Aries

星空は、地球から見たらどこまでも天高く、遠い。

あの上も下も右も左もない場所で

今日も一つ星が消えたり、産まれたり

流れたりしている。

人の肉眼に映るのは、何百、何千光年先のことかも知れないけれど

それでも宇宙は日々、形を変えている。

短く、しかし波のように浮き沈みする運命を

誰かに伝えるために。

私たちは、私は、そのメッセージの受け取るために、星が綺麗な日にそれぞれ一人で星を眺める。

そうしていたら、いつしか私たちは、

隕石と共に降りたった水と空気と緑に満ちた星の言葉で

『賢者』と呼ばれるようになっていた。


「(今日の星空はとても穏やか…でも穏やかすぎて、とても…)!」


観入りすぎていて、気づかなかった。

真後ろに立ち、私を見下ろす赤い瞳。

すごく大柄で、うねる長い髪の人型の男性。


「その髪と瞳…人間ではないな…」

「そういう…貴方こそ」

「話に聞く、星詠みの賢者の一族か」

「貴方は…そう、その赤い瞳…地底の民ね」

「…賢者はどの程度のエネルギーを持っているのか興味がある」

「やめておくべき…私たちは人間と似ている。けれど非なる生き物だから…貴方の体に合うかわからない」


無駄な危険を、犯すべきじゃあないわ。

そう彼に通達をすれば、彼は少し考えたあと「それもそうだ」と納得した様子で、私の隣に来て星を見上げた。


「お前たちは…あの空の向こうにある、星々の語る声が聞こえるそうだな」

「ええ……あの空の向こうに広がる世界が、私達一族の故郷だから」

「なにを話している」

「色々よ。日や時間、季節によって話す星も違う…興味があるの?」

「ああ。私には聞こえないからな」

「…そう……」


不思議な生物だ。

危険な生物だと聞かされていたけれど、それ以上に奇妙な生物。

自然を愛でる心、探究心、というものだろうか。

そういうものに満ちた瞳からは、危険さは感じない。

むしろ、とても……とても、美しい生物のように思えた。


「…地底の民、貴方の名前は?」

「カーズだ。お前の名はなんだ、星詠みよ」

「私は…ミュールよ」

「ミュールか…」


目を細めて名を静かに呼ばれた瞬間、少しだけ胸が苦しくなるのを感じた。

まるで、いけないことをしているような、そんな感覚。

苦しさに押されるまま、自分が吐き出す言葉を止めることはできなかった。


「カーズ…星の綺麗な夜、私はここにいるわ……星々の話を知りたければ、また教えてあげる」


それだけを伝え、丘の草を揺らす夜風に押されるように、私はそこから駆け下りた。

その日から私の星見は、一人ではなくなった。


to be continue…