「その笑顔、怪しすぎるから」


「ラウラ、この前俺のコレクションブック一冊見せられたでしょ?よく集めたと思わないかい?」

「…まさかそれを自分から嬉しそうに申告してくるなんて思わなかった」


数日後に現れて、店のカウンター席に座ったメローネの悪びれもなにもないセリフにため息がでる。

私はあれを見たことを記憶から抹消しようとしていたのに。

こうもにこにこと言われたら、返事すら思いつかないし、脱力するしかない。


「まあ見られたのは予想外だったけどね、いいよ別に。元はと言えばあの中身のものラウラのだし」

「なんで開き直ってるのさ…」

「だって見られたものは仕方ないからね」

「もういっそ清々しいね」

「俺の愛だからね、あれも」


ふ、と目を細めて甘く微笑む彼は間違いなく美形だし、人間性を知らなかったらきっと私は真っ赤になっていたんだろうけど

残念ながら私は彼の本性を存じているから、その笑顔に怪しさしか感じない。

というか私の全てを全面的に好意的に言ってくることが、まずもう怪しいし。


「…メローネは私の嫌いなところないの?」

「あるよ?俺は聖人君子じゃない」

「どこ?」

「んー…ほぼ全部かな」

「…全部?」


予想外の答えに思わず聞き返せば、そうだよ、と歌うようにかるくかえってくる肯定の返事。

…矛盾してるって。

いや別にメローネに全部嫌いって言われたから傷ついてるわけじゃないけどさ!…けどさ…

あれだけ好きってアピールしてきておいてどういうことか不思議になるじゃない?それだけだよ。

困惑していると、メローネは一つ一つ私の嫌いなところを指折り数えてあげていく。


「その甘いプリンみたいな髪も、ピュアなローズピンクの目も、つっぱねるくせに優しいのも…ああ、それからセックス中々させてくれないのも腹が立つ」


人格というか私の存在全否定なの?

なんだろうちょっともう、泣きそう。

聞くんじゃなかった。

視界が歪んでぼやける。なんで私が傷ついてるの。


「…じゃあ…ストーカー行為は嫌がらせ?」

「いいや、それはディ・モールト愛してるからだ」

「もう…メローネの言ってること意味がわかんない…」

「つまりラウラの全てに途方も無い嫌悪と愛情を感じてるんだ、俺は」

「…?」

「憧れと、疎ましさとも言えるかな…ラウラは、俺とは真逆の人間だからね」


プリンみたいな髪は甘ったるそうで嫌いだけど、梳いてやってつむじにキスしたいくらい可愛い。

ピュアすぎるローズピンクの目は見ててたまに抉りたくなる。だけど、それ以上に汚い俺を見つめててもらうとぞくぞくするんだ。

優しさは踏みにじりたい時もある。でも、そのぬるさが時々すごく恋しくなる。


「だから君の全てが俺は嫌いで、その上で君の全てを俺は愛してるんだ」

「…変だよ、そんなの」

「俺を嫌いなはずのラウラが、俺に嫌いと言われて泣いてる方が変だけどな」

「そりゃいきなり全否定されたら誰だって…!」

「それだけには思えないぜ?」


耐えていた涙を、カウンター越しに伸ばされた手で優しく拭われる。

私を振り回すのが得意で、悲しい以上にちょっと腹が立ってきた。

私もなんであんなに悲しくて、今はこんなにもドキドキしてるの。

メローネなんか…好き、じゃないのに。


「だけどセックスは…これは無理やりは好みじゃないからもう少し同意が欲しいな」

「…今ので台無し」


to be continue…
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