「「Checkmate」」
「あああァァ…ッ!!」
「…暗殺者は…死んでも、ターゲットの命を奪おうとするものよ…貴女も、馬鹿ね…」
一発限りの弾丸は、女の左足の踝を貫く。
死にいたるには弱いけれど、それでも一矢報いれた。
「ぐぅ…ッこの根暗なクソビッチが…!!よくも私のこの身体に傷を増やしてくれたわね…ッ!!!早く死ねッ!!死んじまえ!!」
「ぐあっ…!!」
傷のない方のピンヒールのかかとが、私の身体に開いた傷口をえぐる。
「イカれた頭で仲間ブチ殺して堕ちた軍人風情が!あの人と絶頂に至ったこの私に…!!あんたはもう殺すわストーリア!!あんたの捨てた名前に相応しい裁きをくれてあげるわアリス・キャロル!!」
優雅さを消し、がしりと私の髪を掴み上げる彼女から、貧困な匂いを嗅ぎ取る。
髪がぶちぶちと引きちぎれる痛みと音を聞きながら、叫ばれた懐かしい名前を反諾する。
アリス・キャロル
随分と懐かしい私の本当の名前。
私のこの名前を知っているということは、きっとこの女は幹部クラスか、それより上か…
まさか、
「貴女は…ボス、の…」
「知る必要のないことよ…!アッディーオ、愚かな裏切り者!」
片手に握られたナイフが、振り下ろされるのが最後に視認した世界。
ああごめんなさいリーダー、私はもう帰れそうにないわ。
ごめんなさいイル、私の安らげる人。勝手に一人で鏡の外に出てしまった報いね。
「(…王手まで、遠すぎる…)」
喉元に突き立てられた衝撃は、私から意識もなにもかもを奪った。
***
喉をかききれば事切れた穴だらけの裏切り者。
よくあれだけ、喋れたものね。
根性だけは軍人らしい。
「…はあ……ストーリア……貴女はこのまま眠らせてなんてやらない……貴女は、端役のトランプ兵のように首を分断してあげる」
そしてあのゲス野郎に緑の女の髪をプレゼントしてあげようじゃない。
身体は、滅多に人なんてこないここの壁にキリストのように磔にでもしてやろう。
きっと恋人や仲間が見つけにきてくれるわ。
なんていい上司なのかしら、私って。
ぐずぐすと喉の傷にナイフを入れ、首を刺しきっていく。
なかなか重労働ね、これ。首の骨って固すぎるわ。
私の力では無理ね。
「ラスト様!」
「!…あら、ドッピオ…」
「遅いから迎えにとボスに言われて…戦闘中だとは思いませんでしたが…って足から血が!!」
「平気よ…ちょっと油断しただけ。それより丁度いいとこにきたわね。この女の首を刎ねてゲス野郎のところに贈りたいんだけど、頼めるかしら?」
「構いませんが…ボスに言わないと」
「…そうね…ディアボロ、ここには私以外誰もいないから出てきて」
私の言葉に困惑したドッピオの様子が一拍おいて変わり、服を脱ぎだし姿をディアボロに変えた。
…やっぱりその地引網服はセンスがないと思うわ。
「…お前が傷をつけられるとはな」
「存外しぶとくて油断したのよ。これだから雑草っていうのは嫌だわ…それより、この女の首刎ねて体をそこに磔にしたいんだけど」
「…部下どもに連絡しよう。お前の足を治療しなければ」
すかさず私を抱えたディアボロの首筋に手を回す。
「いいの?でてきても」
「…妻のお前を連れ帰るくらい、夫の私がやる」
「…ふふ、ならお願いするわ。血でびしゃびしゃだし、骨って固すぎてくたびれたわ」
「ナイフとお前の力じゃあ切れないだろう」
「だってアリスの物語を終わらせるにはハートの女王が必要じゃない」
to be continue…