Step.20

「…(ローラさん…)」


崖下で見つけた折れた、ローラさんの木彫りの矢の鏃をひとつだけ持って帰ってきた。

口にも出せないような姿になっていたローラさんの遺体は手厚く葬り、ディオ坊っちゃまの服は、焼いた。

ロバートさんが持ち出していた石仮面は、粉々に砕いた。

そして残したのは、ただ一つ。これだけ。

表面に刻まれた十字架と月桂樹の紋章を眺め、撫でると、ストレイツォ、と呼ばれていた彼が、私の手の上に手を置いた。

そっと目線をあげれば、強い黒の瞳と向き会うことになった。


「…それはあいつの家紋だ、Ms.ブラウン」

「ローラさんの…?」

「十字架は神を、月桂樹は勝利と栄光を表している…遥か昔、ローラの血統が教会に兵役した家柄だった証だ」


家は廃れたようだが、と続けるストレイツォさんの声を聞きながら、もう一度目線を手元に落とす。

そして鋭く尖らせた先端を撫でようとした時、今度は強く捕まれた。


「それ以上は吸血鬼の身体で触るな」

「え…」

「Ms.ブラウン…その木の鏃の中は特殊でな…ローラの波紋が一つ一つに練りこまれておる」


トンペティ師の言葉に、ストレイツォさんが私を止めた意味がわかった。


「…吸血鬼の今の身体にこれの傷がつけば、私は塵になるのですね…ディオ坊っちゃまのように…」

「…流石、理解がお早い」

「なっなんだってーッ!?おいミシェル先生!それは置いていきやしょう!」

「…それはダメですわ、ロバートさん」


私の手から慌てて奪いとろうとするロバートさんの手から逃げるように隠して首を振る。


「…これは彼女の大切な形見…彼女にはイタリアに息子さんがいると聞いています。その方に渡すべきですわ…」


それまでは私が預かっていたいと両の掌で包みこむようにすれば、ロバートさんは何か言いたげな顔をした後、仕方なさそうに頭を掻きながら掌を差し出した。


「…ミシェル先生がどうしても、ってなら…せめてハンカチでくるんだり、箱に入れて持ちやしょうよ。それまでは俺が預かりますよ!」

「まあ……よろしいのですか…?」

「水くさいこと言わんでくださいよ。アンタはジョースターさんの先生だ。だから俺は、アンタの役にも立ちてえ」


真っ直ぐな言葉に、口が自然と綻ぶ。

なんて、紳士的なんだろうか。

私の姿が変わっても、変わらない彼の態度に救われる。

そっと、鏃を彼に差し出す。

彼女の最後の生命エネルギーのこもった、大切な形見を。


「では、お願いいたしますねロバートさん」

「はい!任せてくだせえミシェル先生!」


そうして、私たちはそれぞれの平和へと帰っていった。


to be continue…