焼き崩れたお屋敷を遠くから眺めてはため息をつく。
戻ってきてからというもの、1人同じことを繰り返している。
「旦那様…ディオ坊っちゃま…」
こんなことをしていても前には進めないことは分かっていても、やはり悲しみは消えない。
「……どうして…」
「もし、そこのご婦人様。貴女、ミシェル・ブラウン様ですね」
すこし異国なまりの混じった英語に振り返れば、ハウスメイドの服に身を包んだ女性が大きなトランクを手に立っていた。
と、同時に柔らかな風が私と彼女の間を通り抜け、彼女の長いクリーム色の三つ編みと、私の髪をゆらした。
「そ、そうですが…貴女は…?」
「ああ、申し遅れました。私はローラ・ベルニと申します…とある家の料理番をしているものですわ」
ちょんとスカートの端を持ち上げて軽やかにお辞儀をする彼女からは、まるで舞台役者のような軽やかな明るさと強かさを感じた。
「どうしてその料理番の方が私の名を…?」
「それは…」
「ローラ!来なさい!」
「!」
「あら…旦那様」
いつの間に現れたのか、石塀の上には1人のシルクハットの殿方がいた。
「彼はこちらだ。早く行かなければ見失ってしまうじゃないか。それからサンドウィッチと胡椒はどこかね」
「サンドウィッチはこちらになりますわ旦那様。では失礼いたしますミシェル様」
「え、あ、はい…」
とっととなにごともなかったかのように背を向け走っていく二人組に目を丸くしたまま立ち尽くしているとロバートさんが歩いてきた。
「ミシェル先生ーッ!なにしてるんですかい?」
「あ、ロバートさん…なんだか不思議な方たちにお会いしまして……」
「不思議な?大丈夫でしたかい?!」
「は、はい…危ない方々ではなさそうでしたので…」
がっしりと肩を掴まれたことに動揺しつつ頷けば、ロバートさんはひどくほっとしたような顔をした。
「……なら、よかったです」
その声に、瞳に、表情に、ふっとわずかに湧き上がる暖かなものを感じ
いけない、と思うより早く笑顔を作り、言葉を紡いだ。
「ろ、ロバートさん…それよりいきなり既婚者の異性の肩に手を置くのは感心しませんわ」
「えっ、あ、すいません!!つい…!(ジョースターさんの身内の方だちゃんと守らねえとなんねえのに俺ってやつはよーッ!)」
「いえ…相手はおばさんと言えど、気をつけなくちゃあいけませんよ(私は私よりずぅっと若い相手になにを考えて…)」
微笑みを浮かべながら、これ以上高鳴らせてはいけない、と胸のブローチを強く握った。
***
銀河のような髪と、満月を瞳孔に映したような瞳を思い出す。
あれが、星と繋がる所以の姿なのだろうか。
だとするならば、なんて、美しく儚い姿なのかしら。
「旦那様、彼女に言わなくてよろしかったのですか?」
「…彼女の瞳を見て気づかなかったのかね、ローラ」
「…なにも知らない瞳をしていたからこそ、私は真実を告げるべきかと。彼女もまた星詠みの賢者たちの血をその身に宿す、石仮面につながる存在…なにかあってからでは…」
「確かに一理ある。だが、そうならないように彼女を護るのも、君の役目ではなかったかね?」
「……分かりました。これ以上は言いませんわ旦那様」
すこしだけ肩をすくめてから、旦那様の視線の先にいるジョナサン・ジョースター様と、エリナ・ペンドルトン様の姿を見つめた。
「行くぞ、ローラ」
「かしこまりましたわ、旦那様」
to be continue…