの子...

ぐすっ...絶対トレジャーハンターになるって...」

「「「どこが賢い子!?」」」


トレジャーハンターって賢い子の発言か!?

そう思いながらも絶対この街のどこかで真面目にやっていると訴えるお袋さんに、やれるだけやろうと街中の捜索を始めた。


***


「――なるほどねェ...」

「そーかィ、ありがとよ。またなんかあったら頼むわ」

「邪魔してごめんよー」


捜索を開始してしばらく経ち、小生と銀時はホワイトジャックという知り合いの同業者である闇医者の店で話を聞いて外に出た。


「はぁ〜...困った事になってきたねェ...」

「そーだな...」


すると、別れて捜していた新八君と神楽が駆け寄ってきた。


「朔夜さん、銀さーん」

「マミー、銀ちゃーん」

「こっちはダメでした」

「私もダメネ。これオバちゃんの匂いが染みつきすぎて、定春鼻おかしくなってしまったアル」

「どうりで定春が小生に鼻を押しつけてくる訳だね」


ぐりぐりくんくんとしてくる定春の頭を頑張ったねと撫でてあげていると銀時に首根っこをつかまれた。


「う?」

「定春と遊んでる場合じゃねーだろーがよ」

「はいはい、分かってるよ」

「ところで銀さんと朔夜さんは...?...ここ、非合法の闇医者の...」


すると新八君は気づいたようにこっちを見たので、ぽりぽりと頬をかいて、言葉にした。


「あちこちお互い知ってる情報屋をあたってみたんだけどね」

「アタリがねーんで視点を変えてみたんだよ」

「そしたらどーやら孝行者の息子さんは、親御さんにもらった顔を2、3度変えちゃってるみたいでねェ...」


困ったもんだよ、ともらせば新八君はさらに目を見開いた。


「整形ですか!?なんでそんな」

「しかもここだけじゃなく、あちこちで顔いじりまわしてるようだ。もう写真(コイツ)はアテにならねェ」

「顔コロコロ変えるなんて、まるで犯罪者アルナ〜」


神楽がそう言えば、新八君が訴えてきた。


「...銀さん、朔夜さん。この件は、あんまり深くつっこまない方がいいかもしれませんね。

これ以上何かしっても...八郎さんもなんか嫌がりそうだし、お母さんも何もしらない方がいいかも...」

「新八君、それは当人たちの判断だよ。小生達の判断じゃない」

「そうだぜ。とにもかくにも、まず孝行息子見つけてからの話だ」

「でも写真はもう使えないし...どうやって?」

「整形っつったって、骨格までなかなか変わんねーだろ」


そして銀時が写真にマジックで髪をかきたしたのをきっかけに、銀時と神楽の落書き大会が始まった。

その結果、小生のよく知った知り合いと似た男の写真ができあがった。


「...(あれ、滅茶苦茶知ってるぞこの八郎。でも八郎って息子...?)」

「アレ?これちょっといくね?オイ」

「ああ...そうですね。いそう、コレ。お台場あたりにけっこう――いねェェェェェよ!どこにもいねェェよ!!いても外出てこれねェェよ!」

「え、いr...」

「いやいるよネバーランドあたりにけっこう」

「(いや現実にいるよ)」

「ネバーランドねェェよ!あったとしても外出てこれねェェよ!」

「(いるのになぁ)」


そう思いながら二人へのつっこみを新八君にまかせ、辺りをきょろきょろ〜としていると、今まさに話題の中心である男が歩いてきた。


「あっ――」


ピルルル

声をかけようとした瞬間、彼――八郎の携帯電話がなり、さえぎられた。

それに3人も気づいたらしくその場に、固まっていた。


「オス、オラ八郎。あ、ハイ。今からお迎えにあがりますんで」

「「「(いっ...いたァァァァァァァァ!!)」」」

「(ナイスタイミングだなぁ)」

「マッ...マジでかァァ!?いっいたぞオイぃぃ!!」

「いやいるでしょ、そりゃ」

「だってアレだぞ!?いるわけねーと思ってたんだよ!!」

「どどどどーすればいいの!何をすればいいの僕達!?」

「いや落ち着こうよ皆。とりあえずお袋さん呼んでこよう」

「そそそそうですね!お母...」

「アレ...何やってんの?アレ...」

「面倒事の予感がするねェ...」


離れた場所にいたお袋さんと呼ぼうとして見た光景に思わず銀時、新八君とともに固まると、神楽ちゃんが何でもない風に説明してくれた。


「ギャルとメンチ切り合ってるアル」

「バババぁぁぁ!!」

「お袋さァァん!!」


なにやってんのあの人!?今時のギャルってのは、すごく面倒な生き物なのに!


