Step.24

お母様が吸血鬼になって帰ってきて、何年も経った。

僕は15になったけれど、お母様はお若い姿のまま。

お母様の見た目は変わってしまったけれど、優しさは変わらない。

お父様と、お母様の友人たちは言った。

お母様を夜しか生きれない吸血鬼にしてしまったのは、ディオという吸血鬼だと。

一緒に陽だまりの落ちる庭で、遊べなくなったのも。

頬を撫でてくれる手が、今は氷のように冷たいのも。

庭のバラ園のバラが、苦しそうなお母様が触ると枯れてしまうのも。

お母様が、死という結末を迎えられなくなったのも。

全部全部、ディオのせいということだ。

ディオなんか嫌いだ。僕が強かったら殺してやりたい。

そう言えば、お母様はなぜか少しだけ眉を下げて、悲しそうにして、僕の頭を撫でた。


「ありがとう、アルベルト…でも、そんな悲しいことを言ってはいけないわ。強くなることは悪いことではないけれど、傷つける為より…誰かの行く道を守る為に、力を得なさい」


自分の命のカンテラに火を灯し、それを高く翳し進むのが我が家の当主だと、お母様は僕に語った。

なら、どうしたらお母様は、人間に戻れるんだろう。

妹のミカは体が弱いから、ミカも守らなくちゃいけない。

あと40年も生きれない僕には、なにもできることはないのかな。

ジョースターさんのおうちを、エリナさんと赤ちゃんたちをずっと守っていけば、お母様もいつか救われるのかな。

だとしたら、僕は…

後ろ髪を結んでる赤いリボンを指先で弄ったら、お父様の声。


「アルベルト、なにを難しい顔をしているんだい?」

「…お父様。僕はね、男らしくなりたいんだ」

「!…珍しいことを言うじゃあないか」

「だってもっと賢く、強くなったら、きっとお母様や妹、それにお母様の守りたいジョースターさんたちの助けにもなれる気がするんだよ」


きっと僕の、未来につながる運命はそれなんだ。

僕も、ブラウン家の血を継いだ男だから。

お母様が僕に唱えた難しい話も気持ちも、きっと本当の強さの意味もわかるだろう。


「お父様、ひとつだけお願いがあるんだ」

「…言って御覧、アルベルト」

「…ストレイツォさんたちの不思議な力…波紋の力は、僕はきっとなにかつながりがあると思うんだ。だから僕に、波紋を学びにいかせてお父様」


きっとこれがお母様から引き継いだ、今の僕の運命だから。

僕のお願いを聞いた老いたお父様は、少しだけ複雑そうに眉をひそませたあと、諦めたように微笑んだ。


「…アルベルト、お前が強く運命に生きることを望むなら私は止めない。だがね、その短く与えられた命の時間は、お前自身のための時間でもある。忘れてはいけないよ」

「忘れないよ、お父様。後悔はしないさ。全ての選択は、僕の意思だもの」


選ばされた訳ではない、未来を切り開くために選んだんだ。

そう言えばお父様は眩しそうに目を細めて「やっぱりお前はミシェルの子だ」と優しい声で呟いた。

その言葉を胸に、僕は未来への希望を持って、ストレイツォさんの元に旅立った。



1部 Phantom Blood 完