第五訓 喧嘩両成敗なんて言葉があるけど、結局先に殴った方が怒られるよね
快晴の江戸の空の下、銀髪の男と黒髪の女がヘルメットをかぶり屋根を直していた。
「銀時、そっちを頼む」
「おー...ていうか何だ、おめー今日もバイトか?」
「あぁ、これは日雇いのバイトだがね。金銭を稼ぐのは大変なのだよ」
「んなこたぁ俺も知ってるよ。じゃなくてだな、バイトばっかしてるくせになんでそんなに金欠なんだよ」
「いくら単細胞といえ、小生の高尚な趣味を忘れた訳ではないだろう、銀時?」
「てめっ...誰が単細胞だコノヤロー。つーか、まだあのイカレた実験シリーズ止めてなかったの?!やめろって言ったじゃん!あんだけ言ったじゃん!」
朔夜の言葉に過去の自主規制が入るような出来事を思い出し、顔を青ざめる銀時。
「む、イカレた実験シリーズとは失敬な。まぁ、凡人共に、天才の小生の素晴らしい発明などだれも理解できないだろうから仕方ないことかもしれないがね」
「安心しろ。死の危険が付きまとう代物だっつーことはバカでも分かるから。俺らが体験して一番わかってるから。そんなことばっかしてるから友達少ねーんだよ」
「ふん、そんな後ろ向きな解釈しかできないのが単細胞たる所以だな。輝かしい未来のためには犠牲もやむなしと言うだろう!」
「...え、ワザとか?あれ失敗作じゃなくてワザとだったのか?」
屋根を直す手を止め、冷や汗を流して朔夜を見る。
「ふふん、小生の辞書に失敗なんて文字はない。馬鹿だね。良いデータを取らせてもらったよ」
「!!っコノヤロー!テメーなんかもうしらねーよ!!」
「小生とて卿のような天パと友達になりたいと思ったことはない!」
「んだとコラァ!!誰があの時誘ってやったと思ってんだァァ!!」
「誰が誘ってと頼んだんだい!」
「うるせェェェ!!仕事しろやテメェらァァァァ!!」
「「ウルセー(煩い)のはテメェ(貴様)だハゲがァァァァ!!」」
***
不毛なやり取りを終えると、二人は何事もなかったかのように仕事に戻った。
それから数十分後…
「あー...甘いもん食いてー」
「だったら、黙って仕事をしたらどうだろうね...あぁ、銀時後ろに...!」
「ん?あ...やべーな。おーい、兄ちゃん危ないよ」
「ローテンションで言うことかい?」
ガシャンッ
銀時の落した資材が下を歩いていた男の前に落ちた。
「まじぃなー...朔夜、俺ちょっと取りに行ってくるわ」
「早く戻ってきてくれよ?小生の仕事が増えるのでね」
「おー」
***
銀時が親方に呼ばれて下から戻ってきた。
朔夜は手を休めず声をかけた。
「ずいぶん下が騒がしかったが...誰か知り合いが?」
「あー大串君がいた」
「あの金魚の大串君かい?懐かしいねェ」
「だろー?」
テンションの低い会話をしていると親方が横やりを入れてきた。
「おい、おめェら話してる暇があんなら、金槌をもっと魂こめてうちやがれ」
「おめーの頭にだったら、魂こめてうちこんでやるよ。ハゲ」
「右に同じだね。まったく...小生ともあろうものが、大人しく使われてやっているのに...」
「お前何様?...コノヤロー、人材不足じゃなったらてめーらなんて、使わねーのによォ...そこちゃんとやっとけよ」
「おめーもな、ハゲ」
「誰に物を言っているんだい」
「お前ホント何様?」
軽口を叩いてまた作業に戻ろうとすると、銀時の後ろから誰か昇ってきた。
朔夜は、そちらを見ると驚いた顔をした。
「!」
「?おい、朔夜どうし「爆弾処理の次は屋根の修理か?節操のねェ野郎だ...一体何がしてーんだ、てめェは。それに朔夜、何でおめーがそいつといんだよ?」
「小生はただバイトが一緒になって...というよりトシがここにいる方がおかしいと思うんだが...」
「あ?俺は近藤さんをやった、そこの男を斬りに来たんだよ」
「銀時を?しかしトシ、アレはだね...」
「ちょーっと待て、朔夜。何?大串君と会ってんの?しかもなんか親しげだし!!」
銀時が二人の会話に割って入る。
「大串君?あの男は金魚の大串君ではないよ?似てるけど。彼は土方十四朗だが...卿も前会ってるはずだけれどね?」
「大串君って実在の人物かよっ!?」
「あ?いつだよ。俺はあんな顔、大串君しか知らねーよ?」
「無視かコラァ!!しかもあんな顔って何だァァ!!」
「ほら、爆弾の時の...」
完全に土方の突っ込みをスルーして銀時の記憶を呼び起こす朔夜。
「爆弾!?あ...お前あん時の、俺が朔夜に囮にされたとき見事引っかかった奴か」
「え、あれトシがかかったのか。やはり小生の天才ぶりには誰も敵わないということか...」
「うるせェェェ!!どーでもいいんだよそんなこたァよ!
とにかくだ、あれ以来どうにもお前のことがひっかかってた」
「...はぁ...目をつけられたな」
「マジか」
「何ボソボソ言ってやがる!」
疲れたような声で朔夜は、銀時に小声で耳打ちする。
それを見て、土方は先ほどより鋭い目で二人を見る。
そして因縁をつけられた銀時は刀を投げ渡され、土方と戦うこととなった。
***
「...屋根が壊れたか...仕事が増えるな」
土方と銀時が戦闘で吹っ飛んだことによって壊された屋根の部分を見て呟き、
次に肩を斬られ、ハゲ親方に警察呼べ!と叫ぶ銀時と
米神あたりを蹴られたが起き上がり、俺が警察だ、と言う土方を見る。
「銀時、また厄介な問題を...卿は絶対疫病神だよ」
「おーい失礼なことばっか言ってんじゃねェーよ。だいたいお前が、ゴリラになんか優しくするからだろーが。
得体のしれないゴリラに優しくしちゃいけません、って習わなかったのかー?」
「習ってない。だいたい得体のしれないゴリラって何?ゴリラって時点ですでに得体が知れてるだろう」
「アレだよ。なんかアレ...アレだよほら」
「分かった。卿の頭がクルクルなのはよく分かったから...無理するな」
「あれ?何だか銀さんの目から水が出てて来たよ?」
言葉を遮り、朔夜は憐れみを含めた目で立ち上がった銀時に辛辣な言葉を返す。
その辛辣さに思わず銀時は目頭を押さえた。
「つーかお前ら、俺を無視すんじゃねェェェェェ!!!」
「あ...トシがキレたな。銀時、卿のせいだぞ。がんばれ」
「オイィィィ!!丸投げかァァ!!」
「当り前だろう?卿がまいた種だ、小生が戦う理由はないはずだが?」
「いやいやいや!絶対お前のせいもあるからね?!」
「む。ふざけるな、小生には全く非は...」
「いい加減真面目にやれ!!」
「...(台詞被せられた)」
台詞を被せられたことに膨れて口を閉ざした朔夜は、ついに傍観者に回ることに決めたらしく二人から距離をとった。
「やれやれ、サッサと決着をつけてくれよ?小生たちのバイト代がパァになる」
斬られた肩をタオルで止血しながら立つ銀時に朔夜は、呆れたといった表情でそう言った。
「ったく...わーってるよ、朔夜」
銀時は、仕方ないといった風に言葉を返すと刀の柄に手を掛け、
シャン、と音をたて引き抜いた。
それを見て土方は笑みを浮かべ、刀を構えて斬り込んでいった。
「うらァァァァ!!」
ザウッ
「(斬った!!)」
斬った手応えを感じた土方だったが、斬っていたのは銀時ではなく
銀時が肩にあてていたタオルであった。
「(なに!?)」
土方は、目を見開いて、自分の横に現れた気配に目を向けた。
「!!(かわされた、斬られ…)」
ザゥン
刀が振り下ろされる音が響く。
カラン
そして、銀時によって真っ二つになった土方の刀の刀身が
空しく音を立て屋根の上に転がった。
「はァい、終了ォ」
冷や汗を一筋流し、目を見開く土方をそのままに気の抜ける言葉を吐いた。
「いだだ、おいハゲェェ!!俺ちょっと病院行ってくるわ!!朔夜あと任せたぞ」
「仕方ない。任されてあげるよ」
「待てェ!!」
背を向けた銀時に土方が声をかける。
「・・・てめェ、情けでもかけたつもりか」
「情けだァ?そんなもんお前にかける位なら、ご飯にかけるわ。喧嘩ってのはよォ、何か護るためにやるもんだろうが。
お前が真選組を守護ろうとしたようによ」
「...護るって...お前は何を護ったってんだ?」
「俺の武士道(ル−ル)だ。――じゃーな」
そして銀時は、肩を押さえながら姿を消した。
残された土方は煙草をくわえ、屋根の上にごろんと寝転がった。
「...ワリぃ、近藤さん。俺も負けちまったよ」
「...ところでトシ」
「?なんだよ」
寝転んだ土方を上から覗き込むような姿勢で、朔夜は異常に爽やかな笑みを浮かべた。
「己らが壊した屋根の修理を手伝いたまえ」
「…おう」
土方は、朔夜の笑顔の威圧感に嫌な汗を流した。
***
トンテンカン
青い空の下で、再び金槌が打つ音が響く。
「ったく、何でおれがこんなこと...」
「卿が喧嘩を売ったからだ。まったくなぜ銀時に...(面倒事が増えるだろう)」
「...朔夜、お前やけにあのヤローの肩を持ってねぇか?」
機嫌悪そうに土方が朔夜に問いかけた。
「そうだろうか?だとしたらそれは多分、彼が初めての(同年代の)男(友達)だからだろうね」
「え、・・・はァァァ!?初めてって朔夜お前、あいつと寝たのか!?」
ポロッと口にくわえていた煙草を落として、驚愕の表情を、隣で金槌を打つ朔夜に向ける。
「?...まぁ、(子供のころ)何度かあるね。今はないけれど」
「そ、そうか...(あのヤロォォォいつかぜってーぶっ殺す!!!)」
「?何をそんなに動揺して、殺気立っているのかな?」
土方のおかしな様子に、いぶかしげな視線を寄こす。
土方はその視線から目を反らすと、ガンガンと金槌を瓦に打ち付け始めた。
「べ、別に何でもねェよ!」
「そう?ならいいんだけれど…って、力入れすぎだ!」
「うおっ!?」
朔夜が土方の手にふれて、止めようとしたところ、手元が狂い、金槌が振り下ろされた部分が、バキャッ、という音と共に抜けた。
「「…」」
「・・・トシ、どうしてくれるのかな」
「…女中のバイト料上げとくぜ…」
「仕方な…」
「おーい、朔夜さん…って、何してんのォォォ!!?何その穴ァァ!?ふざけてんのか!!」
朔夜と土方の足元にある穴を見て声を上げる親方。
「不慮の事故さ。小生は悪くないよ、ハゲ...あ」
「なに、あー言っちゃった、って顔してんだァァァ!!お前と銀さんクビ!もういいから!!」
「じゃぁバイト代を...」
「やるわけねーだろ!」
「...何!?」
「お前ら仕事増やしただけじゃねーか!!」
「何を!?大人しくこの小生が凡人に使われてやったというのに!!」
「仕事増やしといて何でそんな偉そう!?」
「とにかく給料を!」
「やらねーから、そこの男連れてもう帰れェェ!!」
「ぐぬぬ...末代まで祟ってやる...。行こう、トシ」
恨めしげな眼でおどろおどろしい声を出すと、朔夜は土方の手引いて屋根から下り、用と歩きだした。
「おいお前、手を...!」
「トシが給料をダメにしたんだからな、何か奢れ」
「分かったから手ェ離せ!」
その後、土方の財布が寒々としたことは言うまでもない。
〜Next〜
prev next