澄み切った音、豊かなリズム。
「卿がプロデューサーさんか、これからよろしく頼むよ」
「・・・主のリズムは、未知の美しさをしてるでござるな」
気づかずに出会ったその魂に惚れ込むのに、理由も時間も、不必要だった。
だが・・・
***
「万斉おめェ・・・朔夜と表の知り合いだったんだなァ?何故言わなかった」
「・・・朔夜が茨姫と同一人物というのは知らなかったでござる。
アイドルの芸名と下の名しか知らなかったでござるからな」
朔夜は晋助が探し続けていた茨姫だった。
茨姫に至っては、名前だけしか聞いていない。
顔も知らなかった。晋助の説明も噂も具体的でない。
まあ理由は本当は違うが・・・
「・・・本当に、それだけだろうなァ?」
「・・・勿論でござる」
その理由を晋助に知られるわけにはいかぬ。
知られれば斬り捨てられるのは目に見えているでござるからな。
「・・・・・・」
「・・・お主から、朔夜をかすめ取る気はないでござる」
晋助が必死で探し続けていた、長く行方不明だった茨姫。
彼らともに戦場を駆け、晋助だけではない、沢山の男たちの目をうばっていた、唯一の美しき女志士。
そして晋助が唯一執着し、恋焦がれ、愛し続けた女。
朔夜は、拙者が触れてはいけない娘だった。
「・・・必ず、朔夜はこちら側に連れてくる」
「その言葉に、偽りはねぇな?」
「無論」
「・・・・・・なら、さっきの懸想を隠す嘘は、しばらく保留にしてやらぁ」
・・・もう一つの理由は、ばれていたらしい。イカレているがやはり鋭い男だ。
恐ろしい。だが、拙者らを統制する以上こうでなくては。
こういう男だからこそ、拙者は晋助を裏切ることはない。
晋助を裏切る企ては立てないし、朔夜を欲することもないでいられる。
「(朔夜は、やはり晋助のものでござる)」
そう己に言い聞かせ、私心を捨てる。
あの笑顔が見たいだとか、歌声が聞きたいだとか、名を呼んで欲しいとか
願わくば、拙者を愛してくれだとか
人斬りあるまじき考えを、晋助の側近あるまじき考えを、心の底に沈めていける。
あの時、口付けて伝えた気持ちは、己の気持ちのけじめのため。
先などはないし、必要もない。
ただ、二度と浮かばせない想いを、聴いてほしかった。
ただ、それだけでござる。
指揮をとる指揮者は、晋助。
その傍で歌う歌姫は、朔夜。
拙者は、その後ろでリズムを崩さぬよう音を紡ぐのみの奏者。
それでいい。奏者が恋に溺れ、音を外すなど、あってはならないのだから。
ーー音外す恋を、奏者はーー
(ただ、願うならば)
(晋助のそばにあっても、変わらずに笑ってくれ)
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