レースのカーテンが大きく煽られる。
鉄臭い匂いを吹き消すように、開けられた窓から夜風が吹き込んでくる。
べたつく口周り。
赤く汚れたナイトドレス。
両手の中には、血の一滴もかよっていないような青白い細い腕。
私は、なんてことを。
は、と小さく息を吐きだし、瞳からしずくをこぼした。
刹那、娘の名を呼ぶクリストフの声とともに横に思い切り、身体を突き飛ばされる。
「(ああ…もう、だめなのね)」
床に倒れ伏しながら、娘の遺体を泣きながら抱きしめて私から引き離した彼に、私はただ、それだけを確信した。
***
イタリアのネアポリス。
ようやく見つけだした男に突き返された木箱を見て、ため息をつく。
ミシェル先生に託されたこの中身、渡すべき相手を失った今、どうしたものだろうか。
「まさかあんなに拒否されるとはな…」
ローラさんと同じピンクの瞳をした年を食った男との数分前の会話を思い出しながら、木箱を開け、中身の鏃を見る。
自分の母親の形見でも、奇妙な世界に巻きこまれそうなものは御免だということなんだろうが
なんとも勇気に欠ける男だ。
「(だが懸命とも言えるんだろうな)」
男には家族がいた。
けして裕福とは言えない家庭のようだったが、だからこそ働き手の自分がリスクを背負うわけにはいかないんだろう。
だから、こちらも無理に渡せなかった。
「(仕方ない…ミシェル先生にワケを話して…)」
「スピードワゴンさん!」
「!アルベルト…?どうしてここに…」
名前を呼ばれて振り向けば、そこには波紋の修行を終えてから、大学に入り勉強中のはずのアルベルトが馬車から呼びかけてくる姿が。
「夜中の便でとんできたんです!貴方を呼びに!」
「!まさか…ミシェル先生になにかあったのか…!?」
「詳しい話は飛行機の中でしますから、早くきてください!」
肯定とも否定ともとれない返事と、いつめ冷静なアルベルトのひどく焦った様子に、一大事が起こったのだと察して、馬車に慌てて飛び乗った。
to be continue…