ミシェル先生は…俺の唯一尊敬する師は、俺が死んだとか聞かされて悲しんでいるだろうか。
俺が生きていると知ったら驚くだろう。
だがきっと、なにもかもをしれば喜ぶはずだ。
俺が生きていたことは勿論だろうが、先生の背負った潰えそうな短く儚い花のような命をも救う方法を見つけたのだから。
「貴女への俺からの尊敬と感謝を形にしよう…ミシェル先生…」
***
現れた見覚えのない東洋人の男性に首をかしげる。
知り合いにいたかしら…?
「…ごめんなさい、貴方はどちらの方…?」
「ディオ様の使いのワンチェンと申す者ね…ミシェル様」
「ディオ坊っちゃまの使い…!?」
思わぬ単語に、思わず彼に近づく。
「ディオ坊っちゃまはあの火事で死んだのではないのですか…!?」
「いいえ、生きのびて傷を癒しておられます」
「なんてこと…!どこにおられるのですか?ジョジョ坊っちゃまたちにも言わないと…!!」
「いえ、面会謝絶の状態で…しかしディオ様がどうしても貴女にお会いしたいとのことで…」
「ディオ坊っちゃまが…?」
「ええ、ですからこのワンチェンについてきてもらえませんかねェ?」
少しだけ不穏なものを感じたが、ディオ坊っちゃまへの気持ちが勝ち、戸惑いながら差し出された手を取ろうとすれば
彼と私の間を一陣の強い風が吹き抜け、電気のようなものをまとった矢が近くの木に突き刺さる。
風にたなびく私の髪の中にあった、淡い光がひとつ、強く煌めいた気がした。
「「!」」
「ミシェル様から離れなさい…人から魔に落ちた者の眷属よ」
飛んできた方角を見れば、月明かりの下で矢をつがえ、キリキリと弓の弦を引き絞るローラさんの姿。
「ローラさん…!?」
「ミシェル様、聞きたいことは山ほどあるでしょうが…今はその男からお離れ下さい」
その男は人間ではない。
放たれた言葉に、どうしてここに来たのか、だとか、なんで矢を放ったのだとか、そういう疑問が吹き飛ぶ。
「人間じゃ、ない…?」
「ミシェル様…貴女には伏せておりましたが、貴女の生徒のディオももはや…」
「よけいなことを喋るんじゃないねェーッ!!」
「!きゃあ!?」
「!ミシェル様!!」
出しかけていた手を無理やりワンチェンと名乗った彼に捕まれ、次の瞬間、彼の前に立たせられた。
およそ人の力とは思えない力に拘束された腕が痛む。
ローラさんが引き絞った弓矢をこちらに向けながら悔しげに唇を噛んだのが見えた。
「卑怯な真似を…!!」
「この女はディオ様のもとへ連れて行かせてもらうね!!」
刹那、男に掴まれたままの私の体が宙に浮いた。
いや、そう錯覚してしまうほど、彼は高く素早く飛び上がった。
私の名を呼ぶローラさんがあっという間に夜の闇に消える。
「!な、なに…!?」
人間とは思えない身体能力に、体が硬直していく中、先ほどローラさんが言った「人間ではない」という言葉が思い出された。
いったい私がいない間になにが…あの火事の夜に本当はなにがあったというのでしょうか。
逃げることもできない状況に、私はぐっと私を掴む彼を見る。
「ワンチェン…さん…」
「なんでしょうミシェル様…」
「…貴方は…ディオ坊っちゃまは、いったいなににおなりになったのですか…!?」
「人間なんかよりよほど強い『吸血鬼』ですとも、ミシェル様」
『吸血鬼』
現実を軽々と超えた単語に、私の頭は考えるのをやめたらしく、ふらりと意識が落ちた。
to be continue…