ぐっとディオの顔を抑え込んだ手のひらが、やつの目から飛び出した光線のような体液に焼かれ穴が開く。
痛いが、数センチくらいはジョナサン様から照準がずれただろうか。
それならいい。これが何十年も前に定められた私の運命の幕引きならば、悪くはない。
「ローラさん!!!」
貴女のせいではありませんわ、ミシェル様。
一緒に古代の研究をしていた旦那を失った日から、反対した息子とも縁を分かつ事になっても化け物への復讐に囚われていた私が
誰かの代わりになって命を落とせるなら、それはとても気高いことではありませんか。
だからこの終わりを選んだのは、私自身ですわ。
ぐっとさらに強く顔を抑え込めば、射殺したいとばかりに睨んで、首に残っている手をかけてくるディオ。
「このメス豚が…ッ!」
「残念…これでもメス豚で怒るような年齢でもないの…敗者らしく、汚い望みを抱いて消えなさい」
バチリ、と波紋を流し込もうとした瞬間、潰されたたような衝撃音と頭を支えるものを失った喪失感。
口や鼻から血が滝のようにとめどなく溢れだす。
「きゃああああッ!!!!」
頭上から降ってくる遠くなる悲鳴に、首が握りつぶされたと理解する。
離れていく自分の胴体が、視界の隅を掠めたと同時に、そっと意識は閉じていった。
「(あの人、私をちゃんと…待っていてくれてるかしら…)」
***
「あぁ…ローラさん…!…どうして、代わりに…」
暗い暗い闇の中に、ディオ坊っちゃまと一緒落ちていった彼女を思いながら、うずくまり涙を落とす。
彼を導くこと叶わなかった私が、ともに逝くべきだったのに。
どうして彼女を巻き添えにしてしまったんだろう。
同じく涙するジョナサン様の横で、震えが止まらない体。
すると、背中をゆっくりと撫でてくれる手が。
「ミシェル先生…泣かないでくれよ」
「ロバートさん…」
「ローラさんは、死ぬ運命を背負ってたんだ。先生を助けて、死ぬ覚悟をしてたんです」
「!…どうして…」
「…それはわからねえが…先生に命と未来を託して助けたんだ。だから、先生は絶望しないで生きてください」
ジョースターさんも、旦那さんも貴女にはまだいるじゃあないですか。
その言葉に気付かされる。
そして、亡き父から伝えられた言葉も思い出す。
"切り開き、導く立場の私たちが、絶望してはいけない"
髪を束ねる赤いリボンに目をやれば、絶望してしまいそうな私を叱咤しているように鮮やかに映る。
「……そうですわ…私は、ローラさんに生かされた分…生きねばいけませんね…」
そして、ディオ坊っちゃまの分も。
ぽつり、とつぶやいた時、ジョナサン様が心配そうにこちらを見た。
「…でもミシェル先生、これから貴女はどうしますか…?」
「…そうですわね…今の私は人間ですらありませんし…でもとりあえず、クリストフのもとに帰ります。あの人なら、私だとわかるでしょう」
そしてどうするか決めて、人間に戻る方法を探しますわ。
そう言えばジョナサン様は、頷いてくださり、自分たちも全力で力になると言ってくださった。
ロバート様も、説明に立ち会うとまで言ってくださった。
「でも太陽の光は避けてください。灰になってしまいますから」
「…わかりましたわ。気をつけます」
そうして私たちは城をあとにして、崖の下に向かった。
戦いに、完全な決着をつけるために。
to be continue…