血の色Kingは探させない
あの女をいきなりとっちめたりするのは無謀だ。
ボスとなにかしらのつながりがある女ならなおさら。
「(いきなり接触はびっくりしたけれど焦ってはダメ…慎重に行かなきゃ…)」
早足で路地を抜け、追ってこないことを確認しながらイタリアの裏道を行く。
落書きだらけの壁に覆われた、打ち捨てられたらしい教会の庭を抜けようとした時に、響くコール音。
慌てて電話をとれば、愛しいイルの声。
『ストーリア?無事か』
「ええ…全然平気よ…ごめんなさい任務終了の連絡が遅くなって」
『珍しいな、いつもなら飛んで帰ってくるのに…なにかあったか?』
その声に緊張させていた口元をふと緩め、なんでもないと口にしようとした瞬間、後ろからずぶりと背中に沈んでいく衝撃。
呆然としていると、口の端から血が垂れた。
「あら…ずれちゃった」
後ろから聞こえた囁くような女の声に、ほぼ反射的に、取り落としかけた携帯を握り折った。
イルまで関係させてはいけない。私のミスは、私で片付ける。
後ろの女を振り払い向き合えば、予想通り先ほど出会ったばかりの歌手の女。
銀色の髪が街灯の光を受けて、手にした赤に染まったナイフのようにきらめいている。
「今のコールのお相手は恋人かしら?気を緩めたりしちゃって…でもわかるわ、同じ女だもの」
「っ…いきなり突き刺して水差した…あんたのような女と一緒にされたくないわね…」
「あら、私が情も愛もない女みたいな言い方は失礼じゃなくって?……まあでも、その認識は今に限れば間違いではないかもしれないわ」
愛しい恋人に、二度と会えないようにしようっていうんだから。
「でも、おかしな情に流されて、裏切ろうっていう貴女が悪いのよ」
舌をちろりと出して血塗れのナイフを構えなおした女を見て、ぞくりと粟立った肌に防衛本能が働き、スタンドの名を叫んだ。
「『イマジン』!!この廃教会一帯を包囲しなさい!!」
ここでこの女は消さなければ、私が確実に消される。
ボスへの手がかりの人物だとか、そんなこと言ってられないと、本能が理解した。
パラボラアンテナのような自分のスタンドを張り巡らし、目の前の赤いドレスの女を見据える。
「…私のスタンドは、指定範囲から音波、磁波、電波を完全に遮断した孤立空間を作り出す…この声ももう、聞こえてないでしょうけど」
私自身にも聞こえてこないようになった自分の言葉を切り上げ、ハンドマシンガンを構えた。
銃声も悲鳴も届かない世界で、早々に死んでもらう。
イルもきっと私を心配しているし、このままだと失血のしすぎで死ぬことになる。
スタンド使いがナイフに刺されて死亡なんて、情けない。
特にためらいもなく引き金を引いた時、女が笑みを深めたのが見えた。
ハッ、とした時にはもう遅い。
あの女を襲ったはずの、体を数多の弾に貫かれる衝撃が私を襲った。
静寂の中、ぬるりとした感覚と痛みに、形を保てなくなったスタンドが消えていくのと同時に崩れ落ちる。
ナイフはダミー。
彼女もただの酒場の歌手ではなく、スタンド能力者だったらしい。
口から血が溢れる嫌な音、草を分けて近づいてくる足音が、私のスタンドの力が弱くなったことを知らせてくる。
「…うふふ、携帯はまだ使えないみたいだけど…音はきこえるようになったみたいね」
「…貴女……スタンド、能力者…」
「ご名答…貴女は街灯がある場所で戦おうとしたのが間違いだったわ」
すっと、霞む視界のはしから黒いプリンセスドレスに、赤バラで頭を飾ったような姿。
この女から想像するには、やけにメルヘンなスタンドだ。
「…貴女を蜂の巣にし返したのは『ザ・コート・オブ・ザ・クリムゾン・キング』…死にゆく貴女に、私のスタンド名くらいは教えてあげる」
完全に勝ったと言わんばかりに見下ろしてくる嘲笑の瞳に口角を上げ、
隠し持ったキス・オブ・デスを近づいた足に押し付けた。
「!っな…」
「油断は…禁物…」
to be continue…