ダンスの間は集中を

週末の夜中は、私にも表の仕事がある。

新しく立ち上がったギャング組織の正体がわからないボスのその妻、なんてばれないようにね。

1980年代の名曲を、小さなバーの片隅に設けられたステージの上で歌うのが私の表の仕事。

アップテンポで、ときめくような恋の歌。


「(正体がばれないようにするのも、ひと苦労だわ…まあ、悪くない仕事だけど)」


酒場は情報が集まる場所だから、新しい噂や情報を手に入れるにはちょうどいい。

イタリアの裏社会を牛耳るためには、情報は必要なものだもの。


「ライク・ア・ヴァージンか…マドンナとはお似合いだなシニョリーナ」

「あら、ありがとう…聞いてたの」


歌い終わり、ステージから降りれば、随分と綺麗な顔のチンピラのような男が声をかけてきたから、仕事用の笑顔で答える。


「音楽の女神のような歌声が聞こえりゃ聞き入っちまうのが、健全なイタリアーノってやつだ」

「あらそう、素敵ね」

「プロシュートって呼ばれてるもんだ」

「プロシュートねえ…随分と美味しそうな名前」

「味わってみるか?」

「あら残念、間に合ってるわ。これでも普段はいいもの食べてるの」

「は、そりゃあ食われる料理が羨ましいな」

「ふふ、それじゃあ私はそろそろ身支度をして帰らなくちゃ」


よく舌の回る男だと思いながら席を立とうとすれば、また来週もいるぜ、といやらしく笑うプロシュート。

自信満々ね。

まるで、俺に落ちない女はいないみたいな、そんな馬鹿なこと思ってそう。


「…私との火遊びは、火傷じゃすまないかもしれないわよ?色男」


to be continue…




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