「アレが輝いて見えるのはなんでなの」
「…しまった…」
小麦粉がたりないのを忘れてた。
店のことにかまけすぎて、家の食料がたりないのを忘れてた。
ほとんど空の冷蔵庫や棚を開けたまま、腕組みをする。
「…買い物に行くしかないかぁ」
***
「…次はお砂糖だけど、大丈夫?持てるの?」
「平気だよ、これくらい軽いさ」
私の買い物の荷物を抱えているメローネの笑顔を伺う。
いざ買い出しに出ようとした時、アパルトマンの外でバイクを停めて、すごく珍しいことに普通の服を着て待っていたから
多分、食べ物がないことも、私が買いに出ることもわかっていたんだろう。
わかっていたなら買っといてくれたら……いやいや、そうじゃない。
そうしたらまるで同棲中のカップルだ。そうじゃない。
…でも、バイクにのって後ろからしがみついたメローネの背中が案外広いしたくましくて、ちょっときらきらっとした気がした。
多分普通の服を着てるのと、太陽のせいだと思うけど。
思い返していると、メローネが路上の花屋の一つの前で足を止めたことに気づいて、私も足を止める。
「メローネ?」
「…ラウラにはやっぱりこれが似合いそうだね」
「え?」
抜きとったらしいピンクのバラの茎を短く折って、私のカチューシャの隙間に、なんでもないように差し込む。
その慣れた手つきと目を細めた笑顔が、またきらきらとして見えて、ほおが熱くなる。
「やっぱり目と同じ色が似合うな。ディ・モールト可愛いよ」
「!っ…なにやって…」
「なにって、花はデートの基本じゃないか。お姉さん、この花一輪貰ったよ」
デートじゃない、と反射的に言おうとした私をスルーして、花屋のお姉さんにお金を払うメローネ。
顔の熱が、収まらない。
好きじゃないのに。
好きになんか、ならないのに。
「(…どうして今日は、こんなに輝いてみえるの…)…普段は変態のくせに…」
「ふふ…今ならベッドインも期待できるかな?子猫ちゃん」
「…訂正する。常に変態だったね」
なのに、前よりメローネを嫌だと思う気持ちが薄れているなんて、私はまだ、認めたくないの。
だって、変態にしたのが初めての恋だなんて、認めたいと誰だって、なかなか思わないと思うの。
END