妄想世界事情 | ナノ


飛び込んだChess Game

そっと夜闇を縫うようにして、ターゲットの背後をつける。


「…いくわよ、『イマジン』」


大型のマシンガンを片手にぶら下げて、囁くようにスタンドを呼びつける。

音を消し去り、電波を消しさり、ありとあらゆる波形を周囲から遮断し、かまえる。

酔いきった馬鹿なターゲットは気づかない。

気づいた時にはきっと天国…いや地獄かしらね?

3…2、1…


「GO!!」


スタンドのおかげで、響くはずのマシンガンの爆音はなく、やつの悲鳴も、私の声も聞こえない。

外界から遮断された、静寂の世界。

手早く仕事のターゲットを蜂の巣にして、その場を去る。

私には他にやることがあるのだから。

ソルベとジェラートの部屋の机の裏側から見つけた、よれたメモを開く。


「…『バー・ダンテ』…」


走り書きの一文。

きっとここに、ボスに近づくなにかがあるんだろう。

顔も知らない我らがボス…私たちが欲しいものをくれないひどいボス。

仲間2人をあんな風に惨殺したボス。

ギャングなら…報復の覚悟はあるはずよね?


「………私でカタをつけてみせるわ」


甘い香水をふりかけて硝煙の匂いを消し、ふらりと、月も届かない闇夜の道に踏み込んだ。

向かうのは先にある、アンティークな扉。

掲げられた店名の下に、消えかかったネオンの一文。

「この門をくぐる者は、一切の希望を捨てよ、ね……なるほど、イイ趣味じゃない…」


神曲の一節を皮肉げに笑って、扉の中に滑り込んだ。

中は案外普通のバーで、数人の客がいた。

奥を見れば、こじんまりとしたステージ。

不審がられない程度に、あたりを見つつカウンターに腰掛ける。


「なににしましょう?お客様」

「そうね…ウイスキーを頂戴」

「わかりました」


すぐに出されたウイスキーに口をつけながら、視線だけを走らせる。


「…あのステージ、誰か歌ったりするの?」

「ええ、週に何度かですが…貴女のように美しい歌い手がね」

「あらそう…それは興味深いわね」

「そろそろ現れるはずですよ」


バーテンの男がそう呟いた瞬間、ぱっとステージに灯りが入る。

カーテンの奥から現れたのは、派手なワインレッドのドレスを身に纏った私と同じくらいの女。

血で染めたような赤と、気位の高そうな目がなんとなく気に触る。

と、同時にかちあって、僅かにいやらしく細められた瞳に、直感した。


「(…ボスの関係者はあの女ね)」


to be continue…

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