銀魂連載 | ナノ
第八十一訓 しっとりしたエンドロールは退屈でしょう?




「――朔夜」

「なぁに、おとうさん?」

「少し辛い事を聞きますが...君は、自分の本当の家族をどう思いますか?」

「!...分からない...でも、嫌...だと思う」


縁側で、降ろしていた膝を立て、抱えて座り、隣のお義父さんにもたれかかった。

しんしんと降りつもる庭の雪を眺めながら、ぽつりとつぶやいた。


「だって、ちっとも思いだしたくないんだもん...」

「...でも、わからないんですね」

「うん...わからないの...」


虐げて殺そうとした父上様、見てくれなかった母上様、いつからか豹変した兄上様。

憎めば楽だと思うし、嫌いだとも思う。

でも、心のどこかでそんな気持ちを拒絶する自分がいる。


「...あの人達がいたから、私は今こうしておとうさんや皆と出会えて話ができるんでしょ?」

「...えぇ、そうですね」

「だからね、もうそれでいいんじゃないのかな、全部」


小生を殺しきらなかった事を、小生は感謝してるから。

生まれてきただけで小生は幸せなんだと、今は思えるから。


「昔は昔で、今は幸せ。私には大好きなおとうさんや皆がいる。その事実だけできっといいんだ。

嫌いとか好きとか、あの人達に向ける感情はきっともう私の中にあるがままでいいと思うんだ」


多分ずっと好きにはなれないけど、無理に嫌いにならなくてもいいと思う。

ダメな考えかなぁ?と隣のおとうさんを見上げれば、おとうさんは優しく笑って抱きしめてくれた。


「その貴女の優しい考え方がきっとこの先の未来で、誰かの心を護るでしょう...だからそのまま、人を汲める、優しい人になりなさい」


――お義父さん、私はこの考えを貫いて、母の心を最期に護れたのでしょうか?


***


「でもまさか皆助けに来るなんて...」

「なに言ってんだよ、当然だろ...!」

「お前を捨ておけるかよ」


トシから、着替えの時に預けていた母の手紙を受け取り、他4人も一緒にきたと聞いて、皆が助けにきてくれたという事実に、

不謹慎だけど嬉しいと思い、こんな状況なのに笑みがこぼれた。

すると二人がいぶかしげな顔をしてきた。


「朔夜...?」

「何笑ってんだ?」

「あ、ごめん...でもね、少し、嬉しくて...」


小生って、思ってた以上に人に思ってもらえてるんだなぁって感じて...

頬を僅かに熱くさせつつ、ぽつりとそう言えば、銀時に前から力強く抱きしめられて、トシに頭をわしゃわしゃとされた。


「おめーはほんっと変なとこ馬鹿な!俺がお前を助けにこねーわけねーだろ!!」

「朔夜、オメーが俺達を背負ってるように、俺だってお前を背負っていてーんだよ」


俺だって、お前の寄りかかれる場所にくらいなれる。


「!っ...(あぁ、嬉しくて苦しい...)」


小生の身体を包んでいる変わらない落ち着く銀時の体温と、トシの小生を見つめる真っ直ぐな強い光の灯る瞳に

思わず涙腺が緩みそうになるのをぐっとこらえる。

縋りついたら、小生は駄目になるからできない...できない...しちゃいけない...


