「師匠。旦那様は彼に未来を託し、立派に運命を全うなさいましたわ…」
ツェペリさんの亡くなったあの塔のある方角を見て、彼女は決まっていた運命を全うしたと
やってきた彼女とツェペリさんの師匠であるトンペティ師匠に静かに笑った。
何十年も彼に仕えてきた彼女が辛いはずはないのに、強い女性だ。
弓矢を握る手は震えていても、それでも悲しみはおくびも出さない。
切り開こうとするミシェル先生とは逆の、耐え忍ぶ強さを持つ女性だと、そう素直に思った。
するとトンペティ師匠が、ローラさんの肩に手を置いた。
「ローラ、お前は自分の運命を忘れていないだろうな」
「…忘れてはおりません。覚悟しております」
「やはり…星詠みの賢者の血筋と出会ったのだな」
「出会いましたわ。その上で私は、私の運命を受け入れるに値すると思いました」
私は、確実にこの戦いで命を落とすでしょう。
淡々とつづられた言葉に目を見開いてしまう。
「ローラさん!それは貴女も…」
「ジョースター様、これは天に定められた私の運命なのです。私から旦那を永遠に奪った吸血鬼という生物に、復讐心を抱いた私に用意された運命…その道を歩むと決めたのは、私自身の心ですわ」
だから死しても、後悔は無い。
ピンクローズの瞳の奥に固く燃える決意に、僕はもはやなにも言えなかった。
「さあ、ジョースター様。ディオを倒し、ミシェル様を救いにいかねばなりませんわ」
***
私は逃げ出すことに必死で、大切なことをすっかり忘れていた。
「…どうしましょう…ここはどこかしら…?」
薄暗く、カビた匂いのする城内の左右を見渡し、足を止め途方にくれる。
そう、私は大切なことを忘れていたのです。
私が、そういえばひどい方向音痴だったということに。
「……どうしたら出られるのかしら…」
「ミシェル、なにをしているんだ」
「!ディ、ディオ坊っちゃま…!」
背後に現れたディオ坊っちゃまの姿に思わず後ずさろうとすれば腕を掴まれた。
今度は加減されているらしく、痛みを感じない。
「部屋の方で音がしたと思ったら…方向音痴の貴女が城から一人で出られるはずがないだろう」
呆れたような言葉に二の句が告げず、口をつぐむ。
「…大人しくしていろ、ミシェル。次期に決着がつく」
「決着…?」
「ジョジョだ。ジョジョさえいなくなれば俺の邪魔をできる者はいなくなる」
「なっ…!?」
ジョジョ坊っちゃまとやり合うという事実に、私は言葉をなくした。
「そうすればミシェル。貴女の旦那も労もなく始末でき、貴女を我が側におけるだろう」
「ディオ坊っちゃま!?なにを言って…!!」
「王にこそ賢者はふさわしいということだ。さあ行くぞミシェル。このディオが勝利を勝ち取る瞬間を見ていろ」
教え子たちが潰し合おうとしている事実に呆然としている隙に腕を引かれて抱えられ、声をあげる間も無く暗い廊下へ導かれた。
to be continue…