「アレは俺と朔夜がなんとかすっからお前ら八郎を追え!」

そして、救急車と叫び出したお袋さんを銀時と共に止めにはいる。


「母ちゃん早くこっち来い」

「ごめんね〜お母さんが。田舎者だから許してよ」

「ちょっ、ダメよ銀さん朔夜ちゃん!あの子達の顔見て!アレ父ちゃんが死んだ時と同じ顔色よ!」

「あぁアレな。こえだめから生まれてきたんだアレ」

「(言っちゃ駄目だよ!!)」


すると思った通りギャル達がさらに絡んできて、小生にまで目をつけてきた。


「ていうか、そこのブスなまな板女」

「え、小生...?」

「他にだれがいんだよブス」

「あぁ?!朔夜のどこがブスだァ!?自分の顔鏡見てから言えや!殺されてーの!?」

「落ち着いてってば、銀と――」

「アンタみたいな地味でブスな女に都会は似合わねーっての。さっさと田舎帰ったら?」


あまりの言い草に腹が立ち、銀時を止めるのをやめて、口を開く。


「(ムッ)あんまり人をブス、ブスって言われなくても分かってるっての...でも、顔が土気色の君達よりマシだよ」

「日焼けだコルァァ!!」

「あぁ焼き豚ファッションていうのかな?都会は新しいねェ。小生はそんな美的感覚がすれた、ちゃらついた格好絶対しないけどな」

「(朔夜の目が一切笑ってねェ!!)」


その時だった。


「ちょっとちょっと何ィ何ィ?お咲ちゃんモメ事〜イェ〜」

「勘吉さん!」

「なんかァ〜このダセー親子が私らに絡んできて〜」

「(また嫌いな部類の男来た!しかも腰パンにしすぎじゃない?なにあれ?パンツ見えないの?それにめちゃくちゃ足短っ!!)」


だらしなく見えるし、うわぁアレが世の中でかっこいいってまかり通ってるの?意味分からない。

そんな風に思ってると勘吉とかいうそのチャラ男が小生達に話しかけてきた。


「オイオイ、何この3人はおのぼりさん?イェ〜」

「(いや住んでるけどね)」

「どこの山奥から来たのかしらないけどさ、あんま俺の街で調子こいてっと、殺すよマジで(お、でもこの姉ちゃんは可愛いな...)」

「(いや卿程度に殺されるほどやわじゃないから)」


するとおばさんが隣から小生達にこそこそと話しかけてきた。


「アレ、あの人足短い」

「ファッションだコラァァァァ!!」

「(言われてもしょうがないと思うがね)ほんと母さんったら〜言っちゃいけないよ〜」

「すいません。田舎者なんで勘弁してください。ちょ、忙しいんで俺達はこれで...」


銀時は小生の片手をひっぱり、お袋さんのことも促して、こそこそとお袋さんに話しかけた。


「オイ、いい加減にしろよ。アレはな、今江戸で流行ってる足の短さをごまかすファッショ...」

「オメーが一番失礼なんだよ!!」


そしてキレたらしい勘吉と連れの男が、叫んでお袋さんに蹴りかかってきた。

それを見て銀時が勘吉の袴のまたの部分を掴み、小生が連れの男の足を、取り出した采配で引っ掛け

顔面スライディングを決めさせてから、襟部分をつかんで仰向けにして睨みつけた。


「オイ、忙しいっつったの聞こえなかったか坊主ども」

「あのさァ、そこのケバい嬢ちゃん達も言えるけどね、足袋も袴もルーズに決めんのは、個人的に嫌だけど、まぁ勝手にしなさいよ。でも――」

「ババアに手ェあげるたァどういう了見だィお兄ちゃん達...」

「足袋はルーズでもね、」

「「人の道理はキッチリしやがれェェ/しなさいッッ!!」」


ドゴッ ゲシッ


銀時は勘吉の頭を地面に叩きつけ、小生は連れの男の股間を下駄で踏んづけた。