「(自ら縋れば弱くなる)」


弱さを隠すために、虚勢を真実に塗り替えながら生きていくことを選択した。

もう目の前で沢山のものを失う事がない様に、強くなるために、後悔しないために。

だからまだ何も護れてない弱い小生に、この優しさに縋るなんてできない。絶対に。

特に、一番近くで、似た感情を重ねてきたであろう銀時の前では泣けない。

そう思い、視線を逸らすように目を伏せ、銀時の胸を押し、身体を離す。


「!」

「ありがとう、トシ、銀時...でも小生は十分二人に頼ってるし、甘えてるよ」

「!朔夜っ...」

「いつも感謝してる、本当だよ?」


今日も助けに来てくれて、すごく嬉しかった


「護られてばかりで、ごめん」


そう言って、こみ上げてくる涙をこらえて笑った。

すると二人が苦虫を噛んだような顔をして、反論してこようとした時だった。


「マミーどこアルかァァ!!」「朔夜さーん生きてますかーィ?」

「朔夜さァァァん!!無事ですかァァ!!?」「朔夜さんんん!助けに来ましたよ!!」

「!!」


がしゃぁぁんと左右の扉をけ破って、見慣れた4人が入ってきた。


「皆...?!」

「おめーら何やってたんだ!」

「今までどこいた!!」

「そっちこそ檻の中で何やってるアルか?」

「あぁ、監獄プレイ兼3Pですかィ?血の海で余裕ですねィアンタら」

「「「この状況でんな訳あるかァ!!」」」


焦るべき状況での突拍子のない総悟君のボケに思わずいつもの調子で突っ込む。


「でもなんで銀さん達は檻の中に!?この屋敷もうすぐ崩れそうだっていうのに!」

「いや好きでここに入ってんじゃねーよ!閉じ込められたんだよ!朔夜のバカ兄貴に!!」

「つーかどうやって出るかの方が問題だろ!」


その時だった。


「朔夜さん今出してあげるから!!」

「「「「「「「!?」」」」」」」


ダンッ――バキィン!!

