Scorpio
愛の証を渡した夜から、彼は姿を見せなくなった。
少し、不安だった。
だけれど、彼の言ってくれた愛を信じていた。
だから、仲間からカーズに鉱石を渡したことを「お前は純心すぎる」と咎められても、強く首を横にふれた。
彼はきっと、分かってくれる。
私を愛してくれているなら、大丈夫。
なにも恐ろしくなんてないはずだわ。
浮かぶ嫌な疑念を振り払うように頭を振り、真夜中の勤めを終えて滝のそばの集落へ足を向ける。
そうしたら、星を映した深い滝壺に、ひとつ光が疾るのが見え、続くように降り注ぐ流星群。
「!」
おかしいわ、今日は流星群なんて降る日じゃない。
思わず呼吸を忘れ、ゆらぐ滝壺を見つめる。
前兆がない流星群は、凶事の報せだ。
"滅びる"
"村に戻ってはいけない"
"逃げないと。見つかってしまうよ、彼に"
「彼…?一体なにが起こっているの?!」
囁くような星の声に、思わず大きな声を出した時、木々を抜ける夜風と共に、鼻をかすめる鉄臭い匂い。
えづくほど濃い匂いに、思わず鼻と口を覆う。
嫌な匂いは、私の集落の方から風に運ばれてきた。
その事実に、弾かれたように集落へ走り出す。
「(嘘だと言って、なにごともないと言って)」
私たちは本来、何者からも傷つけられることのない一族のはずなのだから。
願う心を裏切るように、星の声が背中から追いかけてくる。
"あとはもう、君1人"
***
見慣れた集落が見えてきて、足を止める。
集落の入り口に、血を浴びた姿で立つ人がいたから。
「か、カーズ…!?」
「ミュール…そろそろ帰ってくる時間だと思っていたぞ」
待っていた、目を細め笑いかけてくる彼の頬についた血の中に混じる、光を失った青髪は
間違いなく私たちの種族のもので、どうして、という言葉が涙より早く口からこぼれた。
to be continue…