「「ぎゃああああ!!」」


二人分の悲鳴が辺りに響いた。


「オラァァァズボンをあげろォォ!ボケがァァァ!」

「足袋をあげろォォ!」

「だらしないんだよさっきから見苦しいねッ!」

「哀川翔を見習えェェ!!デッドオアアライブの時のォォ!!」

「相当あげてたんだよあの時!!ズボンの位置相当高かったんだからァァ!!」


気絶した男二人に苛立たしさをぶつけていれば、声がかかった。


「そのへんにしておきたまえよ!」

「!!」「!(この声は...)」


振り返れば、そこには知り合いの男二人が立っていた。


「勘吉、こんな所で何をやっているんだ君は」

「!!きっ...狂死郎さん!!」

「やぁ、狂死郎かい」


男から離れ、微笑む。


「なんだ朔夜、知り合いな...!!(あ...八郎!?)」

「このボケがぁぁぁぁ!!」


ゴッ


「ぐふぅ!!」


近づいてきた八郎が思い切り勘吉を蹴り飛ばし、踏みつける。


「下っ端とはいえウチの店に勤めてるモンが狂死朗さんの顔に泥をぬるようなマネしやがってェ!!

それに朔夜先生にまで手間かけさせるたァどういう了見だ!」

「(え?何?どーいうことなの朔夜)」

「(つまり小生の知りあいってことなの)」

「(は!?なんで言わね...)」


その時、集まっていたギャラリーの女の子たちが騒ぎだした。


「キャー狂死朗様と八郎様だわ」

「?」

「へェーあれがかぶき町1ホストの本城狂死朗。カッコイイけどちょっと恐くない?ヤクザチック」

「(...ホスト?アレ...ホストってなんだっけ)」

「(気持ちはわかるけどホストはホストだよ、銀時)」


心の会話をしているとお袋さんが話しかけてきた。


「なんだィアレ?銀さん、朔夜ちゃん。ポストってなんだィ。ねェ...ちょっと」

「ホステスの男バージョンですよ、お袋さん」

「選ばれたイケメンのみがなれ...(...ホスト?アレ...ホストってなんだっけ。選ばれたイケメ...)」

「(銀時の八郎を見つめる目がいつも以上に死んでるなァ...)」

「(...アレ?ホスト?これ...ホスト?ホスト!?コレの...息子(アレ)が...)ホストぉぉぉ!?」

「び、びっくりさせないでよ!」


いきなり叫んだ銀時にびくつく。


「だってお前コレのアレがアレでホストで...!?」

「うん、落ち着こう銀時」

「だって、おまっ、ホストぉぉぉ!?」


その時、茫然とした銀時と落ち着かせている小生の目に、ギャラリーに混じっている神楽と新八君が目に入って、そちらを見れば、二人はこくこくと頷いた。

それを確認した後、八郎が近づいて話しかけてきた。


「ウチのモンが迷惑かけて大変申し訳ない。おケガありませんか?」

「ああ平気だよこんなもん」

「朔夜先生もお手をわずらわせてすいません」

「いいんだよ、アレくらいのこと気にしないでおくれ」


スッキリしたしね。


「ぜひお詫びがしたいので、ウチの店へきてくださいませんか?」

「おや、いいのかい?よくごちそうになってる気がするけど」

「朔夜先生でしたらいつでもと狂死朗さんも仰っていますし。

それに、今回はこちらのマダムにも迷惑をかけましたから、どうぞ来てください。俺達の城、『高天原』へ」


そうして小生達は、狂死朗と八郎に連れられて、彼らの店である、『高天原』へと向かう事になったのだった。


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