賑やかGardenに別れを告げた
香ばしいコーヒーとパンの匂い。
飾られたピンクローズの甘い匂い。
ラウラの店は、安心が詰まった本当に癒しスポット。
私たちみたいな得体が知れない人間にも、親身によくしてくれる優しいシェフさんらしい。
「…マードレに揺り起こされるような優しい味ね」
「また寝れてないんですか?ストーリアさん。ホットミルクの方が…」
「ああ、いいのよ。昨夜は眠っちゃあぶなくって…」
「…また敵ですか?」
「そうなのよ…ずうっと気配がしてて、警戒してたの」
「まあ…今は大丈夫なんです?」
「ええ、陽が高くなったからいなくなったみたい。夜襲をかけるつもりだったのよ、奴らは」
正面からだと勝てないからよ、卑怯だわ。
そう口を尖らせれば、ラウラは本当に安心したような顔で優しく、良かったです、と一言。
…最初はなに考えてるのと思ったけど、今は、この子にメローネや皆が甘くなる気持ちはわからないでもないわ。
けして、馬鹿にしないし否定しない。
いつでも誰にでも真摯。
ちゃんと距離感をつかんでくれる。
それがすごく、私たちみたいなのにはちょうどいい。
コーヒーを口に含んだ途端、耳に届く足音。
身体中に走る緊張感と同時に、ラウラの身体を片手で押し倒して、思い切り床に伏せる。
「ひああっ!?」
「静かにッ!」
「は、はい…ッ」
「微かだけど、複数の足音がしたわ…敵かも…」
「え、ええ…!?」
「大丈夫よラウラ…貴女は私がまも…」
私の下に庇っている背の低めなラウラを抱く腕に力を込めたら、降ってきたのは聞きなれた声。
「…なにをしてるんだ、ストーリア」
「り、リーダー…!それにみんな…!?」
***
「はははっ、敵兵と勘違いってお前…身内の靴音ぐらい察しろよなぁ?」
「だって貴方たち普段、靴音させて歩いてないじゃない…ラウラの店だからって気を抜きすぎよ」
落ちついてラウラを離し椅子に座りなおして、後からやってきた7人と喋りながら、入れ直してもらったコーヒーをすする。
ラウラは、敵じゃなくて良かったですと笑ってくれたけど、身内にからかいの餌を与えてしまったわ…。
「俺もびっくりしたぜ。ストーリアったら、実はイルーゾォはカモフラで、ビアンだったのかと思ってさ」
「ややこしくなるからメローネは黙ってくれない?違うわよ」
「まあラウラは俺じゃないと満足できないからね、ね!ラウラ!」
「なんの話か私にはわかんないかな!!」
カウンターに引っ込んで、私たちの会話から距離をとってくれているラウラに、笑顔で手を振ってるメローネにため息を吐く。
「でもイルーゾォも確かに一瞬真っ青になってたな」
「なっ!?なってねえよ!!」
「…大丈夫よイル。私ノンケだし、貴方だけだから」
「当たり前だろ!違ったら俺がお前を殺すぞ!!」
「わあおイルーゾォったら情熱的〜」
「黙ってメローネ」
2人を欠いてもそれでも賑やかな居場所に、もう一度息を深く吐き出して、私は行かなければと立ち上がった。
テーブルの向こうから貫くリーダーの視線に、少し口元を緩める。
「必ず帰れ、ストーリア」
「…Yes sir」
イタリア語で答えるのは、やめておいた。
to be continue…