銀魂番外編 | ナノ




ぱしゃん


冷たい墓石に水をかけてやる


まだ新しい花が置いてあるのを見ると、どうやら昨日あたり誰かきたらしい


多分近藤の旦那か、トシあたりだろう


だってこの墓の下に眠っているのは…



「鴨、久しぶりだね」



伊東鴨太郎、その男の骨



「元気だった…っていうのはおかしいか」



苦笑しつつ墓の前にしゃがみ、墓に触れる。


掌から伝わる石の冷たさは、小生と卿の間に明確な線をひいてくる


あの世とこの世


死と生


たった一本の、まだ今を生きる小生には超えることのできない境界線


なにもかもが不確かな世界で、唯一、憎らしいほど確かな差



「…遠いなあ」



例えば彼の骨壷をここから掘り出して抱きしめてみても


それは小生の望む人ではないし、望んでいることではないのだ



「…鴨、会いたいよ」



天才たる小生と同じ孤独を知っていた秀才


人から見ればそれは恋愛ではなく、ただの傷の舐め合いなのかもしれない


でも、小生は本当に



「…恋してたんだよ…卿に…」



この気持ちだけは、誰にも否定はさせない


たとえ卿自身にも。


なのに――



『他に想う相手がいたとしても…』



あんなことを言うなんて失礼というものだ



「あの時、小生が恋をしていたのは卿だけだよ」



卿に恋をした想いだけは


どこまでが虚構か真実かすら、もはや自分にもわからない心の


真実の感情だから



「だからね、忘れないよ。卿に恋したことを」



卿に恋ができて小生は、幸せだったから


卿には、災難でしかなかったかもしれないけど


それでも、小生は卿を好きになってしまったから



「恋をして、ごめんね」



でも大好きだよ、いつまでも



ーー我が想ひが、君を殺そうともーー
(卿という人に愛されて幸せでした)
(限りなく理解を示そうとしてくれた秀才よ)

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