愛を知る吸血鬼は、薔薇の生気だけで生きていけるという。
娘の血を飲み干した後、彼女はまさにそれであった。
その分、吸血鬼としての力はディオより劣っていたように思うが
それでも憧れた、若返った美しさは劣りはしていなかった。
この私の心を掴み動かす程に、彼女は神性を纏っているような美しさを持っていた。
彼女は多くを失ったが、変わりにさずけられた永久の命と若さは十二分に価値があるように思えた。
だから、内心では理解出来なかった。
女神さながらの存在にもなったというのに、人などに戻りたがる彼女の心理が。
「...そんなにも、貴女が人に戻る必要があるのか私はわからなくなる。Ms.ミシェル」
「...?何を言うんですか、ストレイツォさん」
「...私には今の貴女も化物には見えないということだ」
そもそもに彼女は、この星が進化を望んだ時、それを助けるために銀河の向こうより現れた異星の民とされる血脈の子孫。
本人にもそれは少なからず、もしくは我々以上に過去の叡智と共に伝えられてきているはずで、本来から彼女は、人間なのかも怪しい生命体なのだ。
それは言葉にはしなかったが、彼女には伝わったのか、緩く笑った。
「...確かに人間に戻ることに執着するのは愚かなのかもしれません。私は血を多く吸わずとも、薔薇でも永遠を生きていける。ですが、私は戻らなくてはいけないのです」
「...何故?」
「...私もまた、この星に根付いた生き物だからですわ。形あるものは、皆いずれは壊れるのがこの世界の摂理。私達は確かに壊れるのが早く、それは悲しく恐ろしいこと...
ですが、壊れるという定理...その恐怖を無くした規格外の生物の叫ぶ言葉や、培ってきた叡智が、壊れる恐怖を持ち続ける人達の胸に響くと思いますか?」
誰かに響かなければ、何か伝え残さなければ、私達の生に意味は無い。
「...貴女を愛する者が泣いてもか」
「...私を愛してくださった方は皆、悲しみを受容できる強さを持っていると信じています...勿論、貴方も」
彼女の言葉や瞳は見た目と同じく美しく、教育者としての血の誇りがあった。
...だがやはり、このストレイツォには、壊れる恐怖を受容し、享受する心に同意はできなかった。
***
大橋の上まで逃げてきて、ようやく私達は息をついた。
しかし、すぐに知らない女性を人質にして、橋の上に奴は現れた。
逃げ出そうとするスモーキーの襟首を掴み、落ち着きなさいと一喝すると同時にお祖母様はストレイツォ、と名を呼んだ。
「...ロバートでは飽き足らず、その女性を一体どうなさる気ですか...!?」
「...ミシェル...弱体化しているとはいえ、ここまで私を追ってこれたか。流石は私が認めた女...」
「私の質問に答えるのです、ストレイツォ!」
「ミシェル先生の言う通りだ!なんだその女はッ!?」
「この女は人質!お前達が逃げればこの女は殺す!だがここまで登ってくれば女は離す!」
その言葉にひとつの仮定が立ち、思わず唇を噛む。
乗れば奴の思うつぼだが、どうしたものか。
「ど、どういうことだ...?わかるかい?ミカエルさん...」
「...ええ。何がしたいかは読めてきました...が、ストレイツォ!私共は英国の紳士といえど、知りもしない女性のためにいきなり命を差し出すわけにはいきませんね」
「そうだぜ!なに考えてんだオメーッ!俺はそんな女知らねーぜ!無関係の女なんか人質に取るんじゃねーぜ!このタコッ!」
「そ、そのとおりだね!逃げようジョジョ!ミカエルさん!それにえっと、ミシェルさんも!」
スモーキーの判断は自分に正直で、正しいものだ。
しかし私達3人は各々の血、いや、魂に刻まれているんだろう性の前に、やはりそのスモーキーの選択に足を動かすことができなかった。
to be continue...