空覇が飛び込んできたと思ったら、横一線に檻を思い切り蹴り、鉄の棒をぐにゃりと飴のように曲げた。


「!?空覇...!!(この特殊合金簡単に曲げるなんて、どんな脚力だ!?)」

「無事でよかった...!」


唖然としていれば、空覇に抱きつかれ、すりすりとされた。

「血で汚れるよっ!」

「そんなのいいもん...!それより逃げよう朔夜さん!皆も早く逃げた方がいいよ!」


そして空覇は有無も言わせず小生を抱き上げると6人を置いて走り出した。


「ちょっ!?空覇!?」

「皆なら丈夫だから大丈夫だよ!」

「えぇぇ!?」


戸惑ったが、結局小生の訴えは聞き入れられることなく、屯所へと早々と連れ帰られた。

疲労困憊な屋敷に残っていた6人が屯所に戻ってきたのが、それからしばらく後だったのは言うまでもない。


***


―そして翌日のニュースで知った事だが、常盤家の屋敷は賊に押し入られ全壊。

その家にいたものは『常盤家の嫡男』と『行方不明の身よりがない女中一人』を残し、

『長い闘病中だった常盤家の姫』も含めて皆殺しにされたらしい。

「両親や最愛の妹がこんな事になって残念です。数日中に葬儀を執り行います」と

いかにも悲しんでますと泣きながら会見を開く、昨日鬼畜の所業に勤しんでいた画面の中の男をぼうっと見ながら、

大衆はこの話信じるんだろうな...喜劇そのものだね、と思っていれば、此方を見て一瞬瞠目したトシは無言でテレビを消し、

葬儀の話が真選組に来れば知らせるから寝て休めと、頭をわしゃわしゃと撫でて部屋を出ていった。

不思議に思いつつ、目の前の黒くなった画面を見つめれば、そこに映る小生の目は、限界まで瞳孔が開いていて射殺しそうな目をしていた。

トシもテレビを消した訳だ。結構今のいけしゃあしゃあな捏造話怒ってたんだな、自分。

そう思うと落ち着こうと息を吐きだして目を閉じ、真後ろの布団に仰向けにそのまま倒れ、眠りについた。


***


「...(今年は雪が多いなぁ)」


数日が経ち――今日は常盤家の葬式に出席するために、屯所はにわかに慌ただしい。

そんな中小生は、準備もせず縁側でただ灰色の空からしんしんと真白の雪が落ちてくるのを、

長襦袢の上に羽織だけを肩に引っ掛けて、煙を燻らした煙管を片手に眺めていた。

そこに近づいてくる、聞きなれた足音。


「風邪引くぞ、朔夜」

「トシ...大丈夫だよ。それよりどうかしたのかい?」


振り返らずに煙管を咥え、息と煙を吸い込んで吐きだす。同時に薫るガーベラの芳しい匂い。


「...本当に葬儀にゃ出ないのか?」

「――うん、出ないよ。だって幕府に所属してる訳でもない...常盤家と『無関係』な民間人の女中が葬儀に出る意味が分かんないじゃないか」


トシのことを振り返らず笑みを浮かべたまま答える。


「...そうか...後悔はしないか」

「後悔なんかしないよ。自分でした選択だもの」

「...」

「結局選んでるのは自分なんだから後悔なんかしない」


反省はするけどね、と茶化すように言えば、トシは小生の隣に座ってきた。


「...強ェな、お前は」

「...違うよ。もう後悔っていうのをしたくないだけ」


終わってしまった事を悔いてばかりじゃ、前に歩けなくなるしね。


「それにどうせ終わった事を悔いたって、その選択肢には二度と戻れないんだから」


その選択肢を選ぶ時、自分がその時最善と思ってした選択なんだからどんな結果になっても悔いない。


「そう、自分に言い聞かせてるだけだよ。後々立ち止まらないように」

「...そうか...(それがお前の強い所の一つだと思うがな)」

「うん(それにあの女中の顔潰れてたから、遺影の写真として、退職した乳母って偽って、小生が姫に扮装した写真を常盤家に送っちゃったし)」


その姫とよく似た人間がきたらおかしいしね。

その事実を胸の内にとどめ、トシを行かせようと声をかける。


「それより、そろそろ行かなくていーのかい?」

「...まだ大丈夫だろ」

「...そう」

「――なぁ、」

「...なぁに?」


トシの声に前を見たまま答えれば、少し間をおいて声が返ってきた。


「...相変わらず笑ってんな、おめーは」

「なんだい?陰気な顔の方が見たいのかい?」

「今くらいはな」

「...そう返されたら冗談が冗談じゃなくなるじゃないかい」


本気のトーンの返答に、思わず息を吐きだし、ぽつりと零す。


「――随分前にも言ったろう?全部受け入れて生きていける人になりたいと」

「俺は泣くのも強さだと言ったはずだが?」


...ああ言えばこういうんだから...

そう思いながら、ぽつぽつとだけ気持ちを吐露する。


「...昔から小生の周りには不器用で強がりで優しい人が多くてね」

「!」

「小生と同じくらい、いや小生より辛かっただろうに、その皆はね、どんな時も自分達は弱音を吐かないで小生の涙を受け止めようとしてくれたんだ」


泣きたいと思うのは、苦しいと思うのは、皆同じだった...いや、それ以上かもしれなかったのに。

皆、泣きたいくらいの何かを背負ってるんだって思ってね。


「初めて皆が泣いた時、そんなことに気づいてね...あぁ、自分も強くなって皆の心を護ってあげたいなって...」


せめて、そんな皆の背を後ろから支えられたらいいのにって。

今まで散々自分の涙も弱音も受け止めてもらったんだから、今度は小生が、皆を受け止めてあげたいって


「それで、泣く時は一人でと決めたんだ...」


ふう...と煙を吐息と共に吐きだして、自嘲するように微笑んでそう言葉を零し、トシを見上げようとすれば、強く抱きしめられた。


「っと、トシ!?」

「...お前はもっと、自分のために生きていいんだ」

「...やだなあ。十分自分のために生きてるよ...我儘だし好き勝手にふるまってるじゃない」

「っだとしたらお前は...自分より大切なもんがありすぎんだよ...!」

「!っ」


否定しようと思ったが、否定の言葉が出て来なかった。

すると、トシがさらに強く優しく抱きしめてきた。


「周りにばっか底なしに優しすぎんだよ、おめェは...」

「そんな、こと...」

「俺にとっちゃそんなことある...だから、少し走り疲れたって弱音言ったっていいじゃねェか」


今なら誰もいねェから、休んだってばれねェよ。

そう言ってそっと胸板に小生の額を押し付けさせた。

頭を撫でられる感覚に、身体が震え、視界が滲んでいくのを感じた。


「っあぁもう...我慢してたのに...」

「...聞こえねェし見えねェから、何の事かわかんねェ...」

「っ、ありがとう...」


どうして、トシの前ではこんな簡単に泣いちゃうんだ。

トシの優しさにのまれて甘えていきそうで、恐い...

