一説によれば、人間の一生は神が一つ手を叩くまでの長さしかないと言われている。
「それじゃあミシェル先生、神様は手を叩くのが遅いのかい?」
「ふふ、私たち人間から見たらそうかもしれません。でもこの言葉の意味は神様にとって手を叩くのは私たちと同じ一瞬の感覚で、つまりは一人の人間の一生はその程度。とても短いということなんですよ」
「うう〜ん…僕にはよくわからないな。1日すら長く感じるんだから」
「ジョジョ坊っちゃまが大きくなった時に思い出してくださればいいのです…自分がなにをするのか、なんのために生まれてきたのか…そういうことを考えるようになった時に、思い出してくだされば」
人の時間は、限りなく有限であることを。
そうして教科書を閉じれば、ジョジョ坊っちゃまも教科書を閉じて、大きく伸びをした後、思い出したように話しかけてきた。
「そういえばミシェル先生、今日くるんだよね?新しい家族になるディオ・ブランドーが」
「ええ、そのはずですよ」
「仲良くなれるかなあ?」
「勇気を持って接したら、きっと大丈夫ですよ。家族になるのですから」
言いながら蓄音機を出そうとすれば、彼は大層嫌そうな顔をなされて、思わず苦笑する。
「ジョジョ坊っちゃま、ダンスを嫌がらないでくださいませ。英国貴族の嗜みですよ」
「あー…僕外に遊びに行ってくるよ!ダンスはまた今度にしようよミシェル先生ッ!!」
「あっ!ジョジョ坊っちゃま逃げるのはいけませんよ!!」
「今度ちゃんとやるよーッ!」
止める暇もなく元気よく走り出て行くジョジョ坊っちゃまを見送ることになり、仕方ないと小さく息を吐き出す。
「(今が遊びたい盛りですものね…)」
ジョジョ坊っちゃまは、誇りある気高い精神を培ってくれているが、まだまだ幼く、教えることは山ほどある。
「(マナーもまだ十分というわけではないし…そろそろジョジョ坊っちゃまから、ジョナサン様になる準備をしていただかなくてはならないんですが…)」
そっと窓に近づいて、門から出て行くジョジョ坊っちゃまを見る。
「(……まだのんびりでも、大丈夫ですかね)」
遊ぶのも勉強だと、出しかけた蓄音機をしまい、そばに置いてある天球儀をからりとまわした。
to be continue…