眠れ、Alice
久しぶりにアジトの鏡を抜け出して、街に出てきた。
人ごみの喧騒はあまり好きじゃないが、仕方ない。
花屋で白い花だけを詰めた花束を買った。
俺には似合わないのは重々承知だから、正直つかれた。
チンピラ共の落書きの壁に囲われた古ぼけた教会の裏手に忍びこみ、塗装の剥がれかけた壁を撫でる。
汚い白壁に、こびりついた十字型の血の痕。
致死量の出血を示したその痕は、ありありと2年前のこの場所を思い出す。
日が顔を出した薄暗い明け方。
夜中に通り過ぎた雨に濡れた、草と石畳み。
湿気た中に混じる、濃い血の匂い。
それから、それからーー
壁に描かれたキリストの十字に沿うように引きちぎれた肢体を無数の釘で磔刑にされた、女の姿。
「……ストーリア…」
花束を壁に立てかけて、血の痕に頬を寄せて名前を語りかける。
ソルベとジェラートの後を追い、一人で戦いを挑み、同じように罰を受けた彼女。
どうして、一人で外の世界にでてしまったんだ。
いつものように鏡の中にいたなら、俺が護ってやれたのに。
お前は勇気なんか出さなくて良かったんだ。
外の世界なんて、一秒だって本当はいたくなかったくせに。
「馬鹿だ、ストーリア」
チームの幸せのためにお前が死んだから、俺が幸せの一つを失ったじゃないか。
愛なんてものを、暗殺者が囁くのはおかしいのはわかっているが
お前が死体にされるまでの、最後の一ヶ月。
その時間が焼きついて、離れない。
to be continue…