「母さま、お手紙です!」
「まあ…ありがとう。いい子ね」
ジョースター家から我が家に戻り、クリストフ様を婿に迎え入れてから7年の月日が経った。
それは長い月日であったのかもしれないが、私には短く感じられるものでもあった。
2人の子供に恵まれた私は、とても幸せで、とても豊かな人生を送っているということなんだろう。
「ジョースター様たちからかい?」
「ええ、そうみたい…前回の手紙ではジョージ様がお風邪をお引きになされた旨の報せだったし、全快した報せならいいのだけれど…」
クリストフに答えながら、手紙を開けて読みすすめていくとすぐには理解できないような内容で、衝撃が私を襲う。
取り落とした手紙がぱさりと床に着地するのを見つめたまま、呼吸を震わせた。
「ミシェル…?一体なにが書いて…
「ジョースター家が焼失して………ジョージ様とディオ坊っちゃまが、亡くなったと……」
こみ上げていたものが、言葉とともに溢れ、こぼれ落ちてゆく。
私を必要としてくれた方々の突然の死に、呆然とすることしかできず、クリストフが抱きしめてくれても、抱き返そうとしても手が動かない。
「…私より先に逝ってしまわれるなんて…なんてことでしょう…」
「…ミシェル、一度ジョナサン様のところに行っておいで」
「!…ですが、あなた…」
はっとして見上げれば、まっすぐな琥珀色の優しい瞳。
「家と子供たちのことは任せて、お行き。君は行くべきだ」
「……ありがとう、あなた。できるだけ早く帰りますわ」
「ああ、いつまでも待っているよ」
そして一度だけ強く抱きしめあってから、私は子供たちの頭を撫で、簡単な旅支度をして、急くように旅立った。
***
馬車を降り、坊っちゃまが入院している病院へ急ぐ。
深夜だが、入れてもらえるだろうかと思いながら入り口にくれば中から出てくる杖をついた顔に傷のある若い男性。
病院に入院している方なら、ジョジョ坊っちゃまのことを知っているかもしれない。
「もし!そこの方!」
「なんだぁ?あんた」
「貴方、ジョジョ坊っちゃま…いえ、ジョナサン・ジョースター様をご存知ありませんか?」
「!ジョースターさんだって?!」
「!貴方…ジョナサン様とお知り合いなのですか?」
まさか知り合いだとはおもわず目を丸くすれば、目の前の彼は、警戒するかのように目を細めた。
「…答えてやる前にあんたどこの誰だい?ジョースターさんになんの用だ…?」
「!…申し遅れました。私はジョナサン・ジョースター様とディオ・ブランドー様の家庭教師をしておりました…ミシェル・ブラウンと申します。
この度、ジョージ様とディオ様、そしてジョナサン様の事故の悲報を受け、参上した次第にございます」
ドレスの端を持ち上げ、深々とお辞儀をすれば、少しの間のあと、頭をあげてくれと慌てた声。
「(貧民だと一目でわかるだろう俺に対しても、なんて凛とした女だ…ジョースターさんを紳士にした家庭教師…納得行くぜッ)
ならミシェル先生か…俺は、ロバート・E・O・スピードワゴンですぜ。おせっかい焼きのスピードワゴン!」
「まあ…スピードワゴン様ですね。よろしくお願いします。ところでジョナサン様は…?」
「!ジョースターさんは今、面会謝絶中で会えやせんぜ」
「そんなにお悪いんですか?!」
「それもありやすが…今エリナって娘が看病してやして…」
「!…なるほど、エリナ様が……それならば今お会いしにいくのは無粋ですわね。また時間を改めますわ」
エリナ様とジョジョ坊っちゃま、若い二人を邪魔するような年寄りにはなりたくないし
ジョジョ坊っちゃまが生きていてくださるのなら、それでいい。
「……ところでスピードワゴン様」
「様なんてつけなくていいですぜ?なんかむず痒いもんで」
「…なら、ロバートさんとお呼びいたしますわね」
「ロバートですかい!?」
「はい、ロバートさん」
ふんわりと笑うと、若い彼は少しだけ言葉を詰まらせて帽子のツバを下げた。
照れているのかしら?かわいい方ね、ジョジョ坊っちゃまのご友人は。
不安だらけだった気持ちが少しだけなごむのを感じながら、もう一つ聞かなければと彼に問いかけた。
「…ロバートさん…ジョージ様とDIO坊っちゃまは、本当にお亡くなりに?」
嘘であってほしかった真実。
でも、いいあぐねていた様子のロバートさんからかえってきた答えは、やっぱり手紙の通りで
そうですか、と答える声が、少しだけ震えた。
to be continue…