そう思いながら瞳を閉じて少しの間だけ、声を殺して涙を落した。


***


「はぁ...(出遅れちまったな...)」


ムカツクが、仕方ねェ...朔夜は、俺の前じゃ、俺や周りのためには泣いても、自分自身のために泣いちゃくれねェから

――縁側沿いの障子で仕切られた一室の中で、ここんとこやっぱいつもより元気のない朔夜のとこに来た俺は

襖に凭れかかって座り込み、真横の障子越しの会話を全部聞く羽目になっていた。

朔夜があのマヨラーに絆されて泣いたのは滅茶苦茶悔しいけどよ、正直泣いてくれた事に安心してんだよな...


「(アイツ限界きても一人で処理するからな...でもやっぱ腹立つなァ...アイツをいつも一番近くで護って、支えられてきたのは俺だったのに...)」

「旦那、良いんですかィ?」

「...沖田君か...何がだよ?」


嫉妬でどうにかなりそうな自身を押さえつけるように額押さえて俯いてりゃ、いつの間に来たのか隣に沖田君が立っていて

こそこそと話しかけてきた。


「マヨラーと朔夜さん二人っきりって状況目の前にして、旦那が平気たァ驚きましたねィ」


てっきり邪魔に入るかと思ってやした。

そんなこと言ってくる沖田君をちらりとだけ見て、また息を吐きだして俯く。


「今の俺の顔が平気ってツラに見えたかっての...」

「いや、今にも嫉妬でどうにかなりそうな男の顔でィ...でも行かないんですねェ」

「...一番近いからこそ行けねーんだよ...」


互いの感情が、大体ならわかるくれェに近いから。互いを知りすぎてるから。


「そりゃまたなんで?」

「...お子様にゃわからねー話ですぅ。ほら、向こう行けって」

「...まぁ、良いですけどねィ。精々頑張ってくだせェ旦那ァ」


そして食えねー沖田君は部屋を出ていった。

俺はその背を見送ると、再び、障子向こうに意識をやりながら、朔夜の声を殺したすすり泣きが止むのを待った。


「(朔夜...)」


お前が他の男の腕の中で泣いてる方が、俺は泣きたくなるっての...

そう思いながら頭を掻いて、「もう大丈夫だから」という障子越しの朔夜の声を聞いて、偶然を装い障子を開けた。


***


そんな日から数日後――小生は銀時と墓場に来てた。

ぱしゃぁ


「ちょっと銀時、お供え物の酒とお菓子いじらないでよ。どうせ持って帰って食べるんだから」

「流石に空気読むって。我慢するって」

「なら涎たらさないでよー」


『常盤家之墓』と書かれた大層立派な墓に水をかけつつ、笑いながらそんな変わらない軽口をたたき合う。

墓場とは思えない会話だが、これでいいと思う。

湿っぽいのは好きじゃないし。

そう思いながら桶と柄杓を置き、二人で並んで墓の前に立つ。


「ふぅ...」

「流石名家の墓だな...立派なもんだぜ」

「本当にねェ...墓まで格差社会だよ」

「え、じゃぁ俺達の墓ってどうなんだろうな」

「んー金銭的にその辺の石っころ積み上げとく感じじゃない?」

「切ねェよ!泣きそう!!」

「小生も自分で言ってて悲しくなってきた」


バカみたいだけど、その中の感情を長年の付き合いで互いにくみ取りながら会話を繰り返し重ねてから、俯いて問う。


「...ねェ銀時...」

「あ?なんだよ」

「小生は、ずっと銀時と家族だよね...」


小生は、これからも今までも銀時と家族だよね。

ぎゅっと銀時の着物を握り問えば、頭をわしわしと撫でられた。


「...あたりめーだろ...それに家族じゃないとしても、俺はお前とずっと一緒だって約束したじゃねーか」


言葉じゃ語れねェ関係の俺達は、どっちも互いがいりゃ死ぬまで一人じゃねーだろ。

そんな銀時のぶっきらぼうでも優しい言葉に、暖かく穏やかな気持ちになり、こくりと頷いた。

そして、新調した采配を取り出して組み立て、下駄と足袋を脱ぎ雪が積もった地面に足をつけた。

しゃりっという音と共に雪を踏みしめれば、刺すような冷たさが足の裏に伝わってくる。


「...足、平気か?」

「ん、平気」


後ろの銀時の気づかう言葉に振りかえることなく短く返し、小生は少しだけ微笑んで

頭にあるスローテンポなメロディを小さく口ずさみながら、

近しい誰かが死ぬたびに、何度も繰り返してきた葬送の舞を舞うために、身体をゆっくりと動かした。


「(母上様、最期に会えてよかった...それから父上様...小生は、一度でも貴方に見てもらいたかったです)」


頑張って勉強して父上様の役に立てれば、小生を見てもらえると信じていた。

だから小生はあの日、自分の知識を総動員してカラクリを作ったのですよ...

貴方を蹴落とすのではなく、貴方に振り向いてもらうために。

最早、この真意を伝える術はないけれど

きっと、それでよかったのだ――


***


「...ふぅ...」


舞を踊りきり、雪が溶け足についた水滴を拭こうとすれば、銀時が小生の脱いでいた下駄と足袋を片手にひっ掴んで、別の腕で小生を抱き上げた。


「おや、ありがとう」

「いや、足真っ赤にしてっからな...それよりよォ、朔夜」

「なんだい?」

「...あの生き残った暦って野郎は、お前の害になんのか...?(なるんなら俺は...)」

「どうだろう...でも、小生を憎んでるのは間違いないからね...」


次戦う時は、頭の中に詰まったものを、本気で取りにくるだろうよ。

ポツリと返せば、そうか、と短く言った銀時の綺麗な赤い目が、少しだけ修羅の色を宿したのが見え、頬にそっと触れた。


「――銀時は今の銀時のままでいて」

「!」

「暦といずれ決着をつけなきゃいけないのは、小生自身だから」


銀時がそんな目をしないで。

にっこりと笑っていえば、銀時は仕方なさそうに息を吐いた。


「...わーったよ。出来る限りな」

「ありがと。まぁまだ先だろうから平気さ」

「そーかよ...」

「うん...」


その時だった。


「朔夜さーん!銀さーん!」

「「!」」


少し遠い墓場の入口に、最近どうにも小生が心配らしく、ぴったりとくっついてきていて、小生達を呼んでいる空覇の姿と万事屋と真選組の姿が見えた。


「マミー達遅いアルヨ〜!もう夕方ネッ!」

「予想外の大所帯だねッ!?」

「なんでここ来てんだおめーらまでッ!」

「結局朔夜さんが心配で集まってきちゃったんですよ!」

「お前みてーな頭ふわっふわな野郎にまかせてられるか」

「ま、成り行きですかねィ」

「朔夜さんはまだ本調子ではないだろうし心配でな!」


そう口々に聞こえる皆の温かく優しい言葉に、心がほっこりとして、癒される。

そして何より、ちゃんと小生はここに生きてるんだなと思える。

こんなに沢山の人が、思ってもらえていたことも、全てが幸せすぎるから。


「(あぁ、やっぱり皆のいる世界こそが、愛しいな...)」


心地がいいこの場所に、ずっといたい。

今度こそ失わないよう、護り抜きたい。


「(小生は酷く弱いだけど...自分の大切なものだけは、二度とこの掌から取りこぼさない)」


ようやく、また小生が護りたいと思うものなんだから...

そう心に決めて、小生は小生を抱き上げたままの銀時と、顔を見合わせると、

お互い口の端を上げて、皆には見えないように小さく笑った。


「(絶対護ろうね、今生きてる場所を)」

「(ま、仕方ねーからな...お前を護るついでだしぃ)」

「(ふふっ、素直じゃないなぁ)...よし、皆迎えに来てくれたし帰ろうか銀時!」

「おう、なんかうまいもんでも食って帰るか朔夜。屋台のラーメンとか」

「!...ぷっ、あはは!いーねそれ」


そして小生達は、墓地の入口で待っている、温かい皆のところに帰るのだった。

その際、銀時の腕に抱えられたまま、肩越しに見える墓を一度だけ振りかえった。


「(...母上様、貴女の願いも叶えますから)」


『――先の未来でも貴女がずっと笑っていられることを願っています』


昨晩読んだ、渡された手紙の最後の一文を思い出し、少しだけ微笑んでから顔を待っている皆の方へと向け、笑って手を振